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「じゃあ、別に武器に関しては問題なしって感じだなー」


 見せつけてくる胸に関してのツッコミはせず、クロスは顎に手を置きながら考え込む。が、良いアイディアなんてものは思いつかなかった。というのは、ステータス画面を見た時より希望が出来ていたからだった。

 現実で使ったことがあるというのは、それだけ使い方に慣れていると考えてもいい。そのため、無理に他の武器を使えるようにしなくてもその武器の特徴を掴めれば誰よりも上手くなる。

 だからこそ、刃弓に合うようなスキルを選択していけば、それなりに戦えるはずなのだ。


「それでどうすればいい?」


 カレンは突き出した胸に反応しなかったクロスをつまらなさそうに口を尖らせ、不満を露わにしながら尋ねた。


「とにかく、今は戦うしかないな。んで、レベルが上がったら、いらないスキルは切り捨てる方向で行こう。少なくともオレとパーティを組んでいる時点で『探知・索敵強化』のスキルはいらないし」

「なんで? 結構便利だと思うんだけど」

「その理由はオレがすでに持ってるから。パーティを何人で組むかによるけど、分担でスキルを持っておいた方がいいだろ? つか、別になくても困らないスキルではあるんだよなー、これ」

「いらないの?」

「雑魚モンスターごときに遅れをとらないだろ。ただ、念のためって感じで必要なだけだし……」

「なるほどねー」

「そもそも、オレたちにはあいつらがいるからなー」


 親指でアミとベルを指す。

 二人は気付いていないのか、真剣に何かを話し込んでいた。いや、アミが沈黙しているベルに向かって、熱心に教育をしていた。


「え?」

「少なくともアミみたいに気を利かせてくれたら、だいたいの位置とか分かるんだよ。サンドワームがいい例の敵だけど、ああいうモンスターは出現位置さえ分かればカウンターを狙うつもりじゃなくて、完全に回避してから攻撃に移ればいいだけの話だし。それぐらいカレンになら余裕で撃てるだろ?」

「んー、どうかな。ちょっとコツが要りそうだけど」

「そのコツならすぐに掴めるさ。まー、なんだ……、とにかくベルをもっと上手く使えってことだな」

「はーい」


 カレンは片手を上げて、元気よく返事。

 その様子に気が付いたのか、アミとベルも戻ってくる。

 アミはちょっとだけすっきりした顔に比べ、ベルは「ずーん」という擬音語が表示されるぐらい、ものすごく落ち込んでいた。今までベルがここまで落ち込んだ様子を見たことないぐらい凹んでいた。

 チラッとカレンに視線を向けるクロス。

 カレンもまた首を横に振る。


「ちょっ、ちょっとアミ」

「はい?」

「良いから来い」


 不思議がるアミを余所にクロスは手招きをして、アミをベルから引き離す。

 カレンもまたクロスの方へ付いていこうと片足踏み出していた。が、クロスは首を横に振ってその場にいる指示を出す。

 それに従ってカレンはその場で止まり、何をしようかと考えた結果、ベルを慰めはじめた。

 それを確認したクロスはアミに話しかける。


「いったい何をしたんだ?」

「教育ですよ?」

「どんな教育だ?」

「えーと……主に『こんな役に立たないサポートじゃカレンさんの側にいる必要がない』っていう発言です」

「ド直球かよ」

「だって、本当のことじゃないですか」

「その通りなんだけどな」

「実際、ベルくんが居なくてもクロスさんが何とかするでしょ? クロスさんじゃなくてもレイさんと組んでいたとしても、レイさんが何とかしてたと思いますから。カレンさんに好意を持ってるのはバレバレなんですから、それ相応の対応をしろって話ですよ!」

「そんなことも言ったのか?」

「言いましたよ? 『クロスさんにケンカを売る前に自分がちゃんとサポート出来るようになってからケンカを売れ』も」


 ――それ、教育じゃない。ただの毒舌だぞ。


 教育の勘違いをしているアミに、クロスはちょっとだけベルに謝りたくなってしまう。けれど、アミが言ったことは間違ってはいない。いないが、言い過ぎなのも事実。

 カレンの方をチラッと見てみると、未だにベルは落ち込んだままだった。よっぽど堪えてしまっているらしい。

 けれど、いくら自分がフォローしたところで逆効果にしかなりえないことを知っているクロス。唯一、取れる行動はこのまま無視しとくということだけだった。


「とにかくアミ、お疲れ様。そして、これは罰だ」

「へ? あう!」


 クロスはほどほどの強さでデコピン――もとい顔面に当てる。小さい容姿だけあって的確におでこに指を当てるなんて無理なのだ。どうしても顔面になってしまうのはしょうがないこと。

 そのデコピンを食らったアミはその勢いで二回転しながら離れていき、三回転目に入る途中で羽を使って静止。手で顔を押さえながら、クロスに突撃してきた。

 クロスはそれを手の平で受け止めることで阻止。


「い、痛いですよ!」

「当たり前だろうがッ! お仕置きなんだから!」

「お、お仕置き?」

「教育じゃないからな。教育ってのは『アミが知ってる情報を教えること』と『どういう時のサポートの方法を教えること』だぞ。ベルはその根本的なことが分かってなくて、指示待ちなんだから」

「……そうなんですか?」

「……そうなんです」

「……さ、最初から言ってくれれば……」

「言わなくても分かると思ってたオレが馬鹿だったらしいな」

「――あとで謝罪しておきます。そして、ちゃんと伝えておきます」

「おう、頑張れ」

「はい」


 教育の意味を知ったアミもまたがっくりと肩を落としながら、カレンとベルの元へフラフラと戻り始める。

 クロスもアミの後を追って、二人にいる場所へ戻る。

 カレンが慰めているがベルの元気が元に戻る様子は一切なく、返事も「はぁ」となさないものばかり。


 ――この先、オレたちは大丈夫なのだろうか?


 そんな不安がクロスの中に溢れ始めてしまい、クロスもまた凹んでしまいそうになってしまう。

 が、そんなこと考えているわけにはいかないため、その不安を気力で心の底に押し込め、


「ほら、カレンとベルは戦闘準備に入れよ。回復アイテムはオレたちが持ってるのも分けてやるから、ここにいるモンスターを駆逐する勢いで戦って来い。オレとアミはそれを見ながら今後の話だ」


 手をパンパンと叩いて、そう促す。

 三人ともそれぞれに頷き、クロスの指示通りに動き始める。


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