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(4)

 クロスたちは炎竜がいるはずの広間に向かって、階段を駆け下りた。

 バランスを崩してもゲームシステム的な物でバトル時以外はバランスが一定化されるため、こうやって階段を全力で駆け下りようがこけることはありえない。クロスがこの世界に入ってからはオートでそれがかかっているため、体感的に実感することは少なかったが、この状況でようやくこのシステムのありがたみを知ることとなった。

 しかし、感謝する余裕はなく、少しだけ早口でスレイに話しかける。


「スレイ、レイが所持してる回復アイテムはあとどれくらい残ってる!?」

『も、もう……残り一個ですぅ! あ、使わないと! っていうか、もう食らわないでください! レイさん!』

「くそっ、防御力が足りてねーじゃねーかよッ! スレイ、なんとかして持たせろ!」

『わ、わか……分かってますよぉ!』


 クロスはレイの無謀な行動に怒っていいのか、それともこのゲームのボスの強さの設定に怒ったらいいのか、もしくはそんな設定にしたまま死んでしまったプログラマーに怒ったらいいのか、はたまたこんな世界に連れて来たラクシムとかいう迷惑な神様に怒ったらいいのか、よく分からなくなっていた。一つ分かることはそれぐらい腹が立っていたということだけは事実。

 その時、戦闘を走っていたカレンの声がクロスの耳に届く。


「クロスくん、あの扉!」


 カレンが指差す方に見えるボロボロの木で出来た扉がクロスの目に入る。間違いなくボスがいる広間を閉じている扉だと理解した。


「カレン、射撃で破壊しろ!」

「うん! 任せて!」


 カレンはクロスの指示に従い、走りながら弓を構え始める。

 その間にクロスはアミに向かって、


「アミ、状況によってはあれをやるから準備しとけ!」

「はい、任せてください!」


 アミの返事がするとともにドゴォン! という破壊音と共にカレンの射撃によって扉は開き、広間への入口が開通される。

 クロスたちは広間に向かって飛び込むようにして入ると、一瞬だが視界に入った炎竜に目を奪われ、足を止めてしまう。

 赤竜に比べて大きい体躯、そして一つ一つがキラキラと光っているような緋色の鱗、そしてボスと呼ぶにはふさわしい雰囲気が全身から醸し出されていた。


「こ、こいつが炎竜……」


 本能的に今までの敵の比ではない。

 そうクロスの脳が訴えかけていた。

 カレンもまたクロスと同じように考えてしまったのか、ぶるっと身体を一回大きく震わせた。

 時間にして数秒。

 目を覚まさせるように飛ぶアミとベルの声。


「クロスさん!」

「カレン様!」


 二人の声にクロスとカレンはハッと目的を思い出し、戦っているレイの姿を探す。が、すぐに見つかる。

 レイは足元で大剣を斜めに構えて、防御の姿勢を保っていた。


「あ、あそこ!」


 カレンも気付いたらしく、指を差すがその前にクロスはレイに向かって駆け出す。

 あれはマズい!

 再び直感がそう囁いたからこそ、駆け出すことしか出来なかった。いや、そもそも距離的な問題のせいで、全力で駆けてもレイのいる位置までは間に合わない。

 それはスレイの声からも分かる。


「レイさん、防御じゃ駄目です!」


 炎竜の次の攻撃は前足の蹴り。

 初動なんてものは小さく足を後ろに下げる程度のものであり、攻撃だと認識してからでは回避はぼぼ出来ない攻撃だった。

 だからこそ、当初の予定通り、クロスはアミに叫んだ。


「アミ、やれ! スレイー! 全部『はい』だけ押せー!!」


 来ていたことが分かっていたスレイは、その大声にビクッと震わせながらも小さく頷く。

 レイはクロスたちが来ていたことに気付いていなかったらしく、


「な、なんで……!?」


 と、驚きの声を漏らすがクロスにはそれに反応しなかった。

 その代わり、クロスの持つ片手剣を全力でレイに向かって投擲。

 直後、クロスの前には〈パーティが解除されました〉という電子画面の表示とすかさず〈レイ☆8912に決闘を申し込みました〉と〈決闘が受諾されました〉が表示される。

 クロスが狙ったのはこの決闘のことだった。

 決闘が行われている最中は周りの攻撃は一切受けなくなる。その無敵時間をなんとかして利用して、炎竜からの攻撃を防ぐことを考えたのである。

 パーティを組んでいる時は基本的には決闘をも仕込むことは出来ない。ボス戦でパーティを解散すれば、パーティを組んでいるメンバーの邪魔にならないようにワープポイントへの強制転送されてしまう。そのため、『パーティの解約するタイミング』と『決闘を申し込むタイミング』のラグをほぼなくさないといけない。だからこそ、アミには最初から準備をさせていたのである。それにスレイもクロスの言った通り、画面に表示される言葉に対して『はい』しか押さなかったため、ワープさせられてしまうまでのラグの間になんとか間に合うことが出来た。


 しかし、ここである一つの問題が起きていた。

 決闘中に行われるカウントダウンの前に投擲した片手剣が間に合うかどうかの問題である。決闘中のカウントダウン中に攻撃をすればフライング行為として、クロスが負けになることは確定事項。しかし、それに間に合わなかった場合は、この場での戦闘が行われることになる。つまり、その間はカレンが一人で炎竜と戦わなければならない。もし、レイがクロスの考えを読みとったとしてあっさり負けてくれたとしても、HPが1《イチ》だけ残ってしまい、今よりもピンチになることだけは間違いなかった。そのため、なんとかしてフライングで当てたかったのだ。


 ――当たれええええええええええええ!!


 クロスは必死にそのことを願いながら、投擲した片手剣とカウントされる画面を交互に見つめる。

 レイもまたクロスの目的を察したのか、防御の構えで持っていた大剣を投げ捨て、なるべく身軽にして片手剣へと突っ込む。

 画面の表示には残り二秒。

 片手剣とレイとの開いている距離から計算しても間に合わない。

 そう知るには十分な時間だった。


「レイいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 クロスとレイは叫ぶことしか出来なかった。

 そんな二人の叫びを無視するように、画面に映ったカウントダウンは容赦なく0《ゼロ》を表示する。


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