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63代目竹取の翁  作者: 相戯陽大
讃岐の造一族の起源
5/10

かぐや姫の里帰り

「はい、では役も揃ったところで出ていただきましょう。」


桃太郎、一寸法師、鶴、赤ずきん、シンデレラ、ヘンゼル、グレーテル。鶴の声が響き渡ったこのお菓子の家のドアが開きました。


「お前…!」


「姫様…!」


「かぐや姫、一体どういうことなんだ…?」


「お久しぶりね、桃太郎、一寸法師?」


攫われたはずのかぐや姫は2人に軽い挨拶をするとこう続けました。


「言われなくても説明するつもりよ? まず、鶴と私は月の世界の住人。月にも王子はいるんだけど、鶴は王子に相応しい姫を探しに地球へ来たの。でも、なかなかうまくいかないものね、王に相応しい人は会うことさえ難しい人たちばかり。そこで役立たずの鶴の代わりに私が地球に来て作戦を立てて実行させたのよ。狼男っていう邪魔者は入ったけど、概ねうまく行ったんじゃないかしら?」


「じゃあ、今までの兄弟としての生活は作戦のうちってわけか?」


「桃太郎様、そんな言い方…」


「いいのよ、一寸法師。最初はその通りだもの。でも、桃太郎と一緒にいるうちに、本当に兄弟みたいに思えて、ずっと兄弟でいたいとさえ思うようになったのも事実。」


「桃太郎様だけではないですよね、姫様?」


鶴が口を挟み、今度はかぐや姫はあからさまに赤面しました。しかし誰にも見られてはいませんが、一寸法師の顔も赤みを帯びていました。


「…確かに、かぐや姫の一寸法師への好意が演技だとは思えない。」


「桃太郎、あなた気づいてたの!?」


「あんなにニヤニヤしていたら嫌でも気づくだろ。」


そして、何も知らず置いてけぼりのシンデレラがやっと口を開きました。


「えーと、とりあえず…赤ずきんは助かるの?」


「ええ、ただし条件があるわ。」


かぐや姫はシンデレラに向き直り、微笑みました。


「約束通りシンデレラが月の王子と踊ってくれたら、よ?」


「そんなの…むしろこちらからお願いしたいくらい。私、王子様と踊るのが夢だったの。」


「よかった。もちろん結婚までは強要しない、ただそこまで考えておいてくれればいいわ。」


かぐや姫は全員に向き直ると、再び説明をはじめました。


「とりあえず、そういうことだから赤ずきんとシンデレラは月へ来てもらうわ。もちろん月の住人の鶴と私は帰る。桃太郎と一寸法師は一緒に来る?」


「…姫様は一度月へ帰れば、私は永遠に姫様と会うことができないのですか?」


「そうね。月の規則で用もなく月とこの地を行き来できないことになっているから、私はおそらく2度とここへは来ないわ。ただ、ここで生まれた人の行き来は自由よ。」


「では…私は月でも姫様に身を捧げることはできるのですか?」


「…ええ。」


「ならば迷いはありません。姫様のお供をさせていただきます。」


「…俺はおじいさん達の世話をしてやらなければならないが、見送りくらいはする。」


「2人とも、ありがとう…」


こうしてみんなで月に行くことになりそうでしたが、不満を持っている人がいるようです。


「月に行くなんてやめておきなよ。私とヘンゼルは行かないよ?ね、ヘンゼル?」


「ちょっと待ってってば、グレーテル!あの、桃太郎さん。この手紙後で読んでください。」


グレーテルは家の奥へ行ってしまい、ヘンゼルは桃太郎に紙切れを渡すとグレーテルの後を追いました。


「…あれはどういうことだ?」


「あの子たちは親の愛を受けずに育ったので、特にグレーテルは少しひねくれいているところがあるんです。叔母の私がしっかり愛してあげられればよかったのですが…」


「…そういうことならいい。生き返らせることができるとはいえ自分の妃を得るために人を騙そうとする王だ、嫌いにもなる。」


それから少しすると、月から使いがやって来ました。使いたちは白銀に輝く籠のようなものに乗って来たので、桃太郎たちには月の光でとても輝いて見えました。


