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「あ、そうだ」


 寄ってきたアミの頭をレイと同じように指で撫でながら、あることを思い出す。

 その言葉に全員が自然とクロスへ視線が集まる。


「今後はどうなるかなんて分からないから言っておくけど、カレンに愛情を求めるなよな。いくら、レイの過去を知ってるからって母親代わりにはならないんだから」

「なっ!?」

「ん? そうなんだろ?」

「そ、それは違う!」

「え? 違うのか? オレはカレンにそう聞いたんだけど」


 レイは顔を真っ赤にしながら、顔を横にブンブンと勢いよく振る。

 それを確認した後、クロスはカレンへ視線を移すと、カレンもまた「あれ?」みたいな表情をしていた。

 それを確認すべく、カレンは口を開く。


「私はてっきりそうだと思ってたんだけど……」

「いや、お……俺は……」

「本気だったんだ……」

「当たり前だって! 少なくともカレンの方が母親よりも優しいさ。昔からそうだったから母親の代わりなんて必要ない。本気で俺はカレンのことが好きで……好きになったんだ……」

「そう、なんだ……。なんか、ごめんね。勘違いしてたみたいで……」

「ううん、俺もカレンを誰にも取られたくなくて必死だったから……」


 そこで二人の言葉は詰まってしまう。

 お互いがどんな風にフォローすればいいのか、それが分からないせいだった。

 場違いであるクロスはアミにこっそりと話しかける。


「なぁなぁ、オレ移動した方が良くないか?」

「した方がいいかもしれませんね。でも、原因を作ったのはクロスさんなんですよ? 勝手に移動したら怒られると思いますけど」

「あー、それもそうだな。一言声をかけたら問題ないと思うんだが……どう思う」

「それはそれで否定されかねないと思いますよ?」

「だよなー。でも、この空気が嫌なんだけど……」

「それは同感です」

「じゃあ、一声かけて逃げよう。それがいい」


 クロスはアミに言われた通り、声をかけようと右手をおそるおそる顔の横に持ち上げ、


「悪い、ちょっと場違いだか――」

「逃げないでよね?」

「逃げるな」


 言葉の途中でカレンとレイによって遮られてしまう。

 言葉だけならまだ無視して逃げ切るという強硬手段を取れたかもしれないが、カレンとレイの目から放たれる獲物を狙っている猛獣のような視線から足が竦み、逃げるという選択肢がなくなる。

 故にクロスは、


「余計な口を挟んですみませんでした」


 と、素直に謝罪をすることしか出来なかった。

 そう言うことでようやく二人の視線がクロスから離れる。

 アミはその視線が離れるまでの間、ずっと震えており、離れた直後ホッとため息を漏らす。


「失敗ですね」

「そうだな。この状況を素直に見守ろう」


 クロスとアミは「うんうん」と頷きながら、二人の様子を見守ることにした。

 二人は息を合わせたようにまた黙り込んでしまう。

 待つこと二、三分。

 最初に口を開いたのはカレン。


「あのね、ごめん。レイくんが私のことを好きなのは知ってるけど……私には好きな人がいるの?」

「ああ、知ってる。いや、気付いてたさ。俺と一緒にいる時、カレンはしっかりしたお姉さんみたいに振舞ってくれてたから。少なくともクロスと一緒にいる時は違った」

「……うん、ごめんね」

「だから、俺はクロスが許せなかったんだ。なんで、あんな風にあいつばっかり……って思って」

「……」

「でもさ、今日ちゃんと話してみて分かった。カレンがなんでクロスに惹かれたのか」

「そっか。なら、良かった」

「もしかして、クロスには自分の気持ちを……」

「うん、話したよ。ね、クロスくん」


 再びカレンとレイがクロスの方へ顔を向ける。

 微笑んでいるカレン。

 ちょっとだけ羨ましそうに見るレイ。

 二人の相反する表情にちょっと動揺しつつも、「ああ」とクロスは答える。


「クロス、カレンを大事にしろよ。分かってるのか?」

「大事にしろって言われても、オレ返事してないんだけど?」

「はあ!? なんで返事してないんだよ!!」


 レイはそのことが気に食わなかったらしく、クロスへダッシュで近寄ると胸倉を掴んで、顔を引き寄せる。


「カレンが告白したんだぞ! それに応えるのが男の役目ってもんだろうがッ!」

「わ、分かってるって! 落ち着け! まだ話の続きがあるんだよ!」

「続き? 何のだよ! まさか別に好きな人が……ッ!」

「違う違う! レイの気持ちは分かるけど落ち着け! 本当にオレの話を聞けよ! 暴走すんな!」

「暴走してねぇよ! カレンのことを考えて――」

「レイくん、少しは落ち着いて。私なら大丈夫だからさ!」


 カレンはなぜかクスクスと笑いながら、クロスとレイの間に割り込むように横から入り、クロスを掴むレイの手を無理矢理放そうと試みる。

 レイもカレンの言葉に従い、その行動に逆らうことなく放す。しかし、納得はしていないらしく、未だにクロスを睨んでいる。

 クロスはカレンの介入に安堵したようにため息を漏らした。


「レイくん、クロスくんの言うようにこの話はまだ続きがあるから、ちゃんと聞いて欲しいの」

「……うん。何?」

「クロスくんは私が告白した時にちゃんと返事をくれようとしたんだけど、私が拒んだの」

「えっ!? なんで!? せっかく告白したのに!?」

「んー、クロスくんが流れで返事をくれようとしてたからかな。私が欲しかったのはクロスくんの本当の返事だからね。しばらく考える時間をあげたの。だからね、クロスくんが悪いわけじゃないんだよ。ごめんね、なんか勘違いさせちゃったみたいで」

「そういうことか……。俺の方こそごめん。先走って」

「それは私じゃなくて……」


 そう言って、カレンはクロスの方を見つめる。

 カレンの指示に従うように、


「ごめん、クロス。また迷惑をかけて」


 素直にクロスに頭を下げるレイ。

 カレンは「うんうん」とこの問題は解決したと言わんばかりの笑顔を見せているので、その頭に拳骨を落とす。


「いたっ! な、なんで!?」

「オレが動揺してるの見て、ちょっと楽しんでたろ?」

「え、あ……そんなことないよ!」

「その最初の『え、あ……』ってなんだよ。いや、そもそも介入が遅いんだよ! しかも、介入する時も笑ってるし!」

「あ、あはは……ごめんね。滅多にああいう姿が見れないからさ! クロスくんって意外と冷静な時が多いから。ね、そう思うでしょ?」


 同調を求めるようにレイを見るカレン。

 レイはしばらくクロスを見た後、首を縦に振る。


「気に食わないぐらい落ち着きてる時が多いな。それが腹立つ要因でもあるけど」

「それは分からなくもないね。何、考えてるか分からない時もあるし」

「好き勝手言ってんじゃねーよ!」


 レイの言葉に頷きながら同調するカレンに、クロスはそう吠えるしかなかった。

 この会話の何が面白いのかクロスには分からなかったが、カレンの言葉にレイも少しだけ笑ってくれていたことが唯一の救いだった。


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