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「他に何か質問はありますか? ないようなら、もう外に出たいと考えているんですが……」


 アミのその質問に対し、真人は少しだけ唸った後。


「他のPCたちから見たオレたちってどう映るんだ?」

「それはクロスさんが現実世界で見ていた通りだと思いますよ? 基本的にはこちらはこちらでこっそりと進めていく方向になりますから」

「へー、そこら辺は変わらないんだな」

「課金関係はどんな仕様に? 強い武器とか手に入るなら、やっぱり買いたいんだけど」

「あ、やっぱりそれ聞きますか……」


 そのことをあんまり聞かれたくなかったように表情を曇らせるアミ。

 アミの様子に真人は訝しげにアミを見つめ、


「何か不都合なことでもあるのか?」

「不都合なことしかないんですよねー。いえ、課金そのものは出来るんですよ? ただ、その内容が限定されているというか……」

「限定されてる? 今さらどう規制されていようが大して驚く要素がないような気がするんだが……」

「そう言うのなら、また説明文を表示しながら説明しますね」


 電子キーボードを操作し、戦闘方法の説明と同じように箇条書きで課金の説明について表示される。



 ・課金の支払い方法は現実世界の貯金から支払われます。(支払能力がない方は借金という形になり、使用した金額分の寿命が減ります)

 ・課金にて買えるものは回復などのアイテムセット、荷物の上限アップアイテム、私服、サポート妖精の服に限ります。武器や防具、乗り物、サポート妖精は不可能。



「おいおい、なんだこれ。完全に殺しにかかってないか?」


 内容を見たクロスは絶句。

 支払方法が結構過酷だからと思ってしまったせいだった。クロスこと真人はちょっと前まで働いていたこともあり、多少の貯蓄はある。が、この世界で生き残り、ゲームをクリアするには出し惜しみをしている場合ではない。だからと言って、自らの寿命を糧に課金まではしたくない。つまり、自宅警備員ニートをしている人たちにとって過酷な選択を迫られているようなものだった。


「だから、あまり教えたくなかったんですよね。どうします?」


 アミはあくまでクロスのことを気遣っているのか、乗り気ではない目――上目遣いで見つめる。


 ――選ぶ選択肢はある分だけマシだろうが……。


 クロスの頭の中では、『生きて帰ることを前提に課金しない』と『生き残るために少しぐらいの寿命を犠牲にしてでも課金する』が天秤に掛けられていた。ゲーム内で手に入る通貨を使えば、アイテムや武器などは間違いなく買うことは出来る。課金武器などの入手が不可能なのは、VR化した自分たちの差を広げず、同じような条件で競わせるためであることが推測出来た。

 だが、死んでしまっては元も子もない。

 そこまで考えた時、クロスの中での天秤はある方へ傾く。


 ――しょうがないか、生きるためには。


「課金はする方向で行こう。必要最低限という形で。じゃないとこのゲームは生き残れない」

「大丈夫なんですか? 下手したら寿命が――いえ、このゲームで生きて帰れたとしても、課金のせいですぐに死んでしまうというパターンもあるんですよ?」

「あー、そっちも考えないといけないのか……」


 アミの発言で気付く、『寿命減少による死亡』の可能性にクロスはイライラとした様子を隠すことなく、親指の爪を軽く噛む。が、すぐに小さく息を吐き、


「しょうがない。その時はその時だ。とりあえずまだ若いし、そう簡単には死なないと思って課金する。クリア云々は置いておいて、現在いまは生き残ることが先決だからな。HP回復系は迷うことなく買おう」


 アミに説明しながらも自分に言い聞かせるようにクロスはそう言い放つ。

 アミはクロスの決意を受け入れたのか、反論する様子はなかった。心配する目は相変わらずではあったが、首を縦に振って了承の意思を示す。


「じゃあ、そろそろ行くか」

「そうですね。一年間という制限時間もありますし」

「……ッ!」


 部屋のドアの前に辿り着き、部屋のドアを開けようとした矢先のこと――アミから放たれる驚愕的な発言に思わずドアノブから手を離す。そして、アミに向かって無意識のうちにアミを手の甲で虫を振り払うように引っ叩く。

 アミもまた引っ叩かれると思っていたのか、「あう!」という情けない声を上げながら、クルクルと宙を回る。しかし、途中で体勢を立て直し、怒りを露にした表情で、


「いきなりなんで叩くんですか!」


 ウルトラマンの出現ポーズのように片手だけを伸ばして、クロスの顔に向かって突撃。

 それを手の平であっさりと受け止めたクロスは、


「制限時間とか今、初めて聞いたからだよ! そう言うことは先に言えよ!」

「あ、あれ? 言ってませんでした?」

「言ってねぇよ! いつ、そんな会話をしたんだよ!?」

「あっ、そう言えば……」


 すっかり忘れていたことを恥じるように空笑いを溢しつつ、


「え、えーと……このゲームの運営が終わるのが残り一年間ってことなんで、それまでに頑張ってクリアしてくださいね! いえ、一緒にがんばりましょう!」


 アミはガッツポーズを作る。


「待て待て、運営が終わるってどうやるんだよ。パスワードが分からないから、アップデートも何も出来ない状態なんだろ?」

「ラクシム様がそのパスワードが保存された機械を見つかるように仕組むらしいです。なので、作為的な時間制限がかかっているわけです」

「本当だな。マジで作為的過ぎるわ。あ、もし失敗したらどうなるんだ?」

「死にます。誰かがクリアしないとVR化した人たち全員死にます」

「どんなデスゲームだよ!」

「あたしに言わないでくださいよ!」

「それはそうだけど――って、何をどうやったらクリア扱いになるんだ?」

「あれ、それも言ってませんでしたっけ?」

「言ってねーよ!」

「す、すみません。クロスさんの勝手な行動のせいで、あたしの調子もちょっと狂っちゃってるんですよ!」

「人のせいにすんな!」

「でも、実際悪いのはクロスさんじゃないですか! 勝手に契約するから!」

「うるせーよ! あーもう、時間の無駄だから話は外で聞くぞ! つか、もう気になったことはその時に逐一尋ねるからちゃんと答えろ。そっちの方が手っ取り早いし、面倒とは言わせないからな!」

「あうー、分かりましたよ。何を言い忘れたのか、もう完全にド忘れしちゃってるので、それでいいです! 」


 クロスは再びドアノブを持ち、ドアを開く。

 部屋を開けるとそこにはアニメなどでよく見る古びた宿屋の廊下。

 しかし、クロスとアミは熟練のパートナーのような言い合いを繰り広げていたため、その様子をじっくりと確認する暇はなかった。



 これが現在いまから一ヶ月前の話。

 あれからクロスは必死にレベルと武器の使用レベルを上げ、ようやく今回中ボスの一体を倒すことに成功。そのデータをセーブするためにアルセイム王都のワープポイントに帰還したのである。




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