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63代目竹取の翁  作者: 相戯陽大
讃岐の造一族の起源
2/10

一寸法師の鬼退治

昔々あるところに、おじいさんとおばあさんが2人ずついました。


1人のおじいさんは大きな犬を飼っていました。そして両ほほに大きなこぶがついていたので「こぶじいさん」と呼ばれていました。こぶじいさんの犬は大判小判が埋まっている場所を教えてくれる天才だったので、年をとってからは犬を頼りに大金持ちになりました。


そしてもう1人のおじいさんは「鶴」という名前の女性を養っていてこぶがついていないので「つるじいさん」と呼ばれていました。鶴は機織りが得意できれいな着物を織っていましたが、自分が機を織っているところは誰にも見せませんでした。つるじいさんは鶴の着物を売らずに置いていました。生活は自分で竹を使って道具を作り、それを売るという商売をしてやりくりしていました。


こぶじいさんとつるじいさんは若い頃から仲良しでしたが、もともとつるじいさんについていたこぶが鬼に取られこぶじいさんにつけられたということがあってから、今はこぶじいさんはつるじいさんを少々よく思っていません。


さて、つるじいさんは竹やぶへ道具の材料を取りに、つるばあさんは川へ洗濯物をしに行きました。案の定つるじいさんは光る竹を、つるばあさんは大きな桃を見つけました。それぞれ中から赤ん坊が出てきて、それぞれ桃太郎、なよ竹のかぐや姫と名付けました。その後もつるじいさんが竹やぶへ行くと光る竹が見つかり、その中から次から次へと金銀財宝が出てきました。こうしてつるじいさんもこぶじいさんに負けないくらいの大金持ちになりました。つるじいさんとつるばあさんはとても幸せでしたが、一つだけ気になることがありました。かぐや姫が夜に月を見て泣くことです。理由を聞いても教えてはくれず、そのことだけが気がかりで日々を送っていました。


こぶじいさんとこぶばあさんは子宝に恵まれたつるじいさんとつるばあさんを羨ましく思いました。そこで神社で子供が欲しいとお願いをすることにしました。すると、生まれたばかりのかぐや姫よりも小さい男の子ができました。かぐや姫は成長して普通の大きさになりましたが、この男の子は成長しても小さいままだったので、一寸法師と名付けました。こぶじいさんとこぶばあさんはとても幸せでしたが、一つだけ気になることがありました。それは一寸法師がつるじいさんの家でかぐや姫の護衛の仕事をしていることでした。今はこんなにも幸せなのでこぶじいさんのつるじいさんへの恨みはそれほど強くはないものの、それでもあまりよく快くは思ってはいませんでした。


多少のわだかまりや気がかりはあるものの、2人のおじいさんと2人のおばあさんはそれぞれ幸せに暮らしていました。


ある日のこと、かぐや姫の生まれた竹やぶの中。深い山の中でかぐや姫と桃太郎が遊んでいるところに一寸法師がかけてきました。


「姫様、そろそろお客様が来る時間ですよ!」


「あら、一寸法師。私はお見合いなんてする気はないわよ?」


「はぁ、またそんなことを…困ったものです。桃太郎様も何か言ってくださいよ…」


「結婚したくないならしなくてもいい。おじいさんの後を継ぎたいならそれはいいことだ。」


かぐや姫と桃太郎は実の兄弟ではありません。しかし温和なつるじいさんとつるばあさんに育てられ、2人とも活発に成長しました。そのため2人で山へ入って遊んでばかりいるので、小さな一寸法師の体ではとてもかぐや姫を守ることはできないのです。


