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「いったいどうしたんだ? 予想外の攻撃は食らってないみたいだが……?」


 着地したクロスに向かって、レイがクロスのHPを確認しながら尋ねた。

 クロスは立ち上がると、


「レイ、驚くなよ。こいつの体力、四分の一も減ってない」


 レイの質問に素直に答えた。

 クロスの予想ではすでに四分の一は減っていると思っていたのだ。少なくともクロスはMPを消費して二度は技を放ち、レイは三回、カレンも何回かは技を放っているはずだった。少なくとも赤竜戦での感覚を頼りに比較してみれば、この時の赤竜はすでに三分の一に近いほど減っていた。なのに、予想以上に減っていなかったことに対して、クロスはショックを受けてしまう。

 しかし、そのショックもレイの嘆息によって消え去った。


「クロス、甘くみすぎじゃないか?」

「は、はぁ!? 何がだよ!」

「こんな巨体だぞ? もうちょっと多めに体力を見とけよな。つか、HPを見る暇があったら攻撃しろ!」

「なっ!? ちょっ、おい!」


 意外に冷静に答えたレイは言葉通り、炎竜に向かって突撃していった。

 レイの反応にクロスはその場に立ちつくし、電子画面に映っているアミを見つめながら尋ねた。


「なぁ、オレって考え甘いかな?」

『はい? 甘いというよりも集中力が分散してるように思えますけど?』

「そうか?」

『はい。本来の実力が発揮出来てないです。みんなを信用してない。そこまでは言いませんが気にしすぎです。もうちょっと自分を追い込んだ方がいいかもしれませんね。ほら、カレンさんだってちゃんと自分の力――いえ、ベルくんのサポートを受けながら、しっかり自分の力で避けているんですから』


 そう言われたクロスはカレンへと視線を移す。

 あれほど心配していたカレンはクロスの予想以上に良い動きをしていた。

 ついさっき炎竜が放った数発の火球に対して、ベルのサポートを受けながらテンポよく回避し、隙間を縫って反撃をしていた。

 その動きはすでにパーティを組まなくてもやっていけるのではないか? と思わされてしまうほど。


「――そっか……」

『はい?』

「パーティを組んだせいで余計に肩に力が入ってたか」

『それが良い所でもあり、悪い所でもありますね。あ、レイさんの攻撃に対する巻き添え範囲に入るので、ここまで下がってください』

「分かった」


 クロスはアミに指示された通りに、画面に移された範囲外まで逃げる。

 逃げながらクロスは、


「アミ、さっきの相談のことだがいいか?」

『はい、何ですか?』

「解析は頼んだぞ」

『だ、大丈夫ですか? 相談した側が言うのもあれですけど……』

「大丈夫さ。あの二人でさえ問題なしなんだぞ?」


 レイの様子をしっかりと見つめていた。

 レイはさきほどの【ヘビィ・スラッシュ】を使用時、溜めている最中に一瞬発生する無敵時間を利用して、炎竜の放った翼による風圧を足元で耐え、そのまま反撃に転じていた。しかし、タイミングがほんの少し悪かったらしく、風圧攻撃時にちょっと浮いた炎竜の身体が落下した時に身体のどこかが振れ、四分の一ほどダメージを受けてしまう。が、それもスレイが出したHP薬の小瓶を飲むことで即座に全開に近く回復。何事もなかったように振る舞い、攻撃を再開する。


『分かりました。今回だけはサポ――』

「いや、いい。その代わりにお願いがある」

『え?』

「双剣から二丁拳銃に切り替えろ。銃は『あれ』使用時に使うって予定で買ったタイプだぞ」

『も、もうやるんですか!?』

「ほら、ボヤボヤしてるとオレがダメージ食らうぞ? いいのか? あ、ついでにMP薬出しとけよな」

『わ、分かってますけど……。なんか余計なことを言ったような気がします……』


 いつもの調子に戻りつつあるクロスに気付いたアミは、自分の発言に対して少しだけ後悔したように呟く。そして、クロスの言う通りに双剣を消して、クロスの手元に二丁の拳銃をクロスの顔より上の位置に出現させる。

 その銃をクロスは空中で掴み、クロスに向かって突進してくる炎竜を睨み付けた。


『クロスさん、ここまで下がってください!』


 急いで出された攻撃範囲外の距離が電子画面に提示されるが、


「悪い、アミ。予定変更だ」


 その画面を見ることなく、クロスははっきりと言い切る。


『はぁ!? ちょっと何を言ってるんですか!!』


 アミの声を無視して、『あれ』を使うために買った銃を確認し始めるクロス。

 今回買った銃は銃弾ではなくビームを発射するタイプのもの。そのためか、銃弾を放つ銃よりは見た目が未来的な物に変化している。

 もちろん見た目だけではない。

 銃弾系が威力重視とすれば、ビーム系は連射系というちょっとした区別が付けられている。だからと言って、モンスターを倒すスピードは変わらない。威力で押すか、手数で押すかの違いだけのため、好みに分かれるだけだった。


 しかし、ある派生武器が使用可能になった時に一番の違いが謙虚になる。

 その派生武器とは片手剣と銃からなる銃剣。

 銃のどこかに刃を付けて近距離に対応した武器へと変化した時、銃弾系は銃身の下に刃物が装備された状態になるのだが、ビーム系はグリップ部分が折れ曲がってビームサーベルのように変形するのだ。ビームサーベルのようになった状態時は引き金をずっと引きっぱなしにしておかないといけないのだが、引き金を離すと発射される仕組みになっている。これはあくまでVR化した人間が使う場合であり、普通にMMOやる場合はオートで変化するので変化はほとんどない。だが、こういう変形武器や見た目の問題で、派生武器になるとこちらの武器を選ぶ人が多いことは間違いのない事実だった。


 クロスはそれを二回ほど変形させて感触を確かめていると、突進してきた炎竜の左足に身体を直撃。防御することも身構えることもしなかったため、クロスはその勢いのまま背中から背後の壁まで吹っ飛ぶ。そして、一気に半分以下まで減るクロスのHP。


「クロスくん!?」

「クロス!?」

『クロスさんの馬鹿ーッ!』

『おま、何やってんだよ!?』

『クロスさん、なんで避けないんですかッ!』


 壁にめり込んだ形で座り込んでいるクロスにカレンとレイは何が起きたのか分からないまま心配そうに叫ぶ。

 逆にクロスがアミの指示を無視した形で攻撃を食らったことを知っているアミたちは、クロスの顔を電子画面で覆い隠すように三つ出現させて、それぞれが心配と怒りを満ちた声を上げる。


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