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 クロスは先ほど赤竜との最後に使用した手甲を装備した状態に切り替わる。

 レイの装備はクロスとは正反対の頭を除く鎧を装備した赤色のフルアーマー、武器は大剣を構えていた。

 そのことを確認したクロスは、


「カレン、人の選択画面を勝手に触るなよ」


 戦闘に巻き込まれないようにアミと一緒に離れたカレンをジト目で見つめながらクロスが文句を漏らす。


「だって『いいえ』を押すような気がしたんだもん」


 カレンの悪気のない返事が返ってくる。

 少しだけそんなことを考えてたクロスはそのことを隠すように、目の前にいるレイに向き直り、


「レイは相変わらずの大剣かよ」


 その装備を見ながら、クロスは笑みを溢した。本当は笑うつもりはなかったのだが、自分の勝利する姿が手に取るように分かってしまったからである。


「お前みたいに目移りしないタイプだからな。って、何がおかしい? 負けることを想像して気でもおかしくなってしまったか?」

「その逆だ。お前に付け入る隙がありすぎて、逆に面白いんだよ」

「そんなことを言っていられるのも今の内だ!」


 そう言って突っ込んでくるレイ。

 持っている大剣を大きく振りかぶり、そのままブンッ! と斬り裂く音ともに振り下ろされる一撃。クロスはそれを右へサイドステップして躱した後、着地した場所で屈むようにして頭を下げる。その狙い通りに繰り出される横薙ぎの攻撃――大剣使いがよく使う横に回避された時の派生技がクロスの頭の上を通過した。

 通過した後、クロスは後ろへバックステップしながら、


「アミ、刃弓にチェンジだ」

「分かりました!」


 距離を取った後、クロスの武器が手甲から刃弓――弓の両端に刃が付いた武器へと切り替わる。そして、クロスの背中には矢筒も装備される。矢筒から矢を一本抜き取ると、それを弦に装着して、いつでも撃てるように準備を整える。


「クロスくんって刃弓も使えたの?」


 カレンが少しだけ驚いたようにアミへと尋ねる。

 刃弓はカレンが現在使用している武器であり、この武器は片手剣と弓の武器使用レベルを一定レベルまで上げないと使えない派生武器と呼ばれる物。

 派生武器は刃弓以外にも様々な種類があり、一定の武器種二つ以上を一定のレベルまで上げることで武器屋での販売が解禁され、それを買うことで初めて使えるようになる武器なのだ。派生武器というだけあってある程度値が張ってしまうのが痛手ではあるが、性能はそれに見合った物となっている。


「これだけじゃなくて、他の派生武器もある程度使えるようにクロスさんはプレイしてます」

「す、すごいね。ものすごく根気がいるプレイをしてるなんて思ってもみなかった」


 驚くカレンに、アミは苦笑いで返事を返す。

 カレンが驚いてしまうのもしょうがないことではあった。

 『アバタ―のレベルを上げる』と『武器の使用レベルを上げる』というのは当たり前のように釣り合っていない。武器の使用レベルを上げるということは、それだけ固有武器を使わないといけないということだからだ。アミの発言から分かる通り、『ある程度の派生武器を使えるようにした』ということは、存在する固有武器をバランスよく使っているという証拠。

 つまり、クロスの努力はそれだけすごいものだとカレンは思い知らされたようなものだった。


「近距離に対して遠距離とは考えたな」


 分が悪いことを察したのか、レイはグリップをギュっと握り締め直して気合を入れ始める。


「考えるも何も当たり前だろうがよ。オレは同じ近接武器でガチンコ勝負する気は一切ないぞ? 言っとくがオレは疲れてるんだ。誰かさんたちに邪魔されたおかげでそんなに休憩出来てない。だから、さっさと終わらせたいんだよ。ほら、それにオレのHPを見ろ。満タンじゃないだろうが」


 自分の頭の上に視線を向けさせるように、顔を上に向ける。

 クロスの言う通り、HPはほんの少しだけ空白の部分が出来ていた。しかし、回復するつもりはないらしく、アミにHP薬を使う指示を言う様子はない。


「さっさと回復しろ。そんな状態じゃ勝負にもならない――」


 不意打ちで放たれたクロスの矢が、レイの頬を掠める。ダメージとしてはHPのドットがほんの少しだけ減少し程度のもの。しかし、動揺を誘うには十分な一撃だった。そして、さらにそれを煽るように、


「うるせーよ。さっきの攻撃も当てられなかったくせにくだらないことを言うな。まずはオレを倒せるようになってから言え」


 クロスは淡々と言い放つ。

 先ほどの赤竜戦の感覚が完全に抜け切れていないこともある。

 それ以上にレイの装備は大剣のテンプレ装備。大剣のせいで減少してしまっている回避力を補うために防御力を上げて、ダメージを減らす方式を取っている。パーティを組んでいない者なら回避力のステータスも上げているかもしれないが、早い段階でカレンとパーティを組んで近接戦闘と遠距離戦闘を分けている時点で、回避力はおざなりになっているのは丸分かりの事実。

 だからこそ、クロスは勝てる自信しかないのだ。


「く、クロスゥ!」

「んだよ? 本当のことを言ったまでだろ」

「絶対に殺すッ!」


 クロスの挑発をまともに受け取ったレイは大剣を背負い駆け出す。そして、今までのように振り下ろす。

 が、クロスはその一撃を紙一重で躱しながらすれ違いざまに斬撃を繰り出し、そのまま通り抜けた後に矢の追撃。

 背後に回ったクロスに対して、大剣の薙ぎ払い攻撃で反撃しようと試みるレイ。

 もちろん、その攻撃は分かりきっているクロスは再び一旦距離を取りながら隙だらけの身体に矢の攻撃を放ち、着実にHPを減らしていく。


「……こんな強かったの、クロスくん」


 その様子を見ていたカレンは開いた口が塞がらないのか、クロスの応援をすることもなく目を奪われたようにその光景を見ていた。

 それはアミを除くベルとスレイも、カレンと同じように驚きの表情を浮かべている。


「まー、これぐらいじゃないとパーティを組まずに生きていけませんからね。あたしから見ても異常だと思いますけど」


 アミは自慢する様子もなく、ただ当たり前のように話す。

 今までずっとクロスと共にしてきたからこそ、四人が驚くほどの光景ではなかった。むしろ、それが当たり前の光景。

 そのことを現すようにレイのHPはすでに半分近くまで減らされており、クロスのダメージは紙一重でも避けきれないものを仕方なくダメージを少なくする方向で食らっている状態だった。なので、ダメージはほとんどないと言ってもいいほど。

 それほどクロスの動きの無駄の少なく、一種の芸術の域に達していた。


「く、くそっ!」

「HPのアドバンテージなんてないに等しかったろ? もう降参しろ。無駄に自分を傷つけるな」

「ふ、ふざけ……ふざけんなッ!!」


 現実を突き付けられたレイは怒り狂ったように吠えると、大剣を地面へと突き刺す。同時に減少するMPバー。

 レイが技を発動したことを知るには十分な証拠だった。


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