(11)
さっきまでとは違い、ゆっくりとしたスピードで炎竜が居る広間へと向かい歩いていると、思い出したようにカレンがクロスへと尋ねた。
「ねぇ、クロスくん」
「ん?」
「どういう感じで戦うの?」
「んー……どうしようか?」
「カレン、なんで俺じゃなくてクロスに聞くんだよ!」
リーダーであることに対しての自覚を持っているレイは不満を吐く。
カレンからすれば自然に尋ねてしまったことであり、故意ではなかった。
もし、クロスに尋ねてしまった理由があるとすれば、それは本能でクロスの方がレイより全てが上であることを気付いているからに過ぎない。
しかし、そんなことを言えるはずもなく、
「ごめんね、レイくん。ほら、私たちってパーティーを組んでた時の影響で……ちょっとね。パーティーでの戦闘訓練してたから」
カレンはそう説明することしか出来なかった。
「パーティーでの戦闘訓練、ねぇ? どんな訓練してたんだ?」
「んーと、お互いがお互いをフォローし合う訓練かな」
「それ、俺の時と一緒じゃん」
「うん、そうだね。でも、初めて組むから息を合わせる訓練だよ」
「そんなこともクロスは出来ないのかよ」
レイは馬鹿にするように鼻でフンッと笑って見せる。
――こいつはどんだけ馬鹿なんだろうか?
クロスはそんな反応しか出来ないレイを冷めた目で見ることしか出来なかった。
それはカレンも同じ感想を持ったのか、クロス以上の蔑んだ目をしていた。
その影響はアミたちにも伝わり、この場でクロスたちの考えるパーティーでの戦闘訓練の意味に気付いていないのはレイだけとなる。
「それでクロス、どうするんだ? 作戦参謀のお前に陣形を考えさせてやるよ」
リーダーもといその名だけを襲名したレイが偉そうにクロスに尋ねた。
――いつ、オレが作戦参謀になったんだよ。
そう思いつつも、カレンとアミたちの視線を受けて、陣形を考える。が、すぐにそれは決まる。
いや、そうせざるを得ないと言った方が正しかった。
「レイ、お前前衛。カレンが後衛でサポート兼援護射撃。オレが中距離で行く。んでもって、レイお前は無理せずにカウンター技だけ狙え」
「はぁ? そんなのMPの無駄遣いになるだけじゃないかよ!」
「さっき死にかけた奴が文句を言うな。それとも何か? リーダーのくせに誰よりも先に死にたいのか?」
「っ!」
「誰かを庇って死ぬならまだしも、無謀な攻撃で死ぬほど――」
「わーかった! 分かったよ! 無理しない程度に攻撃する! それで文句ないだろっ!」
「それでいい」
クロスはレイに見えないように四人に向かって親指を立てる。
その仕草に四人とも気付くか気付かないかはどっちでもいいとして、レイの無駄な攻撃を封じ込めることに成功したことは間違いなかった。
そして、次はカレンの立ち回りに伝える。
「カレンは遠慮なく援護射撃。つか、回復は気にしなくていいから、オレとやった時の訓練を思い出せばいい」
「うん、分かった。サポートとしてはどう動けばいいの?」
「リーダーの抑制」
「その役目、承りました」
「おい! どういうことだよ!」
すかさずレイのツッコミが入る。
が、わざと呆れた声を出して、
「血が上って、周囲が見えなくなるんだから止める役目は誰か必要になるだろうが。そのことを言ってんだよ」
クロスがそう言うと、レイは口を閉ざした。
先ほどの炎竜との戦闘が頭を過ぎったらしい。
そして、今度はアミたちに話しかける。
「アミたちはオレたちの回復とかを優先的に頼む。アミはまー、いつも通りって感じだな」
「了解です!」
アミはもう分かっているため、敬礼で応える。
しかし、ベルとスレイはそのことを分かっていないため、首を傾げていた。
そのことを代表して、ベルがクロスへと質問。
「どういうことかちゃんと説明しろ」
「悪い悪い。きっとカレン以外は自分のHPやMPの確認を忘れる可能性があるから、それを確認しながらアイテムを取りやすい場所に出してほしいってことだよ。ベルの場合はカレンが近接じゃないから問題ないと思うけど」
「そういうことなら任せろ」
「あとはレイの動きを見て、それをカレンに伝える仕事な」
「……分かった」
ベルは思いっきり不満そうな表情を浮かべながら、隠すことのなく舌打ちを漏らす。
そんなベルを宥めかのように、
「ベル、一緒に頑張ろう」
と、カレンと言うと、
「はい!」
すぐに表情を真面目な表情に切り替えるベル。
その変わり身の早さに苦笑いしながら、クロスはスレイの方を見た。
「次はスレイだな」
「スレイにも何かあるんですか?」
「もちろんあるさ。詳しくはアミとベルに聞いたら分かると思うけど、オレたちとレイの戦闘パターンのデータを交換し合って、情報を分かりやすくしといてくれ。それでお互いの攻撃が邪魔にならない場所を割り出して、それをレイに指示するんだ。そうしたら誤射とのか心配しなくて済むしな。誰かさんみたいに」
「なるほどです! さすがはクロスさん」
スレイから一瞬視線を外して、レイをチラ見してから言うと、スレイも困ったような笑いを溢しながらも素直に頷いてくれる。
誰かさんみたいに変なプライドがないことを心の底からクロスは安堵した。
そして、スレイはアミとベルにクロスから言われたことを聞き始めた時、
「さっきからオレの文句ばっかり言いやがって」
話しかけるタイミングを見つけることが出来たかのように、さっそく文句を言い始めるレイ。
「だって本当のことだろ? カレンにも言ったけど、サポート妖精の使い方下手くそだしな」
「スレイが――」
「何を言おうとした?」
スレイの悪口を言おうとしたのは分かっていたからこそ、クロスはその言葉に割り込み、さっきまで放っていた怒気を再び燃焼させる。
レイはそのことにビクッと身体を震わせ、先ほどの蹴りを思い出したのか、目を潤ませた。
「な、なんでもないです」
「そうか。ならいい。とにかくだ、いきなりのパーティープレイだから戸惑うことはあるだろうけど、頑張るしかない。いいな?」
「分かってるよ。……俺、リーダー辞めようかな」
急に不安になったらしく、レイがボソッと呟くがクロスは無視。その代わりにカレンに向き直り、小声で話しかける。
「カレン、マジで頼むぞ。本当にこいつは死にかける可能性があるから」
「うん、大丈夫だよ。しっかり見張ってる。それよりはクロスくんが一番心配だよ」
「へ? なんで?」
「レイくんが近距離って言ってたけど、一番危ないのはクロスくんだよね? 私たちを庇って無理しそうな気がする」
「大丈夫だって」
「……うん」
カレンはあまり納得していないようだったが、しぶしぶ頷く。
何を言っても無駄なんだろうな。
カレンからの表情からクロスはそれが読みとれた。
――オレのことを見ていただけのことはあるなー。
無理をするつもりはあまりないが、状況によっては無理をしてしまう可能性があることを否定出来ないクロスは、カレンの頭に手を置く。
「信用してくれって。本当に大丈夫だから」
頭を優しく撫でながら、そうやって誤魔化すことしか出来なかった。




