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 真人の前の電子画面に映っている銀髪のロング、ライトアーマー、手には片手剣と盾を装備した人物――NE2Tクロスは、真人がこのゲームをプレイした時に作ったアバター。それは契約終了後に表示された時から気付いており、そのことを突っ込む前に妖精が騒ぎ始めたので聞くタイミングを失い、尋ねようと思っていた質問の一つ。


「しっかし、懐かしいなー。このゲームをプレイしたのも数ヶ月前だし……。難しかったってのもあるけど、オレの趣味に合わなかったから辞めたんだけどさ。今さらこのアバターを映してどうするんだ?」

「真人さんには三つの選択肢があります。一つ目がこのアバターのデータを引き継いでゲームを開始する。二つ目は新しいアバターを作って、一からゲームを始める。三つ目が容姿や真人さんの肉体のステータスをデータ化して、ゲームを開始する。どれでも良いんで選んでください」

「ハイテクな世界だな。オレ自身をアバター化出来るのかよ!」

「そこを驚くなら、真人さんの意識をこの世界に連れて来てることに驚いてください」

「……それもそうだな」

「それでどうしますか?」

「んー……」


 真人は腕を組んで考え込み始める。

 一番手っ取り早いのがNE2Tクロスのアバターを使うことだった。プレイしたのは数ヶ月前だったが、あの時に考えたステータス配分関係は今でも簡単に思い出すことが出来るからだった。

 二つ目は自分自身アバター化すること。これはVRMMMORPGをプレイする上で、人間として夢である二次元化することに等しいからだ。RPGはともかくギャルゲーなどでは自分の嫁に会いたいと思うため、数多の人間がそれを夢見てきたに違いない。しかし、問題はそのデメリットだった。真人が自分の肉体ステータスをデータ化したとして、既存アバターよりも強くなることない。むしろ、新アバターを作った時よりも弱くなる可能性があるほど。それだけ自分の肉体ステータスに自信がなかったのだ。

 そして残された新アバター。これは最初から論外だった。どこから物語が始まるのか、また面倒なチュートリアルが行われることを考えると億劫なのだ。それにMMOからVRMMOになる時点でそのチュートリアルを受ける意味が全くないのだから。


 ――消去法で考えると……。


「うし、決まった」

「はい、どうぞ」

「NE2Tクロスにする」

「分かりました。名前の変更できますけど……」

「面倒だからそのままでいいよ」

「はい、了解です。ちょっと待っててくださいね」


 妖精は電子キーボードをカタカタと軽快に打ち始める。

 すると、真人の目の前に0《ゼロ》と1《イチ》が集まり、NE2Tクロスが画面の外に出現。冷凍保存されているかのようにNE2Tクロスは目を閉じていた。しかし、それが直立のままスライドし始め、真人に向かって突撃。


「ちょっ、おま――ッ!」


 いきなりアバターが突撃してくると思っていなかった真人は思わず身構えてしまう。が痛みは全く走らなかった。その代わりに、


「お、重ッ!!」


 腰がやばくなりそうな勢いで両手が床に向かって落下させられる。

 その原因は両手にそれぞれ装備している片手剣と盾のせいだと分かるも不思議と武器から手が離れず、強制前かがみ状態にされる。同時に走る背中への痛みに呻き声を上げるも、


「はーい、もう少し待ってくださいねー」


 妖精はその様子をチラチラと確認しながら、電子キーボードを必死に打ち込んでいた。


 ――オ、オレの腰が……ッ!


 どんどん掛かってくる負荷に「駄目だ!」と思いかけていた時に、いきなり軽くなる武器たち。いきなりの重量変化に伴い、真人はその反動で宙を一回転してベッドにうつ伏せに落下。


「うぷっ! な、何が起きたんだ?」

「あたしが武器の重量の調整したんです。だから、『もう少し待ってください』って言ったんですよ?」

「なるほどな。でもこれは軽すぎじゃね?」


 ベッドから起き上がり、自分の様子がNE2Tクロスに変化していること確認した後、持っている片手剣を簡単に振ってみる。まるで新聞紙で出来た剣のような軽さに、さっきまでの重量が身体に染みついている真人は違和感が拭えなかった。


「じゃあ、微調整してみましょうか」


 妖精がそう言って、また電子キーボードをカタカタと打ち始める。

 さっきのようにいきなり重量が重くなることはなく、ほんの少しずつ重さが加わっていく。

 真人は何回か素振りをした後、首を横に振る。

 妖精はそれに従い、重さを増やしていく。

 それを何度か繰り返し、


「まー、こんぐらいかな? 実際に使ってみないと分からないだろうし……」

「そうですね。また何かあったら言ってください。その時にまた調整します」

「おう、頼んだ」


 手に武器が吸い付く。

 そんな状態までには持っていけなかったが、真人はなるべく自分の感覚に合う重量を見つけることが出来たのだった。


「あ、片手剣でこれってことは他の武器もそうしなくちゃいけないのか?」

「細かい設定をする場合はそうなりますね。それはさすがに面倒なので、片手剣を目安とした他の武器との重量差を自動で調整するように設定しておきます。なので、ひとまずは片手剣で戦闘の練習をするべきだと思いますよ」

「だな。近接武器の中で一番扱いやすい武器がこれだからな。あ、ちなみに戦闘ってどうやるんだ? 他のPCプレイヤーキャラとは戦闘方法が違うんだろ?」


 このゲームは数多あるゲームと同じようにその場に存在しているモンスターが、自分の探知範囲に入ったPCを襲いかかってくる設定になっている。そして、戦闘に入ると逃走などの動きは取れるものの、戦うとなった場合はその場に立ち止まり、ガスガスと武器を振るって攻撃。そのため、攻撃を与えた時のダメージや攻撃ミスなどは画面に表示されるため、何も考えずに画面の前でクリックやボタンを連打するだけの簡単なお仕事なのである。

 しかし、真人はVRMMO状態になっている。つまり、戦闘そのもののやり方がこのゲームに取られている設定とは違うものになっているのではないか、と考えたのだ。


「察しが良いですね。さすがです。ここからが一番重要な部分なので聞き逃さないでくださいね?」

「聞き逃してもまた言ってくれるだろうに」

「そういう意味じゃないんです! そういう気概で聞いてくださいって意味ですよ!」

「分かってるって。っていうか、簡潔に説明してくれたら問題ないって」

「口頭で伝えるより、画面に出しながら説明した方がいいかもしれませんね。ちょっとだけ待ってください」


 真人の様子を見て、妖精は呆れ半分にため息。そして、またキーボードを打ち始める。すると、今まで映っていたアバターの映像から箇条書きにされた文章が現れる。


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