シンデレラの舞踏会
かぐや姫と鶴は5日間の旅で月へ向かっていました。
「ねえ、鶴…いえ、モルガーナ?玉手箱の用意はできているの?」
「もちろんです。桃太郎様には最高のお土産を持って帰っていただかなくてはなりませんからね。…もちろん、打ち出の小槌も用意してありますよ?」
「もうその話はいいから…!」
「姫様は本当に顔に出ますね。」
そして5日後、2人が月に到着した頃には王城では舞踏会の用意が整っていました。
「ただいま戻りました、王様。」
「お疲れ様、かぐや姫?」
「その呼び方は…」
「かわいいと思うけどね、その名前。桃太郎と同じ名付け親だとは思えないよ。」
「悪かったな、ひねりのない名前してて…」
「まあまあ、僕なんて一寸しかない一寸法師ですから。」
「それなんだけど、もし身長が一寸じゃなくなったら名前変える?」
「どういう意味ですか、姫様?」
王と幼馴染3人がそんな話を弾ませている傍ら、シンデレラと赤ずきんは今夜の舞踏会のことを考えていました。
「シンデレラはアーサーさんと踊るんでしょ?」
「ええ、王子様じゃなくて王様だったのが心残りだけど、悪い人ではなさそう…」
「私もそう思う!…そう言えばかぐや姫さんは一寸法師さんと踊るのかな?」
「…無理じゃない?」
そのとき、鶴…いえ、モルガーナが金色に光る小槌を持ってきました。
「ありがとう、モルガーナ。」
「姫様、もしかしてこれで僕を大きくすることができるのですか?」
「その通りよ。その名も打ち出の小槌。」
かぐや姫は小槌を降り始めました。すると、一寸法師はみるみる大きくなり、桃太郎にも引けを取らない男になりました。その姿はかぐや姫が一瞬にして顔を赤らめたほどです。
「一寸法師さん、かっこいい!」
「かぐや姫さん幸せそう…」
「姫様がぞっこんな理由がわかったような気がします。」
女性陣からの評判は上々でした。
「今まで僕がよく見られていなかっただけではないでしょうか…?」
夜。王城では舞踏会が開かれました。みすぼらしい服を着ていた姿からは想像もつかないほどシンデレラの踊りは華麗で、見るものを引きつけました。まさにシンデレラとアーサーは息のあったペアでした。
「美しい上に踊りも綺麗だね。」
「私だって貴族ですから…当然の嗜みです。」
ドレスに着替えたかぐや姫もまたシンデレラに勝るとも劣らぬ美しさでしたが、それを見せつけるというよりはむしろ踊りに不慣れな一寸法師に踊りを手ほどきするような踊りでした。
「好きな人と心を一つにするって、とてもいいものですね。」
「…今、私のこと好きな人って言った?」
「はい、何年も前から姫様が僕の好きな人です。」
赤ずきんと桃太郎は見よう見まねで踊ってみたもののうまくいきませんでした。
「みんな踊るの上手だね。すごく練習したんだろうなぁ…」
「…俺は、踊れる女よりもお菓子を作れる女の方が魅力的だと思う。」
「ん、何か言った?」
「いや、なんでもない。」
「…私も、踊れる男の人より頼れる男の人の方が好きかな。」
舞踏会は、それぞれの人にそれぞれ特別な感情を起こしました。そして次の日、桃太郎と赤ずきんが帰るときになりました。一寸法師とシンデレラは月に残ることになったのです。
「会うのはこれで最後になるんですね、桃太郎様。」
「自分で月に残ると決めたんだから、後悔はするな。」
「…そうですね。桃太郎様、今まで僕を近くに置いてくれてありがとうございました!」
桃太郎と一寸法師が別れの挨拶をしているところへかぐや姫が箱をもって来ました。
「桃太郎、これお土産。でも、絶対に開けてはだめよ。」
「土産なのに開けてはいけないのか?」
「…私はこれをあなたに渡す義務があるの。月の決まりだから、受け取って。」
「…わかった。かぐや姫も元気でな。」
ちょうど赤ずきんとシンデレラの別れの挨拶も済んだので、桃太郎と赤ずきんは月を経ちました。もちろん、1秒後には見覚えのある森の中に戻っていました。
「シンデレラ…やっとシンデレラの笑顔が見れたと思ったのに…」
赤ずきんはずっと涙を堪えていました。シンデレラとは笑顔でさよならを言うんだと決めていたのです。堪えていた赤ずきんの涙は一気に流れ始めました。
「桃太郎さん…桃太郎さんはいなくなったりしないでね…?」
赤ずきんは桃太郎に飛びつきました。そのとき、桃太郎が持っていた玉手箱が宙を舞い、蓋が開いてしまいました。中からは白い煙が出てきて2人を包み込みました。
「いや、消えちゃだめ…桃太郎さん!!」
そして煙が消えた頃、赤ずきんの前から桃太郎の姿が忽然と消えてしまいました。
次回、ついに最終回!
…となるところでしたが、誘拐された赤ずきんのお母さんのその後を書いてないことに気づいたので蛇足ながら書いていこうと思います。