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 クロスとカレンはレイに言われた通りにアイテムを買い始める。

 しかし、近くに商人はいないため、必然的に買う=課金での買い物へとなってしまう。ボスがあれほどまでに強いと思っていなかったクロスたちからすれば、課金への抵抗力は緩和されており、課金することに対しての躊躇いなどなかった。

 クロスはアミによって開かれた画面に従い、アイテムの選択と個数を設定していく。


「そんなに買うんですか?」


 クロスがHP薬の上限いっぱいの99個を設定した時、アミがちょっと意外そうに声を漏らす。

 ちなみにクロスはHP薬を過去にこれほどまで買った覚えはない。

 この世界に来た時でも50個を限度にしており、そこからはこの世界に存在する商人からモンスターを倒して稼いだお金で買うことにしていたからだ。

 今回、これほどまでに買った理由はパーティ間での受け渡しが自由になっているため、カレンとレイのことを考えて多めに買っているに過ぎない。

 そこでクロスは二人の様子をチラッと見た後、思い直したように個数を30にまで減らす。


「極端すぎですよ」

「んー、一応あいつらのことを思ってたんだけど……。問題なさそうだし、気にしなくていいかなって思い直したんだよ」

「パーティになると気前が良くなるというかなんというか……」

「そうかー? でも減らしたんだし、そうでもないんじゃね? 余ったら余ったで、後で使えると思ったから設定してたに過ぎないんだけどな」

「あー、それはそれでありですね。というより、クロスさんに必要なのはHP薬じゃなくて、間違いなくこっちですよね?」


 そう言ってアミが指差すのはHP薬の隣にあるハイHP薬。

 名前の通り、HP薬よりも回復量の多いHPアイテム薬のことである。


「もちろん買う。いや、HP薬もMP薬もある程度買っとく。言っとくが全力で狩る予定だからな?」

「全力、ですか? ちょっと意外です」

「何がだよ?」

「中ボスの赤竜の時はある程度余裕を持って挑んでたのに、今回は本気で行くなんて……」

「ボス戦だからな。本気で挑まないと勝てそうにない気がする。それにパーティ組んで挑むと体力が少しだけ増すんだろ?」

「その通りです」

「面倒な話だよな」


 今までクロスがパーティを組まなかった理由もそこにあった。

 ぼっちプレイを好きでやっていたわけではなく、パーティを組めば中ボスやボスの体力が普段より少しだけ多くなってしまうことを知っていたからこその考えだったのだ。

 効率の話で考えればパーティで挑めば早く終わるだろうが、それはあくまで現実でのゲームでの話。勝とうが負けようが死ぬことはない。

 しかし、こっちでは少しの隙が命取りになってしまう。

 パーティを組んで誰かが大ダメージを受けてしまった場合、自分の意識が一瞬でもそちらに向いてしまうことが、クロス自身一番分かっていた。

 アミもそのことは分かっているらしく、両腕を胸の前で組み、


「とにかく頑張りましょう」


 そう激励が飛ぶ。


「おう。パーティを組んでるんだから絶対に死なせるわけにいくか」

「大丈夫ですよ。そのためのあたしたちなんですから。クロスさんはいつも通り、戦闘に集中してください」

「頼んだぞ。赤竜みたいに――」

「言わなくても分かってますって。クロスさんが集中し過ぎるとHPやMPのことを気にしなくなることぐらい。だから、そこはあたしの独断でやりますよ?」

「それでオッケーだ」


 クロスが右手を上げると、アミも右手を上げ、コツンとそれを合わせる。

 その時、スレイからびっくりした声が上がった。

 スレイの声につられるようにクロスとアミ、カレンとベルもレイたちの方を見てしまう。


「ちょっ、それ買うんですか?」

「うるさい!」

「す、すみません! けど、それ高額ですよ!?」

「いいんだよ!」

「は、はい……」


 今までと変わらない脅し発言にクロスは苦笑いしつつも、クロスは自分の買い物に集中しようとした時、


「――って、カレン様もなんでそれをチョイスしてるんですか!」


 と、スレイと同じようにベルの大声が上がる。

 またもやその声につられるように見てしまうクロスとアミ。

 代わるようにレイとスレイも二人を見ていた。


「え? いいの! 気にしない気にしない」

「いや、気にしないじゃなくて……」

「ボス戦なんだよ? 準備はばっちりにしておかなくちゃね」

「それはそうですけど……」

「はい、じゃあこれもっと!」

「はいはい、何も言いませんよ。もう何も言いません」


 そんな会話が二人から発された。


 ――なんだかんだで考えること、みんな同じなのか?


 二人が何の高額アイテムを買ったのか、クロスには検討が付かない。付かなかったが、パーティで生き残るためのアイテムであることの確信はあった。


「みんな、考えることは一緒ってことですね」


 「ふむふむ」とみんなの協調性が生まれていることを喜ぶようにアミは呟く。


「みたいだな」

「それでクロスさんも何か高額商品を買ったりするんですか? 驚く準備は出来てますよ?」

「買うと思うか?」

「……いいえ、まったく思わないです。不思議なことですね」

「そうだろうそうだろう」

「あっ、なるほどー」

「ん?」

「クロスさんには協調性がな――」

「何か言ったかね、アミくん」

「いえ、何でもありません」

「素直でよろしい。というより、オレはサポートに回れないんだけなんだけど」

「速攻で理解出来ました。クロスさんよりも総合的な能力がお二人は低そうですもんね」

「そういうこと。だから、オレは戦闘に集中するって言ってるんだよ」

「了解です。あ、アイテムはこれぐらいでいいでしょう」


 クロスが選んだアイテムの選択を見ながら、区切りを付けて、購入画面へと移る。

 その間、クロスの画面では〈NOW LOADING…〉という画面が見ることになるため、アミが何をしているのかまでは分からない。分かることは、VR化した人間用の購入方法があるということだけ。

 それを知らせるように、アミの指は高速で電子キーボードを打っていた。

 最後にエンターキーをターン! と勢いよく押すと、


「はい、これで完了です。アイテムの確認をしてください」


 アミは確認するようにクロスに促す。

 ちょうどクロスの目の前にある電子画面も〈NOW LOADING…〉から、いつものアイテム欄へと変わっていた。

 クロスは言われた通り、アイテムの確認後、


「問題なしだな。よし、こっちの準備はオッケーだ」


 全員に聞こえるように立ち上がり、大きく一回背伸びを行った。

 それに応えるかのように、


「こっちも準備万端だよ!」

「いつでも行ける」


 カレンとベルも立ち上がり、


「リーダーは俺だって言ってるだろ。先だって言ってんじゃねぇよ」

「ま、まぁまぁ……。それぐらい良いじゃないですか」


 不満を露わにしながらレイが立ち上がると、スレイもつられるように宥めながら宙に浮かぶ。

 準備が整った三人は自然と洞窟へと入る入口へと視線を向け、誰からともなく歩き出す。


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