(3)
昼過ぎ。
クロスたちは炎の砂漠のボスである炎竜のいる遺跡の元へ向かい、歩を進めていた。
あれから起きた三人はクロスに、自分たちが寝てしまったことを謝罪し、今後の方針を話し合った結果――炎竜を倒しに行こうということになったのだ。
現在の位置は、中ボスである赤竜がいた遺跡より少し先に進んだ場所――セーブポイント寄りの中間地点辺り。
そこで出現した雑魚モンスターとカレンがちょうど戦闘をしている真っ最中である。
カレンの付けている防具は弓道が着けるような胸と利き腕の肩当て、下も膝当てというシンプルなもの。
そして、カレンと戦っているモンスターはサンドワームという他のゲームでもよく見る体が砂で出来た虫。ただ中ボスより先の場所だけあって、遺跡より前にいた同じモンスターと比べると、強さが格段に強くなっているだけ。攻略方法さえ分かっていれば大した敵ではないはずなのだが、カレンはほんの少しだけ苦戦していた。
「あー、もう! すぐに潜る!」
カレンが放った矢を避けるように潜ったサンドワームに不満を漏らす。そして、今度はサンドワームが攻撃を仕掛けようと、カレンの周囲をグルグルと回り始める。
そのサンドワームがどこから出てくるか分からないカレンは周囲をキョロキョロ見回しながら、刃弓の刃でカウンターを食らわしてやろうと握り締めている。
クロスとアミはその様子を遠巻きから不安そうに見ていた。
「大丈夫ですかね?」
アミの不安そうな質問にクロスは、
「いやー、ギリギリ勝てるだろ。つか、あれぐらいの相手には勝ってもらわないとオレが困る」
腕を組みながらそう言いつつも不安を隠せない表情で、二人の様子を見守ることしか出来なかった。いや、そう指示を出したのだから、クロスが手を出すわけにはいかなかったのだ。
昨日の決闘でクロスの実力はカレンも分かっただろう。逆にカレンの実力を分かっていないクロスは、カレンの実力を知る必要があったのだ。だが、最初のフィールドにいるような雑魚モンスターでは実力を知るにはならない。レベルやスキルのせいで瞬殺してしまうからだ。だから、ほんの少し強くなったここで戦わせているのだが、クロスの予想を超えた苦戦に驚きを隠しきれていなかった。
カレンはこの対処法をようやく気付いたように上空に向かって、【ホーミング・ショット】を放ち、それがターゲットであるサンドワームに直撃。それでも倒しきれなかったらしく、サンドワームのHPは1ドット残ってしまっている。
倒したと思っているカレンはホッとしている様子だったが、
「まだです、カレン様。少しだけHPが残っています!」
と、ベルの注意の声に、
「ウソッ! MP、もう残ってないのに!?」
「MP薬使いますか?」
「うー、あと少しだったら我慢する。もったいないし」
「分かりました」
なんていう呑気な会話がクロスとアミの耳に入ってくる。
――そんなことを言ってる場合じゃないだろうが……。
手の平で目を隠しながら、クロスは「うーん」と唸る。
そして、ようやく決断したのか、
「アミ、銃」
「やっぱり手を出すんですね」
「まぁ、1ドットぐらいだったら別に良いかなって思ってさ」
「そ、それもそうですね。時間かかりそうですし」
クロスが現在持っていた片手剣が消え、ブゥン! という音ともにハンドガン:グロッグ17が出現。それを受け取り、カレンとベルが位置へ構える。
このゲームの銃の使い方は現実世界と違い、他のMMOでもあるようなセーフティ機能がなく、弾薬補充はオートで行われるようになっている。そのため、銃が使えなくなるのは弾薬がなくなった場合のみで、それ以外は銃に関しての操作をする必要がない仕組み。しかし、VR化特有の変更点もあり、MM0では『アバタ―が勝手に狙いを定めて撃つ』だったが、VR化の場合『目標に狙いを定めて撃つ』となっており、狙いが外れれば攻撃は失敗となる。そこの部分だけが現実仕様になっていた。
つまり、現在カレンが戦っているような地面を潜って戦う相手には不利な武器の一つ。
が、それをカバー出来る手段もある。
一つはサポート妖精の存在。
カレンが上手くベルを使えていないのか、それともベルのサポートが下手くそなのかは分からないが、こういう場合だいたいの出現予測をサポート妖精に尋ねれば、ある程度はなんとかしてくれるようになっている。何よりもモンスターが攻撃しようとし来ている場面では、下手に攻撃せずに回避に専念すればいいだけの話なのだから。
それともう一つが、先ほどカレンが行ったようにホーミング系の攻撃やカウンター系の攻撃を使い、勝手に自滅するようなパターンを作る。そうすることによって無駄にHPを減らすことなく、あっさりと倒せる。HPとMPの両方が同時に減らされるよりも、MPをほどほどに使いながら先を目指す方が意外と効率が良いのだ。
狙いを定めるクロスに、
「手伝いましょうか?」
アミのフォローが飛ぶが、
「いや、いらない。技使うし」
クロスはアミの助言を一蹴し、MPを消費して引き金を押す。放たれた銃弾はターゲットであるサンドワームに向かい飛んで行き、軌道を調整しながら後を追う。使った技はカレンが先ほど使った技【ホーミング・ショット】。
銃弾が命中したサンドワームを地面から飛び出し、そのまま空中で0《ゼロ》と1《イチ》に分解され、アイテムを落として消滅した。
そして、アミの一言。
「お疲れ様です」
「疲れるのはこれからだろうな」
「――心中お察しします」
「アミ、お前はベルの教育な。あれでは使い物にならん。オレが言うよりはアミが言った方が言うこと聞くだろ」
「聞いてくれると嬉しいんですけどねー」
「大丈夫だ。アミなら何とか出来る」
その不安を拭いきれないようにアミはげっそりとした表情を浮かべる。
そんな二人の気持ちを知らないカレンとベル。カレンはホッとした表情を浮かべながら手を振っており、ベルはクロスが手助けをしたことに対して不満そうな表情をしていた。
クロスはカレンの行為に応えるように小さく手を振り返す。が、表情はこれからのことを考えているらしく憂鬱なものになっていた。




