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「これ、どうすんだよ! 勝ち目ないじゃないか!」
レイは大剣での攻撃が不可能と判断したのか、自らの武器を背中に背負い直し、邪魔にならないような場所で攻撃を避けることを選択したらしい。
「アミ! 攻略方法あるのか!」
クロスがそう尋ねると、画面の中にいるアミは首を横に振って否定した。
『どうするも何も遠距離で攻撃するしかないです。それ以外に攻撃をする手段がありませんから』
「くそっ!」
『すみません、言い方が悪いですね。別に近接で攻撃出来ないわけじゃないんです。出来るとしてもHP薬やハイHP薬を使いながら、炎竜の攻撃を食らわないように気を付けるしか出来ないです』
「少なくともレイには無理だな」
『レイさんだけじゃなくて、クロスさんにもキツいと思いますけどね。かする程度は食らうんじゃないでしょうか?』
「うん、絶対にかする。とにかく、オレの弓をレイに譲渡してくれ。さすがにレイが攻撃出来ないのは辛い」
『分かりました』
アミはクロスの指示に従い、レイに弓譲渡の通信を送る。
炎竜の攻撃のブレス攻撃を避けつつ、それを確認したレイは一瞬不満そうな表情を浮かべる。が、すぐに現在の自分では何も出来ないことを分かっているらしく、弓を素直に受け取る。そして、即座に大剣から弓に切り替えて撃ち始める。
そのことを報告するため、クロスにアミからの通信が再び繋がる。
『無事に譲渡出来ました! それと攻撃来ますよ!』
「分かってるよ! アミ、オレの元へ来い! いつものように近くに居て指示しろ!」
『えっ、はい! とにかくこれから行う攻撃の逃げ道を指示してからにします!』
「頼む」
クロスは表示される画面を見ながら攻撃を止めて、指示された通りにその逃げ道を走る。
今回、炎竜がクロスに向かって行われる攻撃は、火炎弾。
炎竜は大きく息を吸った後、数発の火炎弾を数発、クロスに向かって撃ち込み始める。
クロスはその電子画面に表示された逃げ道を忠実に再現するかのように、テンポよくサイドステップを繰り出す。しかし、それは所詮直撃を避けるだけのことだけであり、炸裂した後にバラまかれる火炎を避けることまでは出来なかった。
それでも何とか全弾回避に成功。
炸裂した火炎のせいでクロスのHPが四分の一ほど消失し、それでも回復で何とかなると思って足を止めた矢先のこと――再びクロスの電子画面に次の指示が表示される。
「は、はぁ!? またオレかよ!」
連続で攻撃対象にされると思っていなかったクロスの身体は一瞬、硬直してしまう。
それが動きの妨げとなり、クロスは炎竜が次に放った空気の塊こと空気弾を視認しながらも身体がピクリと反応しなくなる。
――や、ヤバい!
この体力では直撃を食らえば死んでしまう可能性があることを視野に入れつつ、どうしようか、とクロスは必死に考える。避ける選択肢はもはやない。あるのは一発だけは直撃を許して、あとは全弾かすらないように避けるということ。
――む、無理!
クロスの思考は思いついた考えを即座に否定。
体感的にスレイに計測してもらった時よりもスピードが空気弾のスピードが速くなっていることに気付いたからである。
だったらどうするか!?
そう考えた時、クロスはスレイとの会話で邪魔されたことを思い出す。
「このままで駄目なら」、そう思った時、クロスは思い出したことを挑戦するという新たな選択肢を選んだ。
両手に持つ銃のグリップを垂直にしてソードモードに切り替えると、銃口から瞬時にビームが片手剣よりも長く、大剣よりは短い長さで刃となり出現。
そのビームソードを空気弾に向かって、振り下ろす形で接触させる。すると、バチバチ!という接触音を立てながら、押し合いを始め、最終的にその空気弾は真っ二つになった。
まさか斬り裂くことが出来るとは思ってなかったクロスは、そのことに驚きつつも気を緩めず、後続に続く空気弾を接触しそうなものと接触しないものを区別していく。そして、避けられそうなものはステップを使って避け、他は全て切り裂く行動に出る。
『攻撃をき、斬ってる!?』
クロスの言葉を代弁するように叫んだのはアミ。
このことはアミでさえ知らなかったらしく、何が起きているのか? と電子キーボードを操作しながら、その現象の理由を検索していた。
他、四人はクロスの剣捌きに見とれているらしく、攻撃する手は動きを止め、呆然としていた。
今までクロスが攻撃に対して攻撃を使って捌くという行為に出なかったのは、これまでの一ヶ月間に試して失敗していたからである。単純な話であるが、武器で捌くことの出来る攻撃と捌けない攻撃の見分けがつかなかったのだ。
たったそれだけのことなのにクロスがそれを見分ける訓練をしなかったのは、『下手にダメージを食らって死んでしまう』という間抜けなことを避けたかったためだった。
そして、今回クロスがこのことに気が付いたのは、前回の空気弾に攻撃された際に続けていた射撃が偶然空気弾にヒットしてかき消されたことにある。
火炎放射のような攻撃をされた場合、射撃は弾かれるのではなく、炎に飲み込まれながらも貫通し、目的のモンスターに向かって飛んでいく。そのことにちゃんと気付いていたからこそ出来た行動だった。
もちろん、それだけが理由ではない。
今までに味わったことのないピンチに対し、『回避が出来ない』という状況が重なった結果――偶然、起きた現象だった。
「や、やった……! 生き残れたッ!」
クロスは全ての空気弾を斬り裂き、肩で息をしながら、その喜びを噛み締めるようにガッツポーズをした。
が、それを飛んできたアミの蹴りによって崩される。
「な、何す――んぐッ!」
そのことに対して、文句を言おうとしたクロスの口に、アミの腕が無理矢理入れられ、強制的に黙らされてしまう。
「喜ぶのは回復の後にしてください! さっきも言ったでしょう! 『クロスさんだけ本気で殺しにかかってくる』って。偶然、出来た行動かもしれませんけど、次の攻撃が始まってるんですから!」
そう言いながらアミはクロスの口から抜いた手で炎竜を指差す。
強制回復させられたクロスは、アミの差された先にいる炎竜を見ると翼をバサッバサッ! と羽ばたかせながら鱗粉を放出させていた。