「ではこうしましょう。姫様が例のお客様に課題を出し、それが成されれば結婚してもらいます。」


「それなら、蓬莱の玉の枝を持ってくるように言いなさい。」


「そんなの…わかりました、仕方ないですね。」


かぐや姫に求婚する人は何百人もおり、その中でも今回のお客様は皇子でした。しかし、かぐや姫はそれでも結婚する気などさらさらありませんでした。


満月の夜、かぐや姫の部屋。この時間になるといつもかぐや姫は月を眺め涙を流していましたが、今夜は少し違うようです。


「鶴、いるかしら?」


「はい、かぐや姫。今日もあの護衛の方の話でしょうか?」


かぐや姫は満月を見ながら、鶴に背中を向けて話していたため赤面していたか定かではありませんが、おそらくしていたでしょう。


「ち、違うわよ!」


「そうでしたか。てっきり今日も一寸法師が姫様の恋心に気づいていないと嘆かれるのかと…」


「嘆きたいのは山々だけど…ってそうじゃない!」


鶴がくすくすと笑う声はかぐや姫には聞こえていたでしょう。少しして落ち着きを取り戻したかぐや姫はこう続けました。


「率直に言うわよ…あなた、何者なの?」


「…さすが姫様です。私が姫様や桃太郎様同様に普通の人間でないことを見通されましたね。」


「普通の人間でないことはおじいさんやおばあさんだってわかっているわ。糸も持たずに機を織るんだもの…」


かぐや姫は鶴に向き合いました。その顔には涙があるどころか強い意志が現れていました。


「私が聞きたいのはあなたや私に比べれば桃太郎や一寸法師は普通の人間なのかしら、ということよ。」


鶴はそれを聞いて、月の光に当たらないところでその姿を明かしました。うっすらと見える鶴の影、そして鳥の羽ばたきの音。


「おっしゃる通りです。しかし姫様、特別なのは私たちだけではありませんよ?」


次の朝、つるじいさんの屋敷。かぐや姫が屋敷から消えてしまいました。つるじいさん、つるばあさんはもちろん、桃太郎も一寸法師も心配しました。結婚したくないという不満こそあったものの家出をするような理由も思い当たらなかったので、誰かが誘拐したのではないかと疑うようになりました。


「こぶじいさんの家にはいません。この一寸法師が保証します。」


「…正直こぶじいさんを疑っていたが、一寸法師が言うなら信じよう。他にかぐや姫を攫いそうな者はいるか?」


「いるとすれば、姫様に求婚していた皇子ではないでしょうか。皇子の位ともあれば容易いことでしょう。」


「いや、鶴に皇子の屋敷へ向かわせたが、皇子自身が昨日の昼から蓬莱の玉の枝を取るために留守をしていたそうだ。」


「では、やはりあいつらが…」


桃太郎と一寸法師が最も恐れていたことがありました。それは…


「鬼がかぐや姫を攫ったかもしれないな…」


鬼、それは牛の角をつけ虎の皮を身にまとった妖怪。桃太郎が生まれる前につるじいさんのこぶをとったのも彼らですが、そのころは人間の家を襲い物を奪うという事件を多々起こしていたのです。


「仕方ない、鬼ヶ島へ行こう。前々から鬼を懲らしめなければならないと思っていたところだ。」


こうして桃太郎と一寸法師の鬼退治の計画が始まりました。初めは仲間を集めるところから始まりましたが、相手が鬼ともなると戦おうと名乗りあげるものはいませんでした。


十六夜、こぶじいさんの屋敷。


「一寸法師や、本当に鬼を退治しにいくのかね?」


「はい、おじいさん。僕は鬼ヶ島で死んでしまうかもしれません…でも、どうしても姫様を助けたいのです!」


「わしもあいつらにこぶをつけられた恨みがある。…じゃが、わしはあのつるつるのじいさんの娘のためにお前を失うほうが納得がいかん。」


「でも…!」


「だから、あの犬を連れてお行き。あいつは賢いし強い。お前を乗せて歩くことだってできるだろう。だから…生きて帰ってきなさい。」


「おじいさん…ありがとうございます!」


同刻、つるじいさんの屋敷。


「桃太郎様、私を鬼ヶ島へお連れください。」


「鶴か…。気持ちは嬉しいが、お前を危険な目に合わせるわけにはいかない。」


「では、お見送りだけでもさせてください。海を渡る直前まででも構いません。」


「それなら止めはしない。だがなぜそこまで俺たちに付いてきたがるんだ?」


「私には鬼ヶ島以外にもう一つ、姫様がさらわれた場所に心当たりがあるのです。そこがちょうど鬼ヶ島と同じ方向なので案内をしたいと思いまして…」


こうして集まったかぐや姫を助ける部隊は4人、桃太郎、一寸法師、犬、鶴だけでした。しかし、鬼ヶ島以外に行く当てがあるのであれば4人でもかぐや姫を救えるかもしれません。そんなささやかな希望を胸に、桃太郎はつるばあさんのきびだんごを、一寸法師はこぶじいさんの針の刀を持って二つの大屋敷を後にしました。

桃太郎さんの若かりし頃の話です。これを書いているときの僕は「1章でフラグ立てすぎたな」と若干焦っていました。

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