(2)
「これでリザルト終了です」
アミは電子キーボードを消し、倒れ込んでいるクロスのお腹あたりに座る。そして、思っていた疑問を口に出し始める。
「あの、最後の最後で技放ちましたよね。トドメを刺し切れないって分かってたんですか? しかも、タイミングよくMPも回復しましたし……。あ、いえ、それを言うのならスタンもそうですけど……、全部狙ってしたんですか?」
トドメを刺すまで作られた流れがアミにとって素晴らしく見えたのか、目をキラキラとさせてクロスに尊敬の眼差しを送っていた。
頭だけを起こしてアミの様子を見ていたクロスは、困ったような表情を浮かべながら頭を床に下ろして、その質問に答え始める。
「全部偶然だ。いや、スタンは狙ってたけど、あのタイミングでスタンが来るとは思ってなかった。トドメの時だって、定番の締め技を使ったに過ぎないし……。っていうか、あの状況で油断する方が危ないだろ? だから、気を抜かずに全力を出しただけだよ」
「じゃあ――」
「あの流れで反撃されるパターンもあったと思う。我ながら気を抜かなかったもんだよ。あの時点で赤竜のHPも自分のMPも確認してなかったからな」
「何、危ないことしてるんですか!」
「しょうがないだろ。ああでもしないと勝てないような気がしたんだからさ」
クロスは空笑いを溢しながら、自分の背中辺りまである髪をゴシゴシと掻いた。反省はしていても、後悔はしてない様子で左手の親指を立て、アミに近づける。
アミはジト目で見ながら、その親指に握り拳を作ってコツンと当てる。
「とにかくお疲れさまってことで今回は大目に見ます。次からはちゃんとHP管理とかしてくださいよ?」
「分かってるよ。っていうか、オレがしなくてもアミがしてくれるだろ?」
「それはしますけど、それが仕事ですから……。いいえ、もういいです。きっとこれは解決しない内容だと思うので、これ以上は言いません」
アミは呆れたように「はふ」とため息を漏らす。
「それで、これからどうしますか?」
「んなもん、決まってる。セーブしに行かなくちゃいけないだろ。と言っても、戦闘はちょっとキツいから街に戻るか。街でセーブしたとしても倒した記録は残るんだろ?」
「ちょっと待ってくださいね」
アミは再び電子キーボードを出現させて、何かを打ち始める。そして、「ふむふむ」と一人で何かを納得した後、
「大丈夫みたいですよ。じゃあ、帰還の羽を出しますね!」
と、クロスの返答を聞く前にキーボードを打つ。
するとクロスの顔面に向かって、ヒラヒラと舞い落ちてくる真っ白い羽。洞窟やダンジョンなどで使用すると一瞬で街に戻れるという便利なアイテムである。
その羽をクロスが捕まえると、
「帰還、『アルセイム王都』!」
街の名前を叫ぶ。
その声に反応した羽はパッと光り、二人を光る光球へと変化させ、今居る遺跡をすり抜け、目的地であるアルセイム王都に向かって飛び立つ。
クロスこと黒城真人がこの世界――MMORPGの世界に連れて来られた時に居た街であり、全てが始まった街へと……。