「 はじめまして、月からお迎えに参った者です。急で申し訳ありませんが、5日間の旅と1秒の旅のどちらかを選んでいただきます。」


「…なぜそうも極端なんだ?」


「5日間というのは比較的に体の安全な旅ができる速さで進んだ場合の時間であり、1秒というのは可能な限り速く進んだ場合の時間です。」


「月へ行く途中、どうしても気分が悪くなってしまうの。だからすごい速さで移動する方法が作られたのよ。本当は王族しか使えない高級なものなんだけどね。」


「特別体の弱い人もいない。使っていいというなら1秒で行こう。一寸法師、シンデレラ、いいな?」


「僕は大丈夫です。」


「…私も。」


「かしこまりました。」


次の瞬間、桃太郎、一寸法師、シンデレラ、赤ずきんの四人はあっという間に月へ飛ばされていました。


「…本当に一秒でここまで来れるんですね。」


「ああ、驚きだな。」


「ねえ…ここに飛ばされたのってあなたたち2人と赤ずきんと私だけ?」


「そのようですね…何か事故でもあったのでしょうか?」


「かぐや姫と鶴は月の住人だ、なんとかなるだろう。それよりも赤ずきんを生き返らせることが先決だ。幸いここは城下町、俺たちは王城へ向かおう。赤ずきんは俺が担いで行く。」


「ええ、それがいいみたい。」


王子のいる城へ向かう途中、城下町で3人が見たのは兎、狸、猫など動物の姿をしていて、そのすべてが人の言葉を話している生き物たちでした。そんな珍しい光景に目を奪われながら、ようやく辿り着いたお城もこの世のものとは思えないほどに美しく、3人の目を奪うのでした。


「4万里の彼方から長旅ご苦労様。私がこの月全体を治めている王、アーサーだ。エラというのは君かな?」


「…はい。」


ついにすべての事件を牛耳っていた張本人、月の王アーサーと対面することができました。桃太郎と一寸法師にはアーサーにいいたいことが山ほどありましたが、赤ずきんの命という人質がある以上はアーサーの機嫌を損ねることはできませんでした。


「エラ。私はずっと君を見ていたんだ。両親を失い、シンデレラと呼ばれ継母たちにさんざんいじめられ…ああ、なんて美しいんだ!できることなら私は君に手を差し伸べたい!君が私の手を握ってさえくれれば、私は君をいつまでも守る!」


「では、私の大切な友達も救ってくれますか…?私のはじめての、1番の友達なんです。」


「赤ずきんのことだね、もちろん助けるとも。…エラ、できれば少しの間目を閉じてくれないかい?」


シンデレラが言葉通り目を閉じると、アーサーはあろうことか赤ずきんに口付けをしました。


「おい、随分と女好きな王子様だな?」


「君は、桃太郎、だったね。違うんだ、僕に口付けされた死体は生き返る。あくまでもエラのためだよ。」


「俺には薬を口移ししたように見えたけどな…」


アーサーの言ったとおり、赤ずきんは長い眠りから覚めたように目を見開きました。


「うーん…あれ、私マッチを売ってたら眠くなって…どうしたんだっけ?」


「赤ずきん、よかった…!」


「シンデレラ、どうしたの?え、ここどこ?桃太郎さんと一寸法師さんまで…!?この人だれ…私にキスした…!!?」


「だいぶ混乱してるみたいですね…」


「それはそうだ、死んだ人間が生き返るのに混乱で済んだのは月の力のおかげさ。」


こうして無事赤ずきんは生き返り、赤ずきんの家族を取り戻すことができました。


「あの子たち…かぐや姫と呼んでいるんだっけ?かぐや姫たちが帰ってくるのは5日後だ。それまで君たちはここに泊まっていけばいいよ。帰ってきた日に舞踏会だ。メイドたちは舞踏会の準備を!」

白馬の王子様のイメージの元がアーサー王だという説を聞いたので、月の王様の名前をアーサーにしてみました。話にアーサー王伝説を織り込もうとは思っていませんので悪しからず。



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