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クロスは炎竜の足元へ辿り着くと、遠慮なくMPを消費して技を繰り出す。
打撃技では【連打】という名前だったが、斬撃では【連撃】という初期から覚えている技で斬りかかる。
レイもまたクロスと同じようにMPを消費して、エネルギーを溜めて大剣を振り下ろす技――【ヘビィ・スラッシュ】をクロスとは反対側の足へと振り落とす。
しかし、二人は攻撃しながらも視点は炎竜ではなく、カレンの方へ向いてしまっていた。
なんとなく心配になってしまったからである。
クロスでさえあのタイミングでようやく攻撃を避けることが出来た=下手をすればカレンは攻撃をかすってしまうのではないか?
そのことがクロスとレイには重要なことであり、相当ヤバかったら助けに行かないという気持ちになってしまっていたからだった。
カレンはクロスとレイがそんな風に心配そうに見ていることに気付いているのか、それとも気付いていないのかは定かではなかったが、すでに攻撃を止めて、炎竜の攻撃を避けることに集中している。
『クロスさん、そんな心配している暇があったら、カレンさんへの攻撃を邪魔するように足に攻撃をしまくってください!』
そんなクロスに電子画面を通して、アミからの注意が入る。
「わ、分かってるさ! けど、これだけの大きさだぞ! いくら怯み値があるからって言ったって無理だろ!」
『そんな言い訳はどうでもいいから、カレンさんのことは気にせずに攻撃してください! そのためのあたしたちなんでしょ!』
アミはそれだけ言って、通信を切った。
その通りではあるけれど、やはりカレンのことが心配になってしまうクロス。
が、それより先にカレンはすでに右に向かって走り出していた。
「え?」
炎竜はすでに攻撃の初動に入っているが、身体の大きさのせいでクロスには何をしているかまでは分からない。分かっている事と言えば、クロスやレイと違って、カレンには遠距離攻撃であることだった。
そんなことを考えていると、カレンに向かって放たれる攻撃がクロスの目に入る。
炎竜の名前にふさわしい攻撃――火炎放射だった。
「い、いきなりかよ!」
レイは驚いたように叫ぶ。
前回の戦闘の離脱時、ダメージは食らわなかったものの、カレンとレイを飲み込んだ攻撃。
「カレン! 無理するな!」
拡散していく炎の波に対し、クロスはそう叫んだ。
それは先ほどの恐怖が蘇り、足が竦んでしまう可能性を考えたからこその訴え。
ダメージを食らっても問題ない。
自分が言えることはそれだけだ、と思っていたせいだった。
しかし、クロスの気持ちを裏切り、カレンの横方向から迫る炎に対して、先ほどクロスがやったように飛ぶ。
飛ぶと同時に迫った炎の拡散射程から離れたらしく、無傷で攻撃を回避することに成功する。
『だから言ったじゃないですか。カレンさんはあたしたちに任せてくださいって』
ブゥン! と、クロスの目の前に現れた電子画面の中から呆れた口調で不満を漏らすアミ。
まるで自分たちのことが信頼されてもらっていない。
そう言いたげな視線で画面の中からクロスを見つめていた。
「それでも心配になったんだからしょうがないんだろ! それより、今のはもしかしてベルが?」
『当たり前じゃないですか。クロスさんとレイさんが近距離、カレンさんが遠距離で攻撃している以上、カレンさんに行われる攻撃は遠距離になることが分かっていたから、攻撃範囲外に移動する指示が出来たんですが……。とにかく回避はあたしたちに任せて、クロスさんは攻撃に専念してください』
「分かったよ!」
『あ、ちょっと相談があるんですけどいいですか?』
「はぁ? なんだよ!」
そう言った時、クロスの耳にドゴォォン! と再び爆発音が聞こえる。
全く先ほどの同じ音にレイがまた【バースト・ウォール】を使って、炎竜の攻撃を防いだことを理解する。
そして、攻撃対象の順番が自分に来たことも。
「相談するのは良いけど、ちゃんとサポートしながら言えよな。さすがのオレも会話しながらの回避なんて出来ないんだから」
『当たり前じゃないですか! バカにしないでください!』
「はいはい!」
『それで相談っていうのは次の回……下手したら次の次の攻撃対象時まで自分一人の力で避けてくれませんか?』
「……は!?」
アミの相談にクロスは目をきょとんとしながら、炎竜の身体が全体見回せるようにバックステップを行う。本当は足を止めて驚きたかったのだが、そんなことをしている余裕はなかったため、そんな反応しか出来なかったのだ。
しかし、アミはそんなことを気にしないようにサポートを行う。
『あ、次の攻撃は寝転がり攻撃ですね。ダメージ範囲外はここです!』
アミの予測から導き出されたデータがクロスの電子画面に現れる。
範囲外は完全に壁ギリギリの距離。
バックステップでは絶対に間に合わないと悟ったクロスは、炎竜に背中を向けて全力で壁に向かって走り出す。
「くそったれ! なんでこのタイミングで寝転がり攻撃なんだよ! それよりも! なんで次の次まで一人で避けなきゃいけないんだよ!」
『それはですね。あたしが炎竜を解析して、炎竜が行う攻撃などを分析しようかなって思ってるからです』
「は、はぁ!? そんなの三人でいるんだから分担で――」
『出来ると思いますか?』
「…………いや、カレンとレイだからなー」
『だからこそクロスさんに頼んでいるんじゃないですか。強すぎる設定のボスなんですから、それぐらいの解析は必要ってことです!』
「り、理屈は分かるけどな……っと!」
全力疾走で壁近くまで辿り着いたクロスは、ある程度の距離まで近づくと地面を蹴って、壁に向かって飛ぶ。そして壁を更なる踏み台として利用して壁に自分の足跡を残すほどの強さで思いっきり蹴って、バク転。そのまま炎竜を飛び越える。
その隙を利用しないわけがなく、そのまま空中から炎竜の背中に向かって、飛ぶ斬撃――【エアロ・スラッシュ】を放つ
双剣になっていることで左右の剣から放たれるメリットが生まれているおかげで、単純に攻撃力は二倍になっている。
が、そこでクロスは衝撃的事実を見てしまい、
「ま、マジかよ……」
そう呟きながら、床に着地するのだった。




