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「中ボスと言っても強すぎじゃないか?」


 NE2Tクロス(以下、クロス)は視界上部に移るHPバーを確認する。

 HPバーはオンラインゲームでは当たり前と化したこのキャラが死ぬまでの命――いや、生命とも呼べるものである。そのHPバーは半分よりギリギリ上に残されており、半分を切るにはかすり傷を少しでも食らえば、ちょうど半分になってしまうほど減らされていた。同時にその下は技を発動するために必要なMPバーが表示されており、こちらはすでに半分を切っている。


「そうですね。でも、あたしにはどうしようも出来ませんよ? あ、HP薬でも使いますか?」


 その言葉に反応するように隣にいる天使の羽を持つ妖精型のサポートキャラクター、アミ@クロス(以下、アミ)が電子キーボードを操作しようと手を構える。

 しかし、クロスは迷った様子も見せずに首を横に振った。

 目の前にいる中ボス――赤竜レッドドラゴンの下部に表示されているHPバーを確認。HPはすでに半分を切っており、色も緑からオレンジに変色していた。


「これぐらいならいけるだろ。とりあえず武器のチェンジがいつでも出来るように準備しといてくれ」

「了解です!」


 アミは敬礼のポーズを素早く取り、すぐに手を電子キーボードの上に手を構える。

 それを視界の端で捉え、準備が整ったことを確認するとクロスは銀髪をなびかせながら赤竜へ向かい、全力で駆け出す。

 それを待っていたように赤竜は大きく吠え、口を閉じる。閉じた口からは次の攻撃の準備が出来たらしく、歯と歯の隙間から火が漏れ、火炎放射の予兆が見えた。


 ――来るかっ!


 火炎放射が来ると分かった瞬間、クロスの動きは決まる。すでにボロボロになっている遺跡の床にさらなる傷跡を刻み付けるごとく、踏み出した利き足である右足に全体重を乗せる。バキッ! と鈍い音を立て割れるタイルを気にすることなく、火炎放射が赤竜から放たれるまで地面から来る反発を受け止めて待機。そして、赤竜の口が開く初動を確認後、溜めていた反発を利用し、一気に間合いに詰めることで回避。


「ハンマー!」


 そう大声で指示すると、再び右足で床を全力で蹴り、赤竜の頭を飛び越す。飛び越したと同時に今まで装備していた片手剣がハンマーへと切り替わる。その切り替わったハンマーは片手剣より重いことを示すように急激な落下。その落下を利用し、ハンマーを赤竜の頭部に向かって振り下ろす。その一撃は未だ口から放射し続ける赤竜の頭部にクリーンヒット。そのまま地面に突っ伏す形で倒れ込み、HPバーが4分の1ほど減少。同時に頭の上に回転する星マークが表示される。


「あ、ナイスタイミングでスタンじゃないですか!」

「アミ、それは後! 大剣!」

「あう、ごめんなさい!」


 ハンマーの一撃後、地面に落下したクロスは喜ぶ表情を作ることなく武器であるハンマーを手放し、両手と両足を使って着地。即座に足をバタバタと暴れさせて、赤竜の頭部に向かって駆け、到着と同時に両手を上に掲げる。タイミングを見計らったように現れる