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童話

旅立ちに贈る花

掲載日:2014/12/27

 今年の冬はやけに長い。

 いつもなら新しい花が咲くころなのに、吹きつける風は冷たく、ときおり白い雪がちらちら混じる。

 幼いリサとロイはしっかり手を握り、丘の上をめざした。

 「リサ、だいじょうぶ?」

 「うん、だいじょうぶ。ロイは?」

 「だいじょうぶ。あと少しだよ。がんばろう」

 「うん、がんばろうね」

 おそろいの毛糸の帽子が飛ばされないよう深くかぶりなおして、また一歩ずつ慎重に雪道を登った。

 丘の上には小さな銀のほこらがある。

 毎年冬の間だけ、北の国から冬将軍がやってきて、ふもとの町に雪を降らせたり、池を凍らせたりするのだ。

 寒い冬はつらい。

 町の人々は暖炉の前でじっと身を寄せ合い、早く冬将軍が北の国へ帰ってくれるのを願っていた。

 リサとロイは銀のほこらの扉を押す。

 ぎいぃぃっと重い音を立てて開くと、いっそう冷たい風が吹き出してきた。

 「わあ!」

 「きゃあ!」

 二人はあわてて帽子をおさえ、目を閉じる。

 ようやく風がおさまると、おずおず顔を上げた。

 ほこらの中はまるで鏡のように冷たい銀色で、氷の柱とつららがとげとげと突き出している。

 奥にはやはり氷でできた玉座があり、青ざめた顔の冬将軍が深く腰かけていた。

 長い銀髪の奥に隠れる銀瞳が、少しばかり驚き揺れる。

 「……人間の子らよ、何用ぞ」

 低い声でたずねると、ほこらの中に木枯らしがひゅーひゅー吹き荒れた。

 幼い二人がくっと身を縮めるのを見て、これはいけないと口をつぐむ。

 リサとロイは声をそろえて言った。

 「冬将軍さま。どうか、早く北の国にお帰りください」

 冬将軍は顔をこわばらせ、悲しそうに首を振る。

 それでもリサとロイは懸命にお願いした。

 「もう、薪がなくなりそうなんです」

 「家畜たちは元気がありません」

 町の人々は遅い春を待ちわび、長すぎる冬を案じている。

 冬将軍は『す、ま、な、い』と、声を出さずに唇だけ動かして謝った。

 「どこか、お悪いのですか?」

 リサが一歩近付き、冬将軍の顔を覗き込んだ。

 案じてくれる優しさに、心がほんのり温まる。

 凍った表情を溶かすと、しかし、北の国へ帰るための神通力までなくなってしまいそうだった。

 それでなくとも、日に日に強くなる陽射しにやられているのに。

 ロイも一歩進み、リサを守るようにしっかり抱きしめて言った。

 「僕たちなら大丈夫。どうぞ、話してください」

 勇敢な人間の子らに感謝する。

 なるべく小さな声でささやかな想いを告げた。

 「……私も、花を見てみたい」

 そっと指差す方を見ると、窓の向こうに雪割り花が空を向いて揺れている。

 春一番さえ来れば、すぐにでも咲きそうだ。

 「わかりました。僕たち、春一番を呼んできます」

 「だから冬将軍さまは、いつでも北の国に帰れるように、お支度なさっていてください」

 リサとロイは再びしっかり手をつなぎ、来た道をたどった。

 町に戻り、すっかり遅くなってしまった昼食を済ませ、また二人はいそいそと出かけていく。

 「まったく、子供たちは元気だね」

 大人たちは暖炉を囲み、残り少ない薪をくべてほっとため息をついた。

 「ねえ、リサ。南の町には、もう春が来ているらしいよ」

 「じゃあ、きっと春一番もそこにいるのね」

 南の町なら、おつかいで何度も行ったことがある。

 森の抜け道を使えば、夕方までには帰ってこれるだろう。

 「ねえ、ロイ。池の氷がとけているわ」

 「本当だ。次の冬まで、スケートはおやすみだね」

 そして春になればボートを浮かべて小魚を釣り、夏になれば水泳の練習をするのだ。

 南の町に近づくにつれて日の光はさらに強くなり、汗ばむほどの暖かさになる。

 リサとロイは帽子と手袋をはずし、なくさないようカバンに入れておいた。

 「春一番はどこだろう?」

 大きな瞳でぐるりと町中を見回す。

