(8)
「な、何の攻撃が始まるんだよッ!」
炎に近い鱗粉がこの部屋を包むように炎竜はばら撒いている。
この時点でクロスの頭の中ではロクでもない攻撃の想像しか出来なかった。
そのクロスの問いに、アミはクロスの肩に乗りながら電子キーボードを操作しながら答える。
「粉塵爆破ってやつです! みなさん、防御してください! 逃げるなんて無理です!」
「回避不可能技かよ!」
「しかも、防御貫通機能まで付いているので、防御しても多少は受けます。覚悟してください!!」
その言葉がきっかけのように炎竜が口を開け、自らの歯と歯をガリッ! と擦りつけると同時に火花が飛び散る。それが周囲の鱗粉に着火、連鎖反応を起こして盛大に爆発し始め、一瞬にしてクロスたちへと迫る。
アミが受けるダメージを軽減する方法として防御を提案したにも関わらず、爆発は防御する暇もなく広がった。
ただ、炎竜が好き勝手にダメージを与える技。
クロスはその技を食らいながら、更なる苛立ちを覚えることしか出来なかった。
この時点でかなり強く、普通に倒すことも困難。いくらパーティを組んでいたとはいえ、体力が減るごとに強化され、最終的なこんな回避不可能・防御貫通技を使うボス。勝てるはずがない。そう思わされてしまうことに対して、何かの怨みがあるようにしか思えず、そんなことをした覚えがないクロスにとって、炎竜の粉塵爆破は八つ当たりに近いもの。
そう考えるとこの炎竜が許すことが出来ず、全力で駆逐してやるとしか考えられなくなってしまう。
吹っ飛ばされた三人は多少の距離の誤差はありつつも、入口付近まで戻されていた。
クロスは全身から白い煙を噴出させながらもゆっくりと立ち上がる。が、HPはすでにレッドゾーンに達していた。
カレンとレイはクロスと違い、防御力が高いおかげで、オレンジゾーンで済んでいる状態。
しかしクロスと違い、カレンは戦意喪失しているらしく、体勢だけは立て直して座っているものの立ち上がろうとせず、怯えた目で炎竜を見つめていた。
レイに至っては気絶しているのか、その場に寝転がったままになっている。
「大丈夫ですか! 今、HP薬を……」
アミのその言葉に、
「カレンたちから離れる方が先だ。今、こいつらが食らったら死ぬだろ」
クロスはそう言って、炎竜に向かって走り出す。
これぐらいのことで戦意喪失してしまうカレン、気絶しているレイにしてあげられることがこれ以外なかったからだ。
『クロス、アミさん、このまま回復せずに突っ込め。ボクが回復してやるから。だから、攻撃に集中しろ。いいな?』
いきなり通信してきたベル。表情は申し訳ないと言わんばかりの表情を浮かべていた。
「どうしたよ、急に。そんなの気にしなくていいぞ」
『いいから。カレン様も戦士喪失で足手まといになってるんだ。これぐらいのことはしてやる。だから素直に受け取れ』
「……」
『あの時は驚いたけど、この時のことを考えると止めないで良かったと本当に思うよ。クロス、死ぬなよ』
「縁起の悪いことを言ってんじゃねーよ! 死ぬか! 少なくともあのクソ竜を倒すまでは死ぬか!」
『それでこそだな』
そう言っていると急にクロスのHPがレッドゾーンから全快する。
「え、これって……」
肩に乗っているアミが驚きの声を漏らしたので、
「どうした?」
クロスがそう尋ねると、使った本人であるベルが、
『『天使の大粉塵』だよ』
何事もないかのように答えた。
『天使の大粉塵』とは、HPがどんな状態であろうと全回復と状態異常を解除してくれるこのゲームではかなり高価なアイテム。クロスたちがいる現在の場所では課金でしか手に入らないアイテムだった。
カレンがそのことを持っている=あの時のベルの驚きの声の件をクロスは思い出す。
「まさか、カレンは――」
『その通りだよ。このアイテムを買ったから驚いたんだ。けど、まさかこんなタイミングで使えるとは思ってなかった』
「助かる。カレンの様子は?」
『大丈夫だから、自分の心配をしろ。個数はそんなに持ってないんだから!』
『大丈夫です! スレイの方も持ってますから!』
割り込むタイミングを見計らったようにスレイが映った電子画面が表示される。
ベルに先手を取られたことが少しだけ不満そうに可愛く頬を膨らませていた。
『だから、クロスさん! 頑張ってください!』
そして、ガッツポーズを見せる。
「お前ら、頼り過ぎだ! でも、回復だけで手伝ってくれるだけで助かる!」
『いつまでも話してないで、回避にも専念してくださいよ!?』
アミはベルとスレイの会話に対して注意を促したのは、炎竜の肉体攻撃範囲に入った目である。
どうやら、先ほどの粉塵爆破には一時的な行動停止があるらしく、偶然にも今まで攻撃をして来なかった。が、肉体攻撃範囲に入った時点で再行動が始まったのか、クロスに向かって右腕を振るう。
しかし、アミの指示した脱出経路に従うようにクロスはジャンプ。足首を少しだけかすってしまうも関係なしに炎竜の右腕に着地する。
そのままもう一度ジャンプすると、クロスは手に持っている銃をガンモードに切り替えて、炎竜の目を狙うように放つ。
さすがにデータの塊である炎竜も目を狙われるのは嫌なのか、顔を逸らして攻撃を回避するも、胴体へと着弾。
狙ったのは目だったが、実際は着弾すればどうでも良かったクロスにとって、大した問題ではなかった。
「クロスさん! 頭での横振り攻撃が来ますよ!」
アミが炎竜の攻撃を先読みして指示を出したため、
「オッケー!」
その指示に従い、クロスは落下中の身体に捻りを加えて、身体の向きを左からの炎竜の横振りに備える。
アミの指示通りの攻撃をしてきた炎竜の顔の横振りに足で受け止めたクロスだったが、威力が強かったのか、HPを少し減らされながら吹っ飛ばされてしまう。
が、クロスは口端を歪めて笑っていた。
HPが減らされてしまうことは最初から分かっていたことだったから。
何よりもあのまま近くにいることが危ないことも分かっていた。
だから、こうやって吹き飛ばす効果のある攻撃をしてくれたことで体勢を立て直すことが出来る方が嬉しかったのだ。
それが狙いだったからこそ、クロスは炎竜の顔が足に当たった瞬間、反動でバク転が行われるように右足で炎竜に蹴りを入れていた。
クロスの狙い通り、クロスはクルクルとバク転を行いながら壁まで吹き飛び、足から着地。その勢いを殺さないように足を曲げて、その反動を利用して炎竜の顔に向かって力を解放する。
「アミ!」
「言われなくても分かってます!」
クロスの意図を分かっているアミは、クロスが飛びながらもHP薬を飲み込めるような位置に出現させる。
それを迷うことなく飲み込んだクロスはHPを回復させながら、炎竜の顔に向かって、連射を行う。そして、ある程度の地点に到達するとクロスは射撃を止めて、足が炎竜に向くように体勢を変える。
そして、再び炎竜の顔を踏み台にして床に着地した。が、その場に留まることはせずにすぐに動き始める。




