ハートのクイーンの調停裁判
アリス、親指姫、ヘンゼル、グレーテル、ウサギ。静まり返った裁判所で、5人だけの調停裁判が開かれました。
「アリス、私ちょっと言い過ぎちゃったみたい。」
「私もグレーテルの気持ちを考えてなかったわ。ごめんなさい。」
「でもね、アリスには私を許さないでほしいの。アリスが私を許したら私はアリスを許さないからね?」
アリスはさっきの反省をしてグレーテルの気持ちを考えようとしましたが、今度は考えてもわかりませんでした。
「許してほしいの間違いじゃなくて?」
「うん、許さないでほしい。私は狼さんにアリスをこの国に閉じ込めさせて、アリスはずっと赤ずきんには会えないの。だからアリスは私を憎むのが当たり前でしょ?」
「じゃあ、やっぱりグレーテルは私が嫌いなの?」
グレーテルは困った顔をしました。グレーテルがどう話していいのか分からなくなってしまったので、代わりにヘンゼルが話し始めました。
「今のグレーテルはハートの女王なんだ。アリスと仲良くしちゃいけない。だから好きでも好きって言えないんだよ。」
「そんなことないわ。ハートの女王だって仲良くすればいいじゃない。それに、ハートの女王にならなきゃいけないわけでもないもの。」
「理由は教えられないけど、グレーテルは意地悪な女王様じゃなきゃいけない。だけどそれはグレーテルが意地悪をしたいからっていうわけじゃないのは分かってほしいんだ。」
アリスはその理由を聞き出したくて仕方がありませんでしたが、ヘンゼルとグレーテルが悪いことをしているわけじゃないと信じました。そこを見計らい、ウサギは小槌で机をコンコンとたたきました。
「判決、ジャックは無罪!これにて裁判は終わり!解散!ああ、今度は月で餅つき大会だ、遅刻だ!」
ウサギは懐中時計を見てそう言うと、ぴょんぴょんと裁判所を出ていきました。時計を見ると午後の6時。親指姫は大きなあくびをしながら言いました。
「日が暮れてきたね、アリス。私たちもそろそろ今晩泊まる場所探さなきゃ。」
「ハートのお城なんて素敵だと思うけど、仲良くできないんだったら泊めさせてもらえないわね。」
それを聞いていたのかたまたまか、裁判所の扉が勢いよく開いて、またウサギが入ってきました。
「ああ、誰か芸ができる人を連れて行かなければいけなかった!アリス、ダンスはできるかい?」
アリスは親指姫と顔を見合わせました。少しうなずいてから再びウサギに向き直ると、手を胸の前で組んで言いました。
「もちろん、私はダンスが大の得意よ。でも今日は寝る場所がないの。」
「それなら大丈夫、月に行けば王宮のふかふかのベッドで一晩過ごせるさ。さあ時間が無い、月に行くぞ!」
見切り発車で始めてしまった第2部ですが、続きます。