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(2)

 四人の前に現れたのは、炎を身に纏うオオカミ――フレイムウルフというモンスター。容姿や名前から分かる通り、普通のオオカミだが火の攻撃と直接攻撃にも属性ダメージが付与されている。

 相手はすでに戦闘態勢に入っており、身体を前かがみにさせて威嚇していた。


「じゃあ、試しにやってみるか」


 クロスの声と共にカレンたちは、


「うん!」

「はい!」

「分かった」


 と、それぞれ返事を返す。

 クロスは現在装備している片手剣を構えて、カレンより一歩前に出る。

 カレンもまた刃弓の弦を引いて、いつでも射撃出来るように準備を整えた。

 アミとベルもクロスたちと同じように電子キーボードを出現させ、修正出来るように準備。

 そして、その準備が整ったことに気付いたのか、フレイムウルフが涎を垂らしている口を大きく開け、クロスへと襲いかかる。

 クロスはその攻撃をサイドステップであっさりと躱す。

 すると、その動きに気付いていたカレンがすかさず射撃。


「ぎゃう!」


 フレイムウルフの情けない声と共にHPバーが少し減少。しかし、すぐに次の標的であるカレンに狙いを定め、今度は炎を纏う爪で襲いかかろうと軽くジャンプした。

 カレンはそれを避けようともせずに弦を引いて、次の射撃に備える。

 フレイムウルフの攻撃に気が付いていないわけではない。攻撃しかけてくることはちゃんと分かっていた、が、反撃に備える必要がないと判断したのだ。

 その証拠にもう少しでカレンに届こうとしていたフレイムウルフの攻撃がザシュ! という音ともに横に吹っ飛ぶ。

 その攻撃をしたのはもちろんクロス。次の標的になるのがカレンだとシステムの関係上分かっていたクロスは、片手剣の遠距離技として早めに覚えられる飛ぶ斬撃――【エアロ・スラッシュ】を使ったのだ。

 横に吹っ飛んだフレイムウルフが体勢を立て直そうする前に、カレンは射撃の初期技として備わっている【連射】を容赦なく打ち込む。


「きゃうん!」


 フレイムウルフは今まで以上に情けない声を上げて、0《ゼロ》と1《イチ》に分解され消滅し、アイテムを落とす。

 雑魚モンスターだけあって、あっさりとした勝利を手に入れる二人だった。

 二人はフレイムウルフがドロップしたアイテムを拾うために必然と近寄ることになる。

 アイテムを取りながらクロスは、


「オレがカウンターで攻撃するのは分かってたみたいだけど、せめて避ける行動しても良かったんじゃないか?」


 と、愚痴を漏らす。

 カレンも同じようにドロップアイテムを拾いながら、きょとんとした表情を浮かべる。


「クロスくんが何とかしてくれるかなって思ったから動かなかったんだよ? 追撃して、早く終わらせた方がいいでしょ?」

「それはそうだけどさ」

「でしょ? 何か問題があった?」

「んー、ちょっとヒヤヒヤしたって感じかな」

「あー、ごめんね」

「ん」

「っていうか、あたしたちの見せ場なかったんですけど……」


 クロスとカレンの会話に割り込むように近付いて来たアミが少しだけ不満を口に出した。

 反対にベルはホッとしたような表情をしていた。


「見せ場も何も……なあ?」


 そう言いながらカレンを見つめるクロス。

 カレンもまた困ったような表情を浮かべ、


「うん。クロスくんが避けるの、なんとなく分かってたし……」

「そうそう。雑魚モンスターにそこまでピリピリする必要もないだろ」

「二人で相手すると交互に標的にされるのも分かってたから、その隙間を縫うように攻撃したら良かったから、そんなに困ることがなかったんだよね」

「そういうことだ」


 二人はお互いの考えを述べながら、「うんうん」と頷き合う。

 アミは「はぁー」と大きく深いため息を漏らす。


「つまり、そういうことですか。あたしたちの出番は下手したらボス戦になるわけですか」

「……そうなのか?」

「周辺にいる雑魚モンスター相手に苦戦するんですか?」

「さあ? 苦戦するのか?」


 クロスはアミに問いかけられた質問をカレンにも尋ねる。


「え、私に振るの!?」

「だって戦うのはカレンとオレじゃん」

「そうだけど……。クロスくんが苦戦しないと思うなら苦戦しないんじゃないの?」

「……苦戦する想像が全く見えないな。つか、ちょっとのダメージは割り切った戦い方してるし」

「うんうん。じゃあ、私の答えも『苦戦しない』になるね」

「だそうだ。アミとベルには悪いが、ぶっつけ本番よろしく頼むぞ」


 アミの視線は、それはもう冷たい物へと変化していた。「言わんこっちゃない」という無言の圧力がクロスに襲いかかる。

 しかし、クロスはそれを気にする様子は一切ない。むしろ、その視線を向けられると分かっていたため、無視することにしていたのだ。

 そんな二人にカレンは苦笑いを溢すのみ。

 ベルに関しては呆れ過ぎて物が言えないらしく、腕を組んで、顔を逸らしていた。

 その時、ベルの前にいきなり電子画面がピーピー! と今まで聞いたことがないような音を鳴らしながら出現。


「え? まさかッ!」


 急に顔色が変わり、ベルは電子キーボードを出現、操作し始める。

 そして開かれた画面の内容を見た後、慌てたようにカレンの前にも電子画面を出現させ、


「カレン様、あいつが! スレイからの緊急メッセージです」


 と、慌てた声を出す。

 カレンはちょっと驚きつつも、画面に現れた新着メールの時に出てくるようなタッチして、中身を開封した。


「え、嘘ッ! レイくん、一人で……ッ! クロスくん、今から炎竜を倒しに行ける!? ううん、助けに行かないとレイくんが死んじゃう!」


 思考が一瞬停止したクロス。

 アミも思わずポカーンとしている。

 が、即座に思考を起動させ、ひとまず驚きの大声を上げた。


「はぁああああああああ!? 何やってんだよ、あの馬鹿はッ!」

「驚いている暇なんてないの! クロスくんはどうする!? 行かないなら、パーティを解散してでも助けに行くけどッ!」

「ここで行かないなんて言えると思ってんのかよ! つか、カレンが行っても同じようにピンチになる想像しか出来ないんだよ! ったく、あの大剣馬鹿がッ! アミ、行くぞ! 助ける義理なんて全くないけど、スレイが後悔する姿がなんて見たくない!」


 クロスはアミの身体を掴むと自らの肩の上に乗せる。そして、言い出したカレンよりも早く駈け出す。

 カレンもクロスと同じようにベルの自分の身体に乗せて、クロスの後を追った。


「アミ、炎竜がいる場所までの地図を出せ。最短で行く距離を探す」

「了解です」


 クロスはカレンが付いて来ていることを信じて、後ろを振り返ることは一切しなかった。それよりももっと大事なことを考えていたからだ。

 それはどうやってレイを助け出すか、ということだった。


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