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「でも、私からすればクロスくんは主人公タイプなのは間違いない事実だからね?」


 カレンのトドメの駄目押し。

 そう言うには十分な威力が、ホッとしたクロスの心を突き刺す。

 おそるおそるカレンの目を見てみるクロス。

 そこには純粋無垢と言えるほど、そのことを信じ切っている目があった。


「な、なんでそんなことを言うかな……」

「え、駄目なの?」

「そういうわけじゃないけどさ」

「じゃあ、いいじゃん」

「はいはい」


 クロスはがっくりと項垂れる。

 どう反論したところでカレンのその気持ちを覆そうにないような気がしたからだった。


「あ、そうだ!」


 また何かを思い出したように、カレンはクロスのことをにっこりと見つめた。

 その顔を見たクロスは気付いてしまう。


 ――絶対にロクでもない、話題だ。


 口には出せず、心の中で呟きながら頬を引きつかせる。


「その顔は私が、『厄介事を持ってくる』って気付いてるよね?」

「……厄介事な話だと分かってて話すんだろ?」

「うん、その通りなんだけどねー。良いよね、主人公さん」

「その呼び名は止めろ」

「分かった。良いよね、クロスくん」

「駄目だって言ったら?」

「話す」

「いいって言ったら?」

「話す」

「つまり、どっちみち――」

「――話します」


 最初から拒否権なんて与えられていないことにショックを受けるクロス。

 どんな内容を話すのかまでは見当はつかなかった。見当はつかなかったが、カレンの目や雰囲気は大真面目なものであり、どうしても聞いてほしいということだけは嫌と言うほど伝わる。

 だから、もう好きにしろと言わんばかりに、


「分かったよ、分かった。その代わり、力になれるかどうかなんて分からないからな!」


 と、クロスは投げやりな態度を取った。

 話すことの許可を貰ったカレンは躊躇うことなく、思い出したことを話し始める。


「レイくんのことなんだよね、実は。話したいことって言うの」

「レイ? なんで、あいつのこと?」

「レイくんっていうよりも、どっちかっていうとスレイちゃん。スレイちゃんを助けてあげられないかなって。クロスくんとアミちゃんの関係まではならなくてもいいけど、せめてもう少しスレイちゃんの待遇が良くなるような関係に」

「……そのことか」


 クロス自身、そのことはずっと前から気になっていたことだった。が、口を出さなかったのは、人それぞれの付き合い方があると思っているからだ。

 しかし、カレンが相談してきた気持ちが分からなくもない。

 あの二人の関係を見てみれば、主従関係ではなく奴隷のような扱いに近い。その時、クロスの頭の中である言葉がふと蘇り、


「あっ!」


 そう言葉を漏らしてしまう。

 クロスのその言葉に『何かいい案を思いついた』と勘違いしたカレンが、


「何!? 何かスレイちゃんが助かる道を思いついた!?」


 食いついてきたのは言うまでもない。

 クロスは慌てて、それを否定。


「悪い、そういうことじゃない。ちょっと違うことに気が付いただけだ」

「え、なーんだ。違うんだ。それで、何に気が付いたの?」

「確証がないから、今、それは言えない。ただ、確証が持てた時にはちゃんと教えるから、我慢してくれ」

「ふーん、分かったよ」


 クロスの言葉を信じたのか、カレンはあっさり引き下がる。

 しかし、クロスはさっき気付いたことに少しだけだが自信があった。いや、扱いから考えれば、すでに確証に近い。けれど、それを答えてしまうとカレンが勝手に暴走してしまう可能性があるから、今は秘密にしておくしかなかったのだ。


 ――いったい、レイの身に何が起きたんだよ。


 レイの現実世界で起きたことが深く関わっていることは間違いないだろう。それが原因でひねくれてしまっている。そうやって考えれば考えるだけ、レイのことが気になってしまうのは自然の理。

 クロスの口はその疑問を勝手に口に出して、カレンに尋ねてしまっていた。


「なぁ、レイの過去のこと何か知ってるんじゃないか?」

「え?」

「あ……いや、何でもない。口が勝手に滑って出ただけだから、気にしないでくれ」

「……ふーん」


 カレンはちょっとだけ厭らしい目でクロスを見つめる。

 やっぱり気になるんだー。

 目がそう語っていた。


 ――あー、やっぱりそういう反応するよなー。


 口を滑らせた時点で、いくら否定しようがカレンがそんな風な目で見てくることはちゃんと分かっていた。分かっていたのに、口を滑らせてしまった自分が嫌になってしまう。

 そのことを現すようにクロスは髪の毛をガシガシと掻く。その後、大きくため息を吐き、


「スレイのことを何とかしてあげたいって考えるのなら、レイの過去のことを知っておかないといけない。そんな気がしたんだよ」


 と、素直にその気持ちを吐露。

 カレンは腕を組みながら、そのことを分かっていたように頷いてみせる。


「やっぱりねー。クロスくんなら、そういうと思ってたよ!」

「なんだよ、その期待は」

「期待というか信頼?」

「そんな信頼いらねーんだけど?」

「うん、分かった! じゃあ、私のお願いを聞いてくれるということで手を打とうよ。私がスレイちゃんをなんとかしたいから、クロスくんが手を貸してくれる。だから、その件でレイくんの過去が気になるってことでいいよね?」

「もう何でもいいです。だから、分かってることを洗いざらい話しなさい」

「はーい」


 がっくりと項垂れるクロスを横目にカレンは、どこにいるか分からないレイに謝罪の言葉を言い、レイの過去について話し始める。

 その過去は現実世界ではどこにでもあるような出来事。それだけに耐えきれなかったことがよく分かる内容だった。故に思わず同情してしまいそうだったが、それはきっとクロスにだけはして欲しくないと分かっている。そのため、どんな風にしてスレイを助ければいいのか、余計に難しい状態になってしまっただけだった。


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