(2)
「それで、これからどうするの?」
カレンは嬉しそうに握った手を上下に振りながら、クロスへと尋ねる。
先ほどから言っているようにクロスの回答は一つ。
「今日はゆっくり寝ます。そういうわけでおやすみなさい!」
カレンが握っている手をもう片方の手を使いながら、ゆっくり引き離す。無事に手を離すことが出来ると、そのままベッドの仰向けに寝転がる。そして、そのまま自分のお腹にタオルケットをかけて寝る準備は整う。
周囲に訪れる無言の空気。
軽蔑に近い眼差しをクロスへとぶつけるベル。
カレンとアミはそのことが分かっていたため、嘆息を一つ漏らす。
が、今さらクロスがそんなことを気にするような余裕はない。今は少しでもゆっくりしたい。その気持ちが馬鹿みたいに強かったからだ。
「うん、分かった。じゃあ、私も寝る!」
「え、ちょっ……!?」
カレンの勢いに任せた言葉にベルは驚きの声を漏らす。
その声の通り、今度はクロスの横側にドスン! と遠慮なく倒れ込んでくる音と振動。静かになったかと思えば、横からの視線が突き刺さってくる。
横向きで寝転がり、クロスの横顔を見ている。
クロスがそのことに気付くには、そんなに時間はかからなかった。
――ね、寝にくい。完全に起こしにかかってやがる……。
意地でもその視線を無視しようとするクロス。
その無視に屈しないようにずっと視線を送ってくるカレン。
二人の無言のバトルがしばらくの間続き、根を上げたのはクロスだった。
それでもなくても先ほどの会話で意識は完全に起きており、寝直すにはそれなりの労力が必要になっていた。けれど、今日一日をダラダラ過ごすことを諦めきれなかったから、努力してでも寝ようと思っていただけ。本当に眠いわけではなかったので、諦めるスイッチが入るのも早かった。
「分かったよ。オレが負けを認め――」
隣で寝ているカレンの方へ顔を向けると、そこには目を閉じ、規則正しく寝息を立てている姿があった。どのタイミングで寝始めたのか分からなかったが、ついさっき寝たような雰囲気ではなく、もう少し前から寝ているような状態。
――本当に寝るのかよ。
心の中でそう漏らし、クロスはベッドから降りる。
降りながら、アミとベルの様子を探す。すると、二人とも仲が良さそうに机の上で身体を寄せ合って、スースーと眠りに就いていた。クロスが起きるのを待っていたがつい寝てしまった。クロスは二人の様子からそう感じ取り、苛立ちを隠しきれないように頭をガシガシと掻く。
「お前らなー……。もういいや、好きなように寝やがれ」
ベッドから降りたクロスは、カレンの首と足に手をかけると、
――せーの!
軽く持ち上げて、ベッドの中央へと引き寄せる。
そして、先ほどまでクロスが使っていたタオルケットをお腹にかけると、少しだけ腕に当たってしまう。
カレンはそれに反応するようにタオルケットを握り締め、もぞもぞと動きながら丸まり、顔まで隠してしまった。
「……なに、この羞恥プレイ……」
無意識の内に匂いを嗅がれているような気がしてしまい、クロスは恥ずかしさを誤魔化すために頬を掻く。
そして、今度はアミとベルに近付き、先ほどまでアミが使っていた小さなタオルケットを二人のお腹あたりにかける。カレンのようにアミとベルはその行為に反応することはなく、大人しく眠り続けていた。
その様子を見届けたクロスは近くの椅子に座って、三人の様子を順番に見つめながら、
「なんで『寝る』と言ったオレが起きてるのに、なんでそれを言わなかったお前らが寝てるんだ? これ、おかしいよな。絶対におかしいわ。信じたくない現実ってこういうのを言うんだな」
納得いかない現実にクロスはボソボソと独り言を漏らしながら、目を閉じて、自らも寝る準備に入る。
結局、寝ることは出来なかったのだが……。




