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 しばらくして泣き止んだカレンはクロスの上から降りると、小さく謝罪の言葉を漏らし、近くにある木に凭れるようにして座った。まだ落ち込んでいることを知らせるように体育座りをしている。

 アミたちも泣き止んではいるものの、やはり落ち込んでいる。

 レイに関しては何とも言えないような表情を浮かべているため、表情だけでは何を考えているのかまでは読み取ることは出来ない。ただ、カレンに怒られたことにより、それなりに堪えてしまっているような雰囲気ではあった。

 クロスはそんなレイに近づき、屈むと視線を合わせる。


「なぁ、お前の過去はカレンに教えてもらったけどさ」

「何、勝手に他人ひとの過去を聞いてんだよ」

「違う。お前とスレイが仲良くなってもらいたくて、カレンが相談してきたんだ。その流れでだよ。聞きたくて聞いたんじゃない」

「屁理屈言うな」


 そこでクロスは返事に困ってしまう。

 レイからすれば、間違いなく勝手に他人の過去を聞いてしまったことに変わりはないからだ。本心では聞きたくなかったとしても聞いてしまったら、レイの言うことも最もだ、と納得してしまった。

 だから、クロスはその非を素直に認め、


「悪い。レイからすればそうだな。それについては謝る」


 頭だけペコンと下げる。


「……謝んな。調子が狂う」

「仕方ないだろうが。悪いと思ったから謝った。それだけのことだ」

「……」

「それはどうでもいいんだよ。お前の過去を聞いて気持ちは分かるけど、こっちにまでその八つ当たりや気持ちを持ってきてどうすんだよ」

「うるせぇ。クロスに俺の気持ち――苛められて、不登校になった奴の気持ちが分かるのかよ! こっちでぐらい自由にやらせろよ!」

「不登校になる気持ちは分かるけどな」

「俺の味わった気持ちとクロスが考えてる気持ちは違う! クロスは味わったことがあるのかよ! イジメのことを教師に報告したら『気のせい』とか言われて学校の教師どもは認めないし、それが原因で学校に行かなくなったら親に『逃げてる』って言われるし……、俺はどうすれば良かったんだよ!」

「さあ?」

「……は?」

「ん? なんだよ」

「なんでそこで説教じゃねぇんだよ!」

「説教して欲しいのか?」

「……そういうわけじゃない」

「だろ? そもそもオレに回答を求めた所で反発するくせに、変な風に回答を求めるなよ。気持ちは分かるけど、その回答をオレが言うのは良くないだろ。まー、年上として言っとくけど、この世界はこの世界で楽しめよ」


 クロスはそう言って立ち上がりながら、レイの頭を二度ほど軽くポンポンと子供をあやす時に叩く。

 まさか、そんなことを言われると思っていなかったのか、レイはポカーンとした表情でその行為を振り払うことなく受け入れる。

 そして、クロスがアミたちの方へ振り向くとそこにはレイ同様にポカーンとしている全員の姿。


「なんで間抜け面してんの?」


 そう尋ねるとまずはアミが、


「それはこっちの台詞ですよ! なんで説教じゃないんですか!」


 と、大声を上げ、


「とりあえずスレイさんの名前の件について謝らせるつもりとかさせろよ!」


 ベルがレイに向かって指を差し、


「あ、あの……怒らないんですか? スレイはてっきりさっきみたいにレイさんをボコボコにするのかと……」


 遠慮気味にそう呟くスレイ。


「もうちょっとしっかり叱ってよ! 私の言うことは聞いてくれないんだから!」


 最後にカレンがクロスにそう促す。

 四人の反応にクロスは髪を掻きながら、「ふむ」と小さく考え込む素振りをして見せる。が、その中で気持ちは完全に説教する気を失くしていた。というよりも他の四人と悲壮感や怒りを見ていたせいで、逆に気持ちが冷静になってしまい、その気持ちがどこかに消え去ってしまったのだ。そんな状況で残ってしまったのは、レイを同情する気持のみ。そう考えるとどうしても説教なんてものは出来なくなってしまった。


 ――まぁ、オレが説教なんて出来るようなキャラじゃないんだけどな。


 そんなことを思いながら、四人に促されるようにレイの方へ再び向き直る。

 四人の言葉に対して、レイは覚悟したように反抗的な目でクロスを見つめ返す。しかし、心の底では怯えているのか、目は少しだけ潤いが満ちていた。


「レイ!」

「んだよ!」

「お前、反省してないのか?」

「……」

「どうなんだよ?」

「……し、してない……わけないだろ」

「うし! じゃあ、これからはスレイに優しくしてやれ。名前ばかりはどうしようも出来ないんだからな。これで解決だな。文句ないだろ、ここまでしたんだし。つか、蹴りを入れたのは悪かったな。トラウマとか大丈夫か?」


 クロスの後ろから突き刺さる四人の視線を無視しつつ、クロスはレイの様子を確認しながら、手を伸ばす。ダメージはないことは分かっていることだが、心のダメージが心配になってしまったのだ。

 しかし、レイは意外とメンタルが強くなっているのか、そんな素振りは何一つ見せず、差し出された手を掴む。そして、引っ張られるがままに立ち上がる。


「ああ、問題ない」

「そっか。なら、良かった」

「……なんか悪かった」

「気にするな。とりあえずスレイには優しくしろよな」

「分かってるよ。スレイ!」


 レイが握っていたクロスの手を離し、スレイの方は足を向ける。


「ひゃ、ひゃい!」


 スレイも返事をするも、今までのことがあるせいか声が自然と震えていた。

 だが、そんなことは関係なしに近寄るとスレイの頭に向かって手を伸ばす。

 カレンとアミ、ベルはその様子を確認しながら警戒。

 スレイに関しては何をされるか、分からない恐怖から身体を強張らせ、ギュッと瞼を閉じる。


「悪かった。ずっと側にいてくれたのに辛く当たって。辛かったよな。その痛みはオレが一番分かってるはずなのに……」


 そう言いながら、スレイの頭を人差し指で優しく撫でるレイ。

 スレイはそれが嬉しかったのか、にっこりと微笑みながら、


「いえ、いいんです。レイさんの辛さは分かってましたし、状況が状況だから辛く当たられても我慢出来ました。だから、そんなに気にしないでください。それに、スレイはレイさんのパートナーですよ? ずっと側にいるのは当たり前じゃないですか」


 柔らかい声でそう答える。

 レイは恥ずかしそうにその言葉を受け取り、


「ありがとう」


 と、ボソッとお礼を漏らす。

 カレンたちはその様子にホッとしたらしく、身体を脱力させ、アミたち妖精はお互いのパートナーの元に近寄る。そして、スレイたちに感化させられたように身体をクロスたちにくっつけた。


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