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 アルセイム王都に設置してある転送装置――水色のクリスタルの場所へ戻ってきたクロスとアミは一旦別々の行動をとることにした。

 クロスは赤竜との戦闘で集中しまくったせいで疲れてしまった精神を休めるために、休憩に使える木陰やベンチ探し。

 アミは赤竜を倒したことをセーブするセーブポイント――緑のクリスタルが設置してある場所に向かった。

 本来のセーブポイントの使い道は、データの記録はもちろんのこと死んでしまった時の復活ポイントとしての場所でもある。しかし、VR化したクロスたちはアバタ―の死=現実世界の死にも繋がるため、完全に記録専用の使い方しか出来ない物と化していた。それがVR化した物の設定の変更点となっている。


 クロスはなるべく人がいないような場所を探しながら、都内を歩き回った。が、そんな場所はほぼなかった。

 このアルセイム王都は他のゲームでいう『始まりの町』同等の場所であるからだ。それ以上に原因があるとすれば、アルセイム王都に近いボスの待つフィールド『炎の砂漠フレイム・デザート』に存在するボス――炎竜フレイムドラゴンが他のフィールドに住むボスと比べて倒しやすいという情報が攻略サイトに乗っているからである。そのため、初心者たちが自然とアルセイム王都に集まるのだ。


 ――ったく、MMOしてる奴は都市に行けばいいのに。


 その多さから、アルセイム王都に戻るたびにクロスはそう思ってしまう。

 炎の砂漠に住む炎竜が倒しやすい。ただそれだけのことであり、実は他の地域の都心に行けないことはない。ただ、そこまでの道のりがほんの少しだけ大変であり、油断をすれば死んでしまい、帰還ポイントとして設定したセーブポイントに戻されてしまう。だが、セーブポイント自体は道中にも設置されており、ある程度の距離には行商人も配備されているため、基本的には他の都市に行く道で死ぬことはないようになっている。

 クロスがそんな風に思ってしまうのは、訓練の一ヶ月の間にそれだけ何度も瀕死状態に陥り、生き延びたいと願い続けた結果――『生』への執着が異常なまでに強くなっている証拠でもあった。


 ――ようやく座れた……。


 探し回った結果、都心を一周してしまい、さっきまで男女のパーティが座っていた木陰が空いたことを目視。すぐさま誰かが先に座らないように駆け足で近寄ると、木陰を作っている木に凭れて心の中で漏らす。

 本当は声に出して言いたかったことだが、下手に会話をすれば頭上にコメントとして表示されてしまい、その表示が消えるまでの間にさっきまでのパーティが戻って来た際に不快な気分をさせないための配慮である。


「本当に疲れた……」


 クロスは目を閉じ、まだほんの少しだけ興奮している心身を休ませようと全身の力を抜き始める。全身に入っていた力が次第に抜けてくると、今まで反発していた重力が全身にかかり重くなってきたことで、身体が休憩モードに入ったことを確信する。

 最初に教えてもらった通り、スタミナ関連が減ることはなかったが精神の疲れが身体に現れることがあり、それが身体の怠さに繋がることが今までプレイした上でクロスが得た知識であった。だからこそ、こうやって休憩することがこのゲームの中で効率よく進めていく技術であり、大事なことなのだ。


 しばらく、そんな状態でぼんやりしている(いわゆる放置状態)と、頬をプニプニと突かれる感覚がクロスを襲う。

 しかし、クロスはそれを無視。

 アミがセーブをし終わり、戻ってきたのだろうと予測したからだ。そして、自分が起きているかどうかの確認をするために頬を突いた。つまり、寝ていなくてもこうやって目を閉じていれば寝ていると判断し、これ以上の邪魔をしない。そう考えたからだ。

 が、その予想は見事に外れ、何度も頬をプニプニと突かれ、最終的にはグリグリと指を捻じり込まれる。


 ――いってぇな! 疲れてるの知ってるくせにッ!


 脱力していたせいで重くなった右手を無理矢理動かし、頬をグリグリしている腕をガシッと掴む。

 そして上がる小さな悲鳴。

 どうやらいきなり腕を掴まれると思っていなかったような反応だった。

 しかし、そんなことよりもクロスにはある一つの疑問が生まれる。


 ――いったい『誰の腕』を掴んだんだ?


 アミは妖精のため、腕をガシッと掴むことは出来ない。もしガシッと掴むことが出来るのならば、アミの身体全部ということになる。つまり、この時点で水平に伸びる腕を掴む=アミではない人物ことが判明。

 それを確認すべく、クロスは開けたくなかった目を開けて、頬を指で突いてきた人物を見つめた。

 右側には良く知った人物が「えへへ」と照れ笑いしている女性が膝立ちをして、クロスの顔を覗き込んでいた。


「人の休憩中に何をしてるんだ、カレン?」

「死んでないかの確認……かな……?」

「死=このゲームに存在していないという方式が成り立つんだが?」

「そ、それもそうだね! ごめんごめん、幽霊かと思っちゃったの!」

「……」

「……」

「本音は?」

「暇だったから、ちょっとからかってみようかと思いました」

「素直でよろしい」


 クロスはようやく掴んでいたカレンの腕を離す。

 腕を離されたことにより、おかしくなっていた着物の袖を直しながら、少しだけ申し訳なさそうにクロスを見つめる。

 彼女の名前はカレン#MK(以後カレン)。クロスがこのゲーム内で知り合い、同じ境遇にいる女性である。もちろん女性というのはアバタ―の外見からであり、実際の所は男なのかもしれない。が、そういうことを疑っていてはキリがない。だから、完全に女性と扱っている。

 カレンは垂れてきたピンクの髪を耳にかけながら、


「ねぇ、隣にいい?」


 と、隣に座り、そして木に凭れる。

 元から許可するつもりだったが、カレンの独自の判断にわざとらしくため息を漏らしながら前髪を掻き上げるクロス。


「それ聞く意味ないよな」

「だって分かってたしね」

「そりゃ、拒む必要ないから。でもさ、せめて返事を聞いてから座ろうぜ」

「まぁまぁ、気にしないでよ。こうやって気楽に話せるのは、クロスくんだけなんだからさ」


 甘えてくるようにカレンはクロスの方へ身体を傾け、密着させる。

 クロスはそれを一回だけ肩を上げることで拒む。が、そんなこと関係ないように身体を寄せてくるカレンに、クロスは諦めてされるがままになる。

 カレンがこうやって甘えてくる原因を知っているクロスには一度こうやって嫌がって、慣れ慣れしくしていないことをアピールする必要があった。

 それがクロスとカレンの距離。

 二人は友達であり、それ以上の関係でないことを教えるかのように。


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