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「アミ!? 解析終わったのか!?」
このタイミングで出てくると思わなかったクロスは驚きの声を上げる。
しかし、そんなことを言っている場合ではないと言わんばかりに、
『だから、こうやって声をかけたんじゃないですか! これから皆さん回線繋ぎますから、その件も含まっているので!』
そう言いながら、アミは全員に通信し始める。
そして、繋ぎ終わった後、解析したデータをベルとスレイに送りながら、
『これから解析したデータの内容について、クロスさんたちPCに教えますね。なので、攻撃したり、避けたりしながら聞いてください!』
そう前置きを入れて、全員が頷き終わったことを確認してから説明を始めた。
『納得頂いてありがとうございます。とにかく現時点で一番重要なことを言います。炎竜はHPが一定まで下がると能力が強化される仕組みになっています。それがバクなのか、それとも正式な仕様なのかは分かりません。しかし、分かっていることは『体力が三分の一減るごとに強化されていく』ということです。このことはクロスさんが気付いて、説明しようとしてくれていたことですが……。強化内容としてあるのは、『攻撃パターンの変化』『攻撃スピードアップ』『威力上昇』『全体攻撃の追加』『炎上化』になります』
――ぜ、全体攻撃!? え、炎上化!?
クロスもさすがにそんな攻撃は知らず、心の中で呟きながら、炎竜のHPを確認。
すると、炎竜のHPはいつの間にか残り半分をすでに切っていた。いつの間にここまで追い詰めいていたことに驚きつつも、アミの声に再度傾ける。
『説明がいるとすれば、『炎上化』ですね。どうやら、炎竜は残り三分の一になると炎を身に纏うようになるらしいんです。その炎に近いほどHPが最短一秒ごとに一ドット減る仕様です。ちなみにこれは離れたら、また一秒ごとに一ドット回復するので問題はないのですが――すみません、ちょっと失礼します!』
「え? どうした?」
いきなりの説明を中断したアミにクロスが慌てて問いかけると、
『区切ったのはクロスさんが攻撃される番だからです! 炎竜がクロスさんに行う攻撃は火炎放射になります。ちなみに集束型で、一時的な追尾性能あるので壁などを使って二段避けしてください!』
電子画面にはアミの顔ではなく、推奨する避け方が表示されていた。
「もうかよ!」
スレイとアミと話していたことで時間間隔を見失っていたクロスは、いきなり訪れた自分の順番に思考停止。考えることすらままならず、表示された画面の指示通りに近くにある壁に向かって全力で走り出す。いきなりだったからこそ、銃による射撃を止めて。
しかし、炎竜はそんなことも関係なしにクロスに向かって、アミが言っていたように拡散する炎ではなく一直線に走る炎――極太のビームを放つ。
ビームのように変化しているせいか、拡散する炎よりもクロスに到達するスピードが少しだけ早いらしく、あっという間にクロスに居る位置へ辿り着く。
「くっそおおおおおお!」
クロスは自分で大声を出していることも気付いてない状態で、炎のビームが着弾する前に壁に向かって飛んでいた。
しかし、アミが言うようにクロスの後を追うように炎竜も頭を動かす。その動きに合わせてクロスの下からビームが迫っていく。
その軌道を見る暇もなく、クロスは壁に足が辿り着いた瞬間、左手をテーブルで打ち付けたような痛みを感じながらも、壁を蹴って二段跳びする。空中でクロスは左手を確認すると、左手からは攻撃がヒットしたことを示すように白い煙が上がっていた。
「く、食らっちまったか!」
予定より早くジャンプさせられてしまったせいで、攻撃を食らうことは分かっていたとはいえ、さすがに無駄にHP薬を使いたくなかったため、クロスは思わずそうぼやく。
しかし、回復しないなんて選択肢は取れないため、クロスが命じる前にアミが勝手にクロスの落下軌道上に出現させたハイHP薬を素直に口に含み、体力を回復させる。
『ナイス回避ですよ、クロスさん』
「待て、アミ。オレは回避に成功してないぞ。ダメージ食らったし……」
アミの褒め言葉に突っ込むように、今では白い煙が消えている自らの左手を画面に近づけるクロス。
そのツッコミに対して、アミは首を横に振る。
『そういう意味じゃないんです。このことはカレンさんやレイさんに説明はいらないと思いますが今後のために説明したいと思うので、少しだけ待ってください』
「ん、分かった」
アミの様子が少しだけ苛立っているような気がしたクロスは素直にその指示に従い、自分は炎竜に対しての攻撃を再開することにした。
しかし、すぐに全員への通信が繋がり、アミが説明を再開。
『申し訳ありませんでした。説明を再開しますね。ここから話すことは基本的にクロスさんにしか当てはまりませんけど、今後のためにみなさんにも説明させてもらいますね。どうやらパーティでボスに戦闘を挑んだ場合、その中で強いPCを追いつめる攻撃をするバグが発生してるみたいなんです。そのため、さっきからクロスさんには強めの攻撃や避けにくい攻撃が放たれているの、気付いていましたか?』
「……言われてみれば、初見攻撃が二つほどあったな」
『気付かれましたね。つまり、炎竜が強いと認めたPCがクロスさんなんです。その基準までは分かりませんけど……。そのため三分の一以下になったらクロスさんは気を付けてください。炎竜がクロスさんを全力で殺しにかかってきますから』
クロスは頬を引きつりながら、空笑いを溢す。
アミのその説明を聞いて、そんな反応しかとれなかった。
その代わり、心の中では、
――意味が分からん。なんでこうなった! なんでだよ!
「なんで?」がグルグルと回り始めていた。
が、その考えもアミの大声によって止められてしまう。
『体力が三分の一まで減りました! 炎上化が来ますよ!』
ハッとしたようにクロスは炎竜のHPを確認すると、いつの間にかそこまで減っていた。
炎竜はその時を待っていたかのように、翼を羽ばたかせて飛び上がると空中で一回転させながら、炎を身に纏い、地面に着地する。
アミの言った通り、ただの強化現象ではなく常に炎を包まれており、『炎竜』という名にふさわしい状態に変化。
さすがのレイも近くに居ることが困難だと気付いたのか、それともスレイが出した指示に従ったのか分からなかったが、クロスがいる位置までバックジャンプして下がってきた。




