赤ずきんのおつかい
昔々、桃太郎は助けた鶴に連れられて森の中に来てみれば絵にも描けない美しさ。
桃太郎は財宝を掘り当てる犬、針の刀を持つ一寸法師、機を織る鶴を連れて鬼ヶ島へ向かうことになりました。かぐや姫が囚われているかもしれないからです。しかしそれは予測でしかなく、鶴がこの森の中に囚われているかもしれないと言うので寄り道をすることになりました。
「…さすがにきびだんごだけで生きていくのは無理だ。」
「ここは果物の木がたくさんありますよ。少し取って行きましょうか?」
「鶴、お前はあんなに高いところまで登れるのか?」
「お二人が少しの間目をつむって頂ければたくさん取って参りますよ。」
きびだんごに飽きを感じている桃太郎と一寸法師は、鶴の言葉に従い目をつむることにしました。その瞬間に鳥が羽ばたいたような音がし、すぐに鶴の声がまた聞こえました。
「…はい、果物を取ってきましたよ。」
桃太郎と一寸法師が目を開けるとそこに果物はあるものの、鶴の姿が見当たりません。そしていつの間にか犬もいなくなっていました。
「鶴…このちょっとの間にどうやっていなくなったんだ…?」
「考えている場合じゃありません、桃太郎様!早く探さないと鬼ヶ島以外の当てというところがわからなくなってしまいますよ!」
「いや、最初からあいつに当てなんてなかった、鶴は俺たちをここへおびき寄せたかっただけなんだ。そうでなければここでいなくなるわけがない。」
「ではなぜここなのでしょう?」
「…ここに何かあることは間違いない。気をつけろ。」
一方、この森の中に赤ずきんと呼ばれる少女が住んでいました。千数百年後、彼女を中心に世界が変わるのですが、それはまだ彼女は知らない話。赤ずきんはお母さんと2人で暮らしていますが、今日は2人でりんごパイを焼いたのでおばあちゃんの家まで持っていくことにしました。
「オオカミには気をつけるのよ?」
「はーい、行ってくるね!」
赤ずきんがおばあちゃんの家に向かう途中、綺麗なお花畑があったので、摘んでいくことにしました。そうすると赤ずきんは花を摘むのに夢中になっていて、後ろで青年が赤ずきんを見ているのに気がつきませんでした。
「お嬢さん、さっきからアップルパイ放っておいてるけど大丈夫?」
「えっ…あーっ!ありさんが来ちゃってる!」
赤ずきんがアップルパイを見ると、一匹のありがバスケットの中に入ってしまっていました。
「大丈夫、まだ食べられてはいないみたいだよ?」
「よかった…食べられる前に教えてくれてありがとう、お兄さん。」
「うん、間に合ってよかったね。これからどこへ行くんだい?」
「おばあちゃんの家に行くんだよ。アップルパイ食べてもらうの。」
赤ずきんはアップルパイのバスケットに摘んだ花を飾り、大切そうに抱えました。
「それならこの道を通るより向こうの道を通った方がいい。すごく綺麗なお花が咲いてるよ。」
「うん、いろいろありがとう!」
赤ずきんは青年に教えてもらった道をかけていきました。しかしこの青年、赤ずきんのおばあちゃんの家に先回りするために遠回りの道を教えたのです。赤ずきんよりも早くおばあちゃんの家に来た青年は赤ずきんに化けました。
「おばあちゃん、私だよ。アップルパイ焼いて来たんだ!」
「おやおや、よく来たねぇ。おあがり。」
おばあちゃんが扉を開けて見ると、そこには赤ずきんの姿はなく、見ず知らずの青年が立っていました。
「ねぇ、おばあちゃん。よく確認もしないで扉を開けちゃダメだよ…?」
赤ずきんの声を真似た青年が現れたと思ったら、今度は青年ではなくあの犬が現れました。そして、おばあちゃんの体に噛みつき…
一方赤ずきんはと言えば、また知らない人に遭遇しました。1人は普通の少年ですが、もう一人はその少年の肩に乗っている1インチくらいの少年でした。
「こんにちは、ちょっと探しているものがあるのですが…」
「えーと、はい、すごく小さいね?身長とかじゃなくて、全体的にだけど。」
「そうですね、生まれつきです。…で、和服を着た女性と犬を探しているのです。」
