(12)
そんなことを話していると、広間へと入る扉の前へと辿り着く。
あの時、カレンが破壊した扉は完全に修復されており、何事もなかったようになっていた。
「なぁ、広間の中にいる炎竜って俺が戦ってた炎竜だと思うか?」
アミたちの準備がまだ整ってない間の時間を埋めるように、レイがクロスへ尋ねる。
クロスは首を横に振りながら、
「その可能性は低いな」
「そうか。もし、俺が戦ってた炎竜ならHPが少し減ってるから、気休め程度に楽だと思っただけだから気にしないでくれ」
「そうだったらいいな。少しは緊張が減るし」
「そうだねー。最初から減らすってなると、本当に大変そうだもんね」
カレンもクロスに同調し、首を縦に振った。
三人の気持ちは完全にシンクロしており、そのことが絶対にないと分かっている以上、ため息を吐くことしか出来なかった。ため息もまた三人同時で。
すると、申し訳なさそうにスレイがクロスへと話しかける。
「あの、言われた通りの情報交換は終わりました……」
「本当に大丈夫か? 別に焦ってないから大丈夫だぞ?」
「はい! アミさんとベルくんのおかげで色々知ることが出来ましたから、ある程度は大丈夫だと思います。ただ、いきなりなので不安は完全に拭いきれないですけど……」
「……いきなり、ねー」
そこであることを思い出したクロスは、スレイの少し後ろにいるアミとベルを見つめる。
クロスの視線に反応したのはベル。
「なんだよ?」
「いや、いきなりってお前らもだよな、って思い出して」
「あー、それもそうだったな」
「え、そうなんですか!?」
食いつくように反応するスレイ。
どうやら教え方が上手かったせいで、すでに実践していると思い込んでしまっていたらしい。
その驚きに返事をしたのはアミ。
「まぁ、実はそうなんですよねー。一応、ここに来る前に一回だけ雑魚モンスターと戦ったんですけど、その時クロスさんとカレンさんは目視でコンビネーション攻撃してたので……」
「い、一回!?」
「はい、一回だけです。だから、私たちもぶっつけ本番に近いんだよね」
「……本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫……だと思うよ? ね、ベルくん」
さすがに言い切れなかったアミは、ベルへ賛同を求める。
しかし、ベルも不安な表情は隠せないまま、
「う、うん。やれる範囲で頑張るしかないよ。も、もしかしたら、背水の陣のおかげでいつも以上の実力が発揮出来るかもしれないし……」
そう答えながら、カレンを見た。
カレンも「あ……」と話を振られたことを察して、
「い、いけるよ! うん、いける! ね、クロスくん!」
案の定、クロスを見た。
――一周させるぐらいなら、速攻でオレに触れよ!
心の中でそう突っ込みを入れつつ、
「やりきるしかないだろ。それ以外、どうしようも出来ないんだから。ここで素直に退くなら、訓練は出来るけど……そのつもりないんだったらやるしかない。それに、一番大事なのは全員アミたちを信じることだ。アミたちは本当に優秀なんだし、こいつらの忠告に耳を傾ければなんとかなるようになってる。オレたちはこいつらに生かされてるようなものなんだから、絶対に逆らわないこと。いいな、カレン。いや、特にレイ!」
アミを親指で差しながら、カレンを見た後、最後に一番忠告しておかなければならない相手――レイを見る。
カレンは当たり前のように頷き、レイは「うっ!」と声を漏らしながらもしっかりと頷く。
クロスの言葉にベルとスレイも「うんうん」と納得する中、
「結構かっこいいこと言ってますけど、あたしの話を聞いてないのはクロスさんも当てはまりますよね?」
クロスのことを最初から見ていたアミだけがジト目で不満を露わにした。
――余計な所で茶々入れやがって!
今の発言は自分でも決まっていたと思っていたクロスにとって、アミの反逆は予想外の出来事。それが原因で思わず片足を一歩だけ下げてしまう。
その行為がさらにアミの発言の信用を生み、一瞬にして全員白けた目がクロスへと向けられる。
反撃するタイミングをようやく見つけたレイが、
「クロスも同じ穴の貉だってことか」
フン! と鼻で笑いながら見下す視線を向ける。
カレンはカレンで情けないようなため息を漏らす。
良い台詞が台無しだよ。
そんな言葉がクロスには聞こえたような気がしてしまうほどのため息。
「やっぱり迷惑かけてるんだな」
分かってた、と言わんばかりにベルも発言する。
スレイは、そんな周囲の反応にアワアワとクロス含む全員の様子に視線を合わせていた。
「い、いや! こ、これには――」
「はいはい、もう行くぞ。いいなー!」
クロスの言い訳すらも聞いてもらえず、レイがそう発言。
言い訳なんて聞かない。
お前の優位はなくなった。
そう言わんばかりに扉のノブに手をかける。
「うん、いいよ!」
「頑張りましょう、カレン様!」
「が、頑張ります!」
レイの言葉に三人は答えながら、
「今まであたしの忠告を聞こうとしなかった罰ですよーだ!」
アミはこのタイミングを狙っていたかのように言って、舌を出す。
「アミー! お前って奴はーッ!!」
そう吠えるクロスを無視して、扉を開けたレイを先頭にして広間へ入った。もちろん、最後はクロスである。