 木々の葉は青々と茂り、色とりどりの花に虫たちが遊び、小鳥が愛のうたを歌う。

 行き交う人々は幸福そうにほほ笑み、真っ白な洗濯物が軒下ではためいていた。

 春だ。

 二人はうれしくなって、赤いほほをますます赤くして駆け出した。

 「見つけた! 春一番だ!」

 そよ風をまとい、明るい金髪に花冠を乗せた春一番は、にっこり笑ってリサとロイを歓迎する。

 「やあ、小さな冒険者たち。こっちにきて、一緒に春を祝おう」

 春一番が両手を差し出すと、しかし、二人はその手をがっしりつかんで引き返そうとした。

 「わ、わ、待ちなよ。そんなに急いでどうしたのさ?」

 彼らが向かうのは、まだ雪の残る寒い北の町。

 「お願いです、春一番」

 「私たちの町にも、早く来てください」

 「ううん、困ったね。冬将軍が帰ってくれないと、北の町には入れないよ。僕は寒いのが苦手なんだ」

 リサとロイは顔を見合わせた。

 そしてカバンからおそろいの帽子と手袋を取り出し春一番に渡す。

 「どうぞ、これを使ってください」

 春一番は喜んでそれらを受け取った。

 可愛らしい雪柄の帽子と手袋、つけるとふんわり暖かい。

 「ありがとう。お礼に、やさしい姫には花冠を、勇敢な騎士には春風のフルートを貸してあげよう」

 春一番は二人の手をぎゅっと握りしめ、大きく息を吸って力をためた。

 「さあ、三人で君たちの町に春を告げにいこう!」

 えいっとかけ声をかけて飛び上がると、みるみるうちに建物の屋根が、森の木々が、池が、小さく小さくなった。

 強い風がびゅうびゅう吹きつけても、リサとロイは目をつむることを忘れて、ただ初めて見る空からの景色に驚いた。

 「私の家が見える!」

 「僕の家もだ!」

 彼らが通り過ぎたあとには、雪の下で眠る大地が目を覚まし、新しい花がいっせいに芽吹き、小さな動物たちがよく寝たとのびをする。

 突然の春の訪れに驚いた大人たちは窓を開けて空を見上げた。

 「おーい、おとうさーん、おかあさーん!」

 「春が来たよー!」

 はるか頭上より手を振るリサとロイに、大人たちも手を振り返してやる。

 「やあ、本当に春をつれてくるなんて、たいしたもんだ」

 「あんなに高く上がっては危ないわ」

 「大丈夫。優しい風が守ってくれる」

 大人たちが見守る中、リサとロイと春一番は町をぐるりと一周し、そして丘をめざして飛び去った。

 あたりには甘い花の香りが残る。

 いよいよ銀のほこらが見えてくると、さすがに寒さが厳しく春一番の力が弱まった。

 「もう少しだけ、がんばって」

 「冬将軍さまに、お花を見せてあげたいの」

 空を飛ぶのをやめ、リサとロイは春一番の前を歩いて北風から守ってやる。

 「ありがとう、頼れる守護者たち。僕も冬将軍のためにがんばるよ」

 強く優しい人間の子らに勇気づけられ、春一番も懸命に雪道を歩いた。

 ロイは預かった春風のフルートを吹き鳴らす。

 ひゅろろっと小さなつむじ風がおこり、雪がとけて茶色い土が現れた。

 リサはフルートに合わせてくるくる踊る。

 花冠からこぼれた花の種がいっせいに花開き、大地を赤や黄色に彩った。

 窓辺の花も咲いている。

 さあ、準備は整った!

 春一番は勢いよくほこらの扉を開く。

 「やあ、冬将軍! 待たせたね!」

 氷の玉座に座ったままの冬将軍はゆっくり顔を上げ、そして驚きのあまりため息をついた。

 もう、木枯らしは吹かない。

 ほこらの外には、丘を埋めつくすほどの一面の花。

 「……ありがとう、心優しき人間の子らよ」

 ほほ笑む冬将軍は、まるで朝日を浴びた池の氷のようにきらきらと輝く。

 「冬将軍さま、次の冬も雪を降らせてくださいますか?」

 「私もロイも、トビーもメグも、みんな雪遊びを楽しみにしています」

 「……約束しよう」

 冬将軍はこの美しい景色をまぶたに焼きつけ、人間の子らの優しさを胸に抱き、北の国へと旅立っていった。




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