「女の人は見てないけど、和服の男の人なら見たよ。」
「そうですか…」
「…いい匂いがするな。このきびだんごとそれ一切れ、交換してくれないか?」
「きびだんご…?うん、一切れならいいよ。」
やっとまともな料理にありつけた二人は、少し元気が出たようです。
「お兄さんたち名前はなんて言うの?」
「桃太郎だ。」
「僕は一寸法師と言います。あなたは?」
「メイジーっていうんだけど、みんなから赤ずきんって呼ばれてるから赤ずきんって呼んで!」
桃太郎と一寸法師は鶴と犬を探す当てがないので、きびだんごをおばあちゃんに渡すという名目で赤ずきんについて行くことにしました。
「おばあちゃん、メイジーだよー!」
「あら、メイジーちゃん。上がってちょうだい。…あら、その人たちはどちら様?」
「さっき道で会った桃太郎さんと一寸法師さん。人を探してるんだって。」
「こんにちは、一寸法師といいます。…桃太郎様、どうしたんですか?」
桃太郎は何か物思いにふけていました。それもただぼうっとしていたわけではありません。
「ああ、ちょっと気になることがあってな…赤ずきん、お前はおばあちゃんからは名前で呼ばれてるのか?」
「ううん、おばあちゃんがつけたあだ名だし…ってあれ?おばあちゃんさっきメイジーって呼んだ?」
「…」
おばあちゃんは黙り込んでしまいました。それでこのおばあちゃんを疑い始めた一寸法師も言いました。
「この家、血の匂いがしませんか…?」
「本当だ、でもおばあちゃんはお肉捌いたりできないよね…?」
「…」
次の瞬間、おばあちゃんだと思っていた人が急に本当の姿を現しました。そう、このおばあちゃんは犬が化けていたものだったのです。
「…犬、お前どういうつもりだ?」
「まず一つ言わせてもらうが、お前たちは俺を犬というが、俺は狼だ。そして、俺はメイジーの母親を攫い、祖母を食った。」
「じゃあ姫様を攫ったのは…」
「それは俺じゃない。」
「嘘でしょ!?おばあちゃんを食べちゃったなんて、しかもお母さんまで…!」
「…落ち着け。俺は生まれつき馬鹿力の桃太郎、犬一匹に手こずる男ではない。」
「だから狼だ!…確かにお前と戦ったら俺が負けるのは目に見えている。だが、俺が死ねば赤ずきんの母親の居場所はわからなくなるぞ?」
犬…いえ、狼が逃げようとしますが、桃太郎ですら止めようとできませんでした。誰も追いません。追ったところでどうすることもできないからです。
「…桃太郎さん、私も桃太郎さんたちと戦いに行ってもいいかな?」
「ダメだ。これからどんな危険があるかわからない。それは俺や一寸法師もそうなんだ。」
「じゃあ諦めろって言うの!?お母さんがさらわれてるのに!!」
「違いますよ、赤ずきんさん。1度準備をし直すんです。絶対に諦めないのが桃太郎様です。」
「そんな大それたものでもない。…赤ずきん、これから住む場所もないだろうから俺たちの家まで来ないか?」
「うん…ありがとう…」
こうして3人は1度おじいさんたちの屋敷に帰ることになりました。しかし犬がいなくなり鶴もいなくなってしまったのでおじいさんたちは残念がりました。
つるじいさんの屋敷にて。
「これからお世話になります、メイジーです!」
「元気がよくて何よりじゃ。着物ならいくらでもあるし、食べ物の心配もいらん。くつろいでいなさい。」
「何もしなくていいっていうのはちょっと…落ち着かないかな。」
森で母と2人で暮らしていた赤ずきんには家事もせず木の実も取らず着物を着てじっとしていることなんて出来ませんでした。そこでつるじいさんはお茶会などで面識のある金持ちたちにメイドを雇える人を見つけ、赤ずきんを紹介することにしました。しかし、そこでも事件は起こってしまうのです。
赤ずきんはメイジーっていう名前があったそうです。でもグリムが作った名前ではなく20世紀に入ってから付けられた名前のようです。
思い思いのキャラクターを想像してもらうために容姿の描写は必要最低限にすることにしました。