桃から生まれた桃太郎
桃太郎とかぐや姫が同じ家に拾われるのはいろんな人が考える。では、桃太郎と一寸法師が一緒にいればどうだろう。少なくとも犬猿キジよりかは一寸法師は役に立つはずなのだ。
そもそも、一寸法師は護衛していた姫がさらわれそうになったからその鬼を退治しただけ。桃太郎は何人かの鬼が悪さをしているからって鬼全員を懲らしめるのはやりすぎじゃないの?一寸法師が近くにいれば桃太郎にそう言うに違いない。
「死ねない…わたし、死ねないの…」
「辛い…誰か…誰か、わたしを殺してよ!!」
このご時世に子供達に夢を与えるのを生きがいとする青年がいました。人呼んで讃岐の造、この名前は襲名したもので、現代は63代目の讃岐の造、語り造と呼ばれていました。
讃岐の造は地域を治めていた家柄で、近所の子供達に夢を与える活動を代々していました。おもちゃを作っては配った「町人造」、曲芸を見せて歩いた「曲芸師造」、そしてこの青年、童話を語り上げる「語り造」。しかしその裏では、どんな生物でも殺せる毒を作る研究をしていました。それを完成させることが讃岐の造の血筋の目標でもありました。
「この玉手箱は決して開けないでください。」
今日も語り造は駅の前で童話を語っていました。
「太郎が村に帰ると辺りは一変、故郷が見たこともない場所になっていました。」
駅の前には語り造と浦島太郎を聞くために集まった小学生たち。そしてそこに紛れている一人のおじいさん。
「玉手箱を開けるとたちまち白煙がこみ上げて、太郎が気づいた頃にはおじいさんになっていました。」
語り造の浦島太郎が終わると、子供たちは語り造に拍手を送り、そのまま小学校へ帰っていきました。そうしてただ1人おじいさんが佇んでいました。
「おじいさん、昔話好きなんですか?」
「昔話か…俺にとっては人生が昔話だからな。」
このおじいさんは戦争に巻き込まれて、悲惨な状況の中生き残った人たちの1人なのだな。それなら子供だけじゃなくて、大人にも夢を与えられれば、と語り造はそう思いました。
「この話、太郎はおじいさんになった後、どうなるんだ?」
おじいさんは語り造に尋ねました。考えたこともなかった。語り造は思った。確かに浦島太郎はおじいさんになったからと言って絶望して自殺したわけではあるまい。でも、あまりにも変わりすぎた世界と自分にどう向き合い、どう生きて行くのだろう。
「答えは出ないようだな…時に青年よ、昨日はかぐや姫を語っていたな?」
「はい。僕が一番好きな童話です。」
「そうか。ならばもうひとつ質問しよう。かぐや姫が帝に渡した不老不死の薬、お前が受け取ったら飲むか?」
「…それだけは聞かないでください。」
不老不死の薬。語り造が一番好きな童話の中で一番忌むべき存在。讃岐の造の名が背負う、最も重い荷物。しかし、人類という大きな枠で見れば、目標とも言える存在。
語り造が気付くと、その目には涙が浮かんでいました。
「僕は…63代讃岐の造は、代々独自の竹取物語ともうひとつ受け継いでいるものがあるんです。それが何かは言えませんが…それを持っている限り不老不死の薬は飲んではいけないと胸を張って言えます。」
「讃岐の造…お前は讃岐の造の子孫なのか?」
「…はい。竹取物語の讃岐の造は僕の先祖です。」
「そうか。つまり俺とお前は遠い親戚だった。」
「…おじいさん、あなたも讃岐の造の子孫なんですか?」
「子孫どころか息子だ。俺は初代讃岐の造の長男、桃太郎。」
まさか、語り造は思いました。初代から伝わる独自の竹取物語には、確かにかぐや姫と同時に桃太郎が登場する。しかしこの物語は決して讃岐の造の名を持つ人しか見ることはできなかった。
「青年、お前の讃岐の造としての重荷を下ろしてやることが俺にはできるかもしれない。俺の今の孤独も、あの少女の苦しみも癒せる。だから、俺をあの少女に、赤ずきんに会わせてくれないか…?」