(4)
クロスとアミの近くにやってきたカレンとベル。
「最後ありがとう! それで、どうだった……かな……?」
そう尋ねるカレンに、クロスは言葉を選んで少しだけオブラートに包んで話そうかと思っていたが、その考えをすぐに捨てる。そんなことではカレンは強くなれないような気がしたからだ。
「駄目駄目だ。今まで生き残ってこられたのが、レイのおかげだっていうのがよく分かる戦いだったよ」
その言葉に当たり前のように反論してくるベル。
「なんだよ! その言い草は――」
「うっせーよ! お前も使えないんだよ! なんで、指咥えて指示待ちしてんだよ! あんなんじゃカレンに『死ね!!』って言ってるようなもんだろうがッ!」
「うっ!」
「お前の指導はアミだ。いや、もうオレに対する口の聞き方から教えてもらってこい!」
「は、はぁ!?」
「アミ、連れてけ! こっちはこっちで話す」
今までベルからクロスにケンカ口調で話したことはあったが、クロスからこんな風にケンカ口調で文句を言われると思っていなかった。ベルはそのことを表現するような表情を浮かべていた。
そんなベルを無視するように、
「はいはーい、ベルくん行くよー」
クロスの指示を出されたアミがベルの腕を掴み、強制的にはクロスとカレンから引き離す。
カレンはその様子を見ながら文句を言う態度は何一つ見せなかった。というよりは、見せることが出来なかった。
今回の戦闘での自分の不甲斐なさ、今までレイに頼り切っていた事実をクロスに言われたことで、どれほど自分が使えないのかを知ってしまったからだ。だからこそ、強くなるためには素直にクロスの指示を聞いた方がいい。そう判断したかららしい。
「ごめんね、迷惑かけて……」
カレンは深々と頭を下げて、クロスに反省の態度を見せる。
その謝罪に、クロスはカレンの頭の上に手をポンと軽く置いて、
「謝罪はしなくていい。何よりもそれはカレンのステータスとスキルの問題が強いせいだ。いや、そもそも武器が合ってないのかもしれないし――とにかく最初から見直す必要がある。あまりレイのようにステータスやスキルに関して口を出したくないんだけど、今だけは許してくれ」
しばらくは嫌なことが続く。そう言わんばかりの謝罪をクロスも行う。が、それに対してクロスが頭を下げなかった。
カレンもそのことを分かっているのか、頭を下げたまま、「うん!」と頷いて了承の言葉が発される。
それを確認したクロスはベルに向かい、
「ベル! カレンのステータスとスキル見せろ」
と、指示を出す。
ベルは不満そうな視線で指示を出したクロスを見つめるが、アミによって頭を引っ叩かれ、頭を下げた状態で睨み付けていたカレンの暗黙の指示により、カレンのステータス画面を表示させる。
その画面はカレンに見やすいように表示されるため、クロスはカレンの頭から手を離し、隣に立つようにしてカレンのステータス画面を覗き込む。
そして、一言。
「げっ! な、なんだよ、これ!?」
驚きと落胆の入り混じった声が反射的に声から出てしまう。
クロス自身、思わず出てしまった声に驚いたのか、慌てて手で口を押える。
――うっわっ! 酷過ぎじゃね、これ。
それほど想像以上のステータスになっていた。
相当こまめな人間が配分するような『HP』『MP』『攻撃力』『防御力』『回避力』の平均化。それだけならまだ良かったのだが、それに対して実力とレベルが伴っていない状態のせいでステータス不足になっている。
スキルもスキルでレイの指示に従っていたことが分かるような『探知・索敵強化』『アイテム使用強化』『支援攻撃』『支援防御』のサポート専用アバタ―スキルになっていた。パーティを組んでいれば使えるスキルではあるが、基本的に自分のためだけに使えないスキルばかり。
レイがステータスやスキルに口を出して自分の役に立つように設定させ、ずっと前線で戦っていたのだろう。そのせいで、カレンは雑魚モンスターの対処方法がいまいち分からなかったせいで、一人で戦っても苦戦してしまうのは当たり前の現状だった。
――こんなんじゃ、あんな雑魚モンスターにでも苦戦するはずだ……。
口に持っていっていた手を滑らせるように上に持っていき、その流れ髪を掻き上げるクロス。
隣ではカレンが反応に困ったように苦笑いを溢していた。
「いや、これでは無理だな。んー、どうしようか……」
「やっぱりクロスくんでも悩んじゃうぐらい酷いんだ……」
クロスなら何とかしてくれると思っていたのか、カレンはがっくりと肩を落とす。
その期待に応えるようにクロスも何とかしてあげたかったのだが、一回使ってしまったポイントを元に戻す仕様なんてない。だから、今からやれるのはカレンが望む戦闘スタイルを教えてもらい、地道に戦いながらレベルを上げてポイントを稼ぐ方法しかとれなかった。
「カレンは最初、どんなスタイルで行きたいと考えてた?」
「スタイル?」
「極端な話だけど、オレみたいな回避重視とレイみたいな防御重視だ。使いたい武器によって、それも結構変わってくるんだけどさ」
「それなら、私はクロスくんと同じスタイルだよ。モンスターの攻撃をちまちま防御しながら反撃なんてかっこ悪いし……」
「オッケー。まぁ、ステータスは平等になってるから、これからの戦闘でそう言う風にしていくしかないか。じゃあ使いたい武器とかはあるのか?」
「使いたい武器? あー、私って現実では弓道してたから――」
「マジで!?」
まさかカレンが弓道の経験者だと思っていなかったクロスは驚きの声を上げてしまう。
カレンはちょっとだけ頬を膨らまし、不満そうな顔を露わにした。
「そんな驚く? 敵がサンドワームだったから手こずったけど、普通にいる敵だったら百発百中なんだよ? ベル、私の戦績表っていうか命中率の表出してー!」
遠く離れた位置でアミの教育を受けているベルが、カレンの声に従い、今までのモンスターとの命中率表を表示させる。
ちなみにクロスはこんな表を表示させることが可能だったことは知らない。いや、敵を倒せばいいのだから、命中率云々はどうでもよかったため、気にしていなかった。
クロスがその表を見た結果――本当に命中率は高かった。
どのぐらいからレイとパーティを組んだかまでは分からなかったが、その影響がなかったら間違いなく今より相当実力が高かったのではないか、と思わされてしまう程だった。
――対処法さえ分かればカレンはオレより強くなるんじゃね?
根拠はなかったけれど、そう思ってしまうクロス。
クロスの心の呟きを分かっているのか、それとも分かっていないのか、カレンは普段からある胸をいつも以上に大きく見せるようにして威張っていた。




