表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/55

(12)

 部屋をノックした直後、部屋のドアが開き、


「なんか色々とお疲れ様です。心中お察します」


 外での会話が聞こえていたらしく、アミが複雑そうな表情をしながらクロスを出迎える。

 クロスはその返事に対して手を振って答えると、ドアを閉めながら部屋に入る。部屋に入るとすぐさまベッドに倒れ込む。そして一言。


「もー、やだぁー」


 駄々っ子言うような泣き言口調でそう漏らす。

 クロスがこういう風に口調になる時は精神的に参っている証拠だった。

 その理由がちゃんと分かっているアミは、クロスの後頭部の少し上に着地すると、小さな手で子供をあやすようにヨシヨシと撫で始める。


「まさかパーティを組んだら、こんな風になるとは誰も思ってませんでしたからね。しょうがないですよ」

「お前なー。原因、アミにもあるんだからな?」

「え、そうなんですか!?」


 わざとらしくとぼけるアミ。

 しかし、普段より少しだけ声の高さが高くなっているため、誤魔化していることがすぐに分かったクロスは、顔を上げてジト目で睨み付けた。


「『恋の応援をしてるだけ』とか言いかけたくせに」

「え、そんなこと言いましたっけ?」

「言いかけた。正確にはカレンの声で邪魔されたけど、オレを外に追い出す前に似たようなことを言おうとしてただろ? 気付いてないと思ったのか?」

「あ、あはは……。やっぱり分かってました?」

「あの時は分かってなかった。『今、気付いた』が正確な表現だ」

「意外と鈍感なんですねー」

「オレの性格を分かってて、それを言うかよ」

「分かってるから嵌めたんじゃないですかー。嫌だなー」

「予想以上に性格が歪んでるな、アミ」

「せめて現実はモテなくても、ここでぐらい良い恋愛経験しときましょうよ。そういう気持ちであたしはカレンさんの応援したんですよ?」

「待て。なんで現実ではモテないことになってるんだ?」

「モテたんですか?」


 アミの強烈な一言がクロスの顔から足へ突き抜ける。

 全てを見透かしたような目で見つめながら、アミはニコニコと意地悪な笑顔を作っている。拒否することは許さない。そう口に出さずに言っていた。


「うっせーよ、ばーか。オレが現実でモテようがモテなかろうが、そんなことを言ってる現状じゃないだろうが」

「図星なんですね。分かってましたけど」

「だろうな。こっちに来る前にオレの経歴確認してるもんなー」

「その通りです。前に言いましたし」

「マジでこれからどうなるんだ」


 うつ伏せから仰向けに寝転がりながら、クロスは明日以降の未来について思いをはせ始める。

 クロスの頭に浮かんだのは、カレンと共闘している姿だった。現時点より確実に成長しており、カレン自らが進んで戦ってくれる姿。しかし、それの見返りを求めるように、街に戻ってからデートに付き合わされている様子も想像出来た。それを見ながら、楽しんでいるアミと不満を隠そうともしないでイライラしているベルの姿。そうやってデートしていると、どこからか現れたレイがまたケンカを売りに来て、なぜか再び決闘が始まる。

 あり得そうな流れを想像してしまった自分に、クロスは思わず吐き気を催してしまいそうになった。

 それだけ、その状況がクロスの脳内でリアルに想像出来てしまったからである。


「だ、大丈夫ですか?」


 クロスの様子にアミは宙に浮き、クロスの視界に入り、心配そうに見つめる。


 ――だから原因作ったの、お前なんだけどな。


 思いはしたが、あえて口では別の言葉を吐き出す。


「大丈夫だ。さすがに疲れてるんだろ」

「――みたいですね。とにかく明日も昼ごろまではのんびりすることにしましょうか。明日もたぶんカレンさんの特訓ですよね?」

「そう、なるのかなー」

「曖昧な返事ですね? でも、この流れで行くとしたら炎竜か他のフィールドの中ボスくらいですよね?」

「中ボスはないな。とりあえず炎竜の元まで向かってるんだから、行くとしたら炎竜討伐だろうぜ」

「まだ早くないですか?」

「早いだろうなー。つか、こんな状態で行くかよ。行くのは心にゆとりがないと無理。つーわけで、明日も特訓だ」

「了解です」


 アミは敬礼して、ベッドの上に着地。

 そして、自分にあてがってもらっているタオルケットをお腹にかけて寝る準備をし始める。が、途中で「あっ」と声を漏らす。

 クロスもその声に反応してしまい、アミの方へ顔を向けてしまう。


「どうした?」

「明日は援護じゃなくてパーティでの戦闘の訓練も視野に入れた方がいいと思いますよ? どんなことが起こるか分かりませんから」

「あー、分かったよ」

「本当に分かってます? クロスさん、たまにいい加減なところがありますし」

「……否定はしないけど、心配しすぎだって」

「心配をしすぎるってことはないと思います!」

「はいはい」


 クロスのその態度にアミは少しだけ拗ねた様子で、クロスへ背中を向けて寝始める。

 一方でクロスは返事こそはいい加減だったが、アミに言われた助言を元に明日の訓練にパーティでの戦闘を組み込むことを視野に入れて考えていた。

 いつかは訓練しないといけないことではあったが、もうちょっと先伸ばししてもいいか、と考えていたのだ。

 しかし、アミに言われたことでその考えを改め、早急にその考えを纏め始めたことで、寝る時間が遅くなってしまう。

 言い出した本人であるアミは、そんなクロスのことを知らずに、クロスより先に気持ち良さそうな寝息を立てながら眠りに就いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