(3)
「さ、されるのって恥ずかしいね」
今までしてきた立場であるカレンは改めてキスされたことを実感するように、自らの唇に触れながらそう呟く。
もちろん、カレンがそう思うようにクロスもまた、
「する側も最初のドキドキが半端ないけどな」
カレンの立場が分かり、そう返すことしか出来なかった。
「普段以上に口下手になってしね」
「ほっとけよ。でも、これで少しは満足したか?」
「ん、かなり満足した」
カレンはそう言って、クロスの身体に寄りかかり、肩に頭を乗せる。
何も変わらないカレンのその行動に、クロスは少しだけ安堵する。告白したことにより、もう少し大胆な甘え方をしてくるのではないか、と思っていたからだった。
「あ、でもさ、クロスくんが心配する気持ちは分かるかなー」
「え?」
「レイくんのことだよ。クロスくんが意地悪なことを言うから、話を逸らす流れになっちゃったけど、心配なのは私も同じなんだよね」
「だな。こっそり後でも――」
「教えてくれなかったよ? どこに行くかまでは」
「考えがバレていたみたいだな。ま、ボスの数は限られてるし、どこかでは合うさ。それに危なくなったらスレイが連絡してくるだろ」
「うん、そうだね。スレイちゃんとも仲良くなったみたいだし、本当に良かったよ」
「本当にな」
「それで、問題は私たちでしょ? どのボスを倒しに行くの?」
問いかけられた質問にクロスはちょっとだけ悩む。
実際、どのボスに行こうが強さはきっと変わらない。単純に自分の今の気持ちで選べばいいだけ。
そう考えた時、クロスの中で行く場所は自然と決まる。
「次に行くのは氷竜かな。今回、暑い場所だったし、避暑地という意味で」
「満喫は出来ないけどね」
「それを言うなよ。でも場所は綺麗なんだぞ? 氷竜が住んでいる土地名は『水晶の鉱山』なんだし」
「クリスタルってことは水晶?」
「イエス」
「よし、今すぐ行こうよ!」
女の子特有の興味が発動したカレンは、クロスの腕を掴んで、無理矢理立ち上がらせようとする。
が、逆にクロスがその腕を引っ張り、カレンは情けなくもベンチに強制的にまた座らされる。
「どうせ行く場所は決まってるんだから、急ぐ必要はないだろ。つか、アミとベルがまだ戻って来てないし」
「あ、それもそっか」
「少しは落ち着けよな」
「……逆にクロスくんは落ち着いてていいの?」
「ん?」
「アミちゃんとベルを全力投球したこと」
「あー……」
カレンにそう言われて、クロスは突如としてこの場から逃げ出したくなる感情に襲われる。
それはアミとベルが戻ってきた瞬間から始まることが分かっているからだ。
悪いことをしてしまったからこそ、逃げたくなるのは当たり前として備わっている人間の気持ち。
カレンはそのことを見透かしたようにクロスをニコニコと見つめている。
その瞬間、クロスの気持ちは固まる。
今度はクロスからカレンの手を掴むと引っ張りながら立ち上がり、
「よし、出発しよう! ここでのんびりするのは時間の無駄だしな!」
そう言って、有無さえ言わないように歩き始める。
そのことにカレンは反論するつもりはないらしく、
「うん、行こッ!」
と、ちょっとだけ駆け足で隣に並んで、周囲にそれを見せつけるようにして歩き始める。
こうして二人は一ヶ月とちょっといた都市、アルセイム王都を後にするのだった。




