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 その時、タイミング悪く飛んでくる妖精が一人。

 水色の髪を右だけで紐で縛っており、女の子らしく下はスカートを履いているのだが胸元は鎧を付けるという不釣り合いな服装――彼女の名前はスレイ☆8912(以後、スレイ)。つまり、レイのサポート妖精である。


「あ、クロスさんにアミさん、どうも! ……って、あれ?」


 今頃、やって来たせいで周囲に漂う不穏な空気の意味が分からなかったらしく、クロスに対して呑気に挨拶をするスレイ。

 そんなスレイに怒りをぶつけるようにレイの右手による裏拳が飛ぶ。

 その一撃が直撃したスレイは軽く吹き飛んでしまう。


「スレイさん!」

「スレイさん!」

「スレイちゃん!」

「スレイ!」


 レイとスレイを除く四人がスレイの身を案じ、スレイの名前を呼ぶ。

 食らった本人であるスレイは、ほんの少しだけクルクルと回転しながら吹き飛んだ後、自らの羽を使って静止。なんで攻撃を受けたのか分からない表情を浮かべ、レイの怖さから身体を震わし、涙目になりながら頭を下げ始める。


「ご、ごめんなさい! 何をしたか分からないけど、ごめんなさい! 気を付けます!」

「さっさと用事を終わらせたら、さっさと戻って来いよ。このノロマ! それに『敵』であるクロスに呑気に挨拶してんじゃねーよ!」

「て、敵?」

「そうだよ! こいつは俺にケンカを売ってきやがったんだ。だから、今から決闘をするんだよ!」

「え、えっと……あのッ!」


 レイが指差すクロスにその真偽を確かめるような視線を向ける。

 出来れば戦ってほしくない。

 止めてください。

 理由は未だに分からないスレイの潤んだ目からその気持ちを読み取ることが出来たクロスだったが、迷わずその首を横に振った。それだけ引けない理由が追加されてしまったからだ。


 ――そうだろ、アミ?


 再び湧き上がってきた怒りはともかく、先ほどのスレイの扱いに対して悔しそうに拳を握っているアミを見つめながら目で問いかける。

 アミはその視線の意味に気付いたらしく、首を縦に振った。そして、スレイの方へ顔を向けると、スレイに向かって首を横に振る。


「あ、あの……せめて、状況を――」

「スレイ、お前は俺の言うことを聞いていればいいんだよ。お前は俺のパートナーなんだ。あんな風に浮気に走る女とは違うんだろ?」

「え……う、浮気?」


 まさかの発言にレイを除く全員が驚いてしまう。

 というよりも、そのことを知っていないといけないカレンまでもが驚いてしまっている時点で、そういう関係ではないことは明白。

 そのことに対してベルが噛み付く。


「勝手にカレン様をお前の彼女にするな!」

「は? パーティを二人っきりで組む=そういうことだろうがッ!」

「んなわけるか! カレン様はそういうつもりでパーティを申し込んだんじゃない! この世界で生き残るためだ! そんな勘違いするぐらいならパーティは解散に決まってるだろッ!」

「うるせぇよ! リーダーは俺だ! お前みたいな妖精に指図される覚えはない!」

「私の妖精にまで、そんな口を聞かないでよ!」


 そう言ったのはカレン。

 さすがに勝手に彼女にされたことが気に入らないのか、それともベルが侮辱されたことが気に入らないのか、さっきまでの戸惑った表情から怒りの表情へと切り替わっていた。


「私がクロスくんと話してて気に入らない理由も分かった。けどね、告白されてもないのにそれを認めるわけにはいかないの! 受け入れるのか、それとも拒否するのかもどうかもね! だから、クロスくんとの決闘で賭けて!」


 カレンの発言にハッとして、クロスは改めて自分の場違い感を覚えておそるおそる口を開く。


「オレ、今さらだけど関係なくね?」

「いいの! 私のために戦って!」

「オレはオレの――」

「文句あるの?」


 今までレイに向けられていた怒りの表情をカレンはクロスへと向ける。

 この時点で怒りの溜飲が完全に下がっていたクロスは、その表情に怯えてしまう。なぜなら、今までカレンがここまで怒りを露にしている姿を初めて見たからだった。

 穏やかな人がいきなり切れると怖いというけれど、それが嘘ではないことを実感したクロス。いや、怖いのではなく、どんな風に対処したらいいのか分からないため、上手く行動が取れなくなってしまう。

 だからこそ、カレンのその脅しに、


「いや、全くない。カレンさんの指示に従おうじゃないか」


 と、自分の考えとは別に勝手に口が動き、最初の頃に呼んでいたように「さん」付けで承諾してしまう。


「良いだろう。どういう条件にする気だよ。自分に都合の良いことを言うなよ、カレン」


 自分の都合の良いようにされないように釘を刺すレイ。


「分かってる。もし、クロスくんが勝ったらパーティは解散。レイくんが勝ったら、私がレイくんの彼女になる。それでクロスくんと会っても話をしにいかない。それでいい?」

「もう一つ付け加えろ。今までのクロスの無礼の扱いを俺に詫びさせろ」

「いいわよ! じゃあ、レイくんも同じようにクロスくんに取った今までの態度について謝らないとね。片方だけにそんなことをさせるわけにはいかないでしょ!」

「――分かったよ、それで勘弁してやる」


 隠そうともせずに放つ舌打ちながら、あまり気に入らないように地面を蹴るレイ。が、勝てることを疑っていないのか、頷く。

 それを確認したカレンがクロスの方へ振り向き、クロスの両手を掴む。そして、真剣の目でクロスの目を見つめる。


「巻き込んでごめん。でも、私のために勝って!」

「――あ、ああ。分かった」


 その視線から逃げるようにクロスは視線をベルへと向けた。

 自分を嫌っているベルならば、もしかしたら止めてくれるかもしれない。そう思ったからだった。

 しかし、その期待は案の定裏切られる。


「今回だけは応援してやる。頑張れ!」

「……おう……おう……」


 ――こんな時だけ応援してんじゃねーよ、この野郎!


 最後の助けとなり得るアミを見つめるも、アミはクロスの助けを求める視線から逃れるように、カレンの身体が作っている死角へと隠れる。


 ――う、裏切っただと……!?


「スレイ、クロスに決闘を申し込め」

「は、はぁ……」


 レイの命令にスレイは電子キーボードを出現させて操作した後、その申し出を受け取った画面がクロスの前に表示される。


〈レイさんから決闘を申し込まれました。決闘を承諾しますか? 『はい』『いいえ』〉


 クロスの前に現れた電子画面は表示された人しか触ることしか出来ない。そのことを知っているカレンが、クロスの掴んでいた腕を強制的に動かして『はい』のボタンを押す。そして、クロスの邪魔にならないようにカレンは素早く離れる。

 カレンの行動にクロスが驚いている間に、鳴り響く決闘の承諾を確認した合図のファンファーレ。

 クロスとレイの中央より少し上に現れるカウントダウン。

 『5、4、3……』と減っていく間に、クロスとレイはアミとスレイの操作により通常服から戦闘服に着替えさせられ、カウントが0《ゼロ》になると戦いのゴングが二人の間に鳴り響く。


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