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「んー、やっぱり居心地が悪いなー。ねぇ、アミちゃんは?」


 カレンはムッとした表情でクロスから離れる。

 今、着用している戦闘服が気に入らないらしい。

 このゲームの元々存在する設定――通常時と戦闘時の服装を自由に変えられるシステムが存在する。このようなシステムがなぜあるのかというと、どうやら女の子のプレイヤーを集めるための配慮らしい。さすがに街の外に出る際は強制的に戦闘服に変更されるが、街の中では自由に現実と同じように用意された服を着ることが出来るのだ。

 だからこそ、その服装の変更を出来るアミの所在をクロスに尋ねてきたである。


「今、セーブしに行ってる。そろそろ戻って来るんじゃないか?」

「あ、そうなんだ。まぁ、それまでは我慢しよっと。でさ、珍しく疲労困憊してるみたいだけど、どうしたの?」

「中ボスの赤竜を倒した影響だよ。さすがに疲れた……」

「本当に! おめでとう!」

「オレより先に倒してる人がそれを言うか?」

「それでもすごいじゃん! 私なんてパーティでだよ? それと比べたら一人で倒したって方がすごいよ!」

「一人よりも体力は少しだけ増えるけど、パーティで倒した方が楽だからな。なるべくはパーティを組んだ方がいいのは間違いないさ。一人が攻撃を避けてる間に攻撃することも出来るし」

「まー、それがこのゲームの推奨されてる設定ではあるもんねー。ねぇねぇ、良かった――」

「あいつは? カレンの相棒」


 クロスはカレンの言葉を遮り、アミと同じようにいる相棒について尋ねる。

 アミと同じように何かの用事がない限り、基本的にサポートである妖精は主人の側を離れることはないのだ。それを利用してクロスはその話を遮ったのだ。

 その話を遮られたカレンは不満そうに頬を膨らませつつも、


「アミちゃんと同じだよ。セーブしに行ったの。だから、一緒に帰って来るんじゃないかな?」

「あり得るな。カレンの相棒はオレと比べると、アミの方に心を開いているし」

「本当は良い子なんだよ? 私のことを気遣ってくれるし」

「知ってるよ。つか、他人の相棒に懐かれ――」


 自分の相棒のフォローを必死にするカレンに対し、クロスは興味がまったくなさそうに言いかけたところで、


「あ、こんなところにいた! 探したじゃないですか! ほら、ベルくん! こっちだよ!」


 アミは「探すのが大変だった」という表情を隠すことなく、少しだけ離れた位置でキョロキョロとしていた男タイプの蝶々の羽を持つ妖精がスィーッと飛んでくる。

 名前はベル#MK(以後、ベル)。


「ありがとう、アミさん。一緒に探してくれて助かったよ」

「別に気にしないでいいよ。クロスさんと同じ場所にいるような気がしたから、一緒に探した方が良いかなって思っただけだから!」


 礼儀正しく頭を下げるベルに対し、どう反応したらいいのか困ったように笑うアミ。


「お疲れ様、ベル。セーブありがとう」

「いいえ、これがボクの仕事なので」

「でもお礼は言うものでしょ?」

「かもしれませんね」


 カレンが差し出した手の平の上にベルは乗り、感謝の言葉にぶっきらぼうに返すも、表情は嬉しそうに笑っていた。

 アミは二人のやりとりを、指を咥えながら見つめた後、羨望の眼差しをクロスへと向ける。


 ――やっぱりそう来るか。分かってたけどさ。


「お疲れ様。ありがとうな、アミ」

「はい! クロスさんもお疲れ様です! 少しは休憩出来ました?」

「出来ると思うか?」


 左手を上げながら人差し指を立てる。そして、その指をカレンの方へ曲げる。

 アミは状況から察したのか苦笑い。

カレンは「ごめんね」と言いたげに少しだけ頭を下げると、そのことが気に入らなかったのかベルがクロスにキッと鋭い視線を突き付けた。


「カレン様が邪魔したって言いたいのか?」

「言いたいんじゃない。邪魔したって断言してやるよ」

「なんだと? せっかくお前みたいなぼっちに話しかけに来てやってるのにか!?」

「うるせーよ。別に頼んでない。オレにはアミがいるから、それでいい」

「そうやってアミさんに迷惑をかけてるんだな。分かってたけど」

「なんで一々ケンカ売って来るかな? 別にオレはいない扱いで良いから、三人で仲良くやってくれ」

「そうですね、お前みたいな協調性のな――いたっ」


 不意に落ちてきた指にベルは頭を押さえる。言葉としては「痛い」と反射的に出てしまっただけであまり痛くないらしく、目付きは変わらず叩いた本人――カレンを見つめる。

 ベルが見つめたカレンは少しだけムスッとした表情をしていた。


「もう止めなさい、ベル」

「だって――」

「『だって』じゃないの。中ボスを倒してきたクロスくんの休憩の邪魔をしたのは本当なんだから、文句を言われて私は当たり前なの。だから、一々ケンカを売らない」

「で、でも……」

「『でも』でもない。良いから、ちゃんとクロスくんに謝りなさい。これは命令だよ?」

「うっ!」


 謝りたくない、なんでこいつなんかに。

 そんな明らかに謝罪するつもりのない表情をクロスに。

 それでもカレン様の命令だし。

 主人であるカレンの命令に逆らいたくないという表情をカレンに向ける。

 二、三回そんな表情を二人に見せつつ、最終的に、


「すみませんでした」


 ぶっきらぼうにクロスにベルは謝った。不満そうな表情は隠しきれていなかったが。


「ごめんね、クロスくん。ベルも悪気はないから」

「いいよ。最初から気にしてないし……。つか、ベルがケンカを売ってくるのはいつものことだろ? こんな些細なことで。だから気にしちゃいない」

「そ、それはそうだけど……ね……」


 カレンは視線を逸らし、情けないようにため息を漏らす。そして、ベルを見つめる。

 案の定、ケンカを売ったことに対して反省している様子はなく、「ふんっ」と腕を組み、不満そうにしているベル。

 そんな二人を見つめつつ、ぼんやりしているクロスに近寄るアミ。そのままクロスの肩に乗り、


「あたし、迷惑だって思って――」

「なんで、アミまで影響されてるんだよ。分かってるから安心しろ」

「あ、あう……。そ、それならいいんですけど……」


 心配になって小声で話しかけてきたアミに、クロスは即座にフォローを入れる。


「それは良いから、この雰囲気を変えてくれ。それがアミの仕事だ」

「わ、分かりました!」

「頼んだぞ」


 この変な空気が耐えきれなかったクロスがそう命じると、アミは頷いてネタ探しを始める。


 ――なんか、もっと疲れたような気がする。


 クロスはそう思いながら、少しでも休憩出来るように再び脱力し始める。目を閉じたら、またベルに文句を言われそうなので目だけは開けた状態で。


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