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「あれ? その着物、どうしたんですか? 今まで見たことないんですよね?」


 クロスに指示されたアミはしばらくネタを探した後、カレンの服装に目を付ける。

 クロスもアミの発言にやっと気付かされたのか、「あれ?」という表情を向けて、首を傾げた。


「アミちゃんはともかく、クロスくんは今頃?」


 その着物――桜の花弁が散りばめられた紫色の着物を見せつけるようにカレンは立ち上がる。そして、その場で一回転。着物はその回転に流されるようにフワッと浮き、花弁がまるでその場に待っているように動く。それがゲームのシステム上の効果なのか、それとも目の錯覚によって起きたものか分からなかったが、クロスが目を奪われてしまったことだけは間違いない事実だった。

 アミもパチパチと拍手をしていた。


「どう似合う?」


 「えへへ」と恥ずかしそうにはにかみながら尋ねてくるカレン。


「似合ってますよ! ねえ、クロスさん!」

「そうだな、似合ってるよ。それ、課金か?」


 アミがクロスの方を見ながら確認しつつ答え、クロスもそれに同意しながら尋ねると、


「うん。また新しく追加された洋服の中にあったの。可愛いから思わず買っちゃった」


 二人に褒められたことがよほど嬉しいのか、満面の笑みを浮かべながら再び座りながら答える。

 最近になってクロスも知ったのだが、課金のシステムだけはゲーム設定とは別のプログラムが構築されているらしく、こうやって時々洋服やアイテムのセット売りなどが増えている。どうやら他のゲームとのコラボなどのことを考えて、課金システムの方だけはいつでも弄れるようにプログラムが組まれていたらしい。ただ、最初の頃ならともかく現在はあまり課金しないようにしているクロスにはあまり意味のない情報だった。


「ふーん、そっか」

「あまり興味ないみたいだね」

「実際ないからなー。あまり課金したくないという気持ちが強いから、そっちの方を開かないし」

「あまり服装とか興味なさそうだもんね。あ、着替えないの?」

「え、あー……今日はさすがにのんびりしたいから着替えるか。アミ、頼む」


 今さら思い出したように言ったカレンに同調するように、クロスもアミに着替えを頼む。

 アミは「了解です」と答え、電子キーボードを出現させてカタカタと打つと、クロスの身体がパァと輝き出し、戦闘服から通常服――胸元にドクロマークが付いた白いTシャツ、その上に黒のパーカー、そして下はダメージジーンズへと切り替わる。

 いつも通りの服装にカレンは呆れた顔を隠そうともしなかった。


 ――まぁ……これが男と女の差だよな。


 こうやって通常服に変わる時にカレンに言われている言葉がある。


『もうちょっと服装に気を使ったら? 顔は良いんだからさ』


 クロスの他の服装が見てみたいという気持ちがあるらしく、口が酸っぱくなるように言われるのだがクロスはそれに首を縦に振ることはなかった。というより、そんな物に金をかけたくないというのが本音。服装に使うぐらいなら、アイテムなどに金を使った方がいいと思っているから。

 ベルは興味なさそうだが、アミは二人の間に漂う空気に困っている様子でクロスを見つめる。


「今日は言わないでおいてあげる」

「今日だけじゃない方が嬉しいかな」

「そういうこと言っちゃう?」

「オレは言っちゃうんだよ」

「もう……、『私が買ってあげようか?』って言っても――」

「ノーセンキュー。カレンの金だから自由に使ってもいいけど、なるべく貯金は置いておいた方がいいぞ? このゲームから脱出した時に貯金0《ゼロ》なんて考えたくもないだろ」

「――って言うと思った。ううん、分かってた」

「だろうな。つか、この会話を何回繰り返すつもりだよ」

「さあ? クロスくんが諦めて服を買ったらじゃない?」

「ないない」

「だったらずっとだよ」

「オレにお節介を焼かなくていいよ」

「しょうがないじゃん。気になるんだもん。なんとなく気をかけてあげなくちゃって思うんだからさ」

「そりゃどうも」

「だからさ、私たちのパー――」

「絶対に拒否。あり得んし、オレはぼっちで十分だ。いや、アミがいるからぼっちじゃないけどな」

「そんなに拒まないでよ!」

「原因は知ってるくせに」

「そ、それは――」


 そこでカレンは俯き、口を閉ざす。しかも、そのことを言われたくなかったのか、目は泳いでしまっている。

 ベルもまたそいつのことを言われたくなかったのか、隠すことなく舌打ちを漏らし、不快感を露にした。


「――あ、あの子だって悪い子ではないんだよ?」

「知ってるよ。悪い子じゃないのは十分に分かってる。けど、オレとは合わないって言いたいんだよ」

「そ、それは――」

「優しすぎるんだよ、カレンは。あいつはそこに付け込んでるだけだ」

「誰がそこに付け込んでるって?」


 ハッとした様子でカレンは振り返り、自分の真後ろにいる上から下までを黒一色の服装で揃えている青年を見つめる。この会話を聞かれていると思っていなかったらしく、少しだけビクビクとした様子で怯え始めた。

 彼の名前はレイ☆8912(以後、レイ)。

 カレンとパーティを組んでいる人物だ。

 レイは目元ギリギリまで隠している髪の隙間から鋭い目をクロスへと向ける。変なことを言われて怒っているような視線ではなく、クロスという存在そのものを敵視しているような視線。

 クロスはそれを受けて、今まで脱力していた身体に力を入れ、ゆっくりと立ち上がる。


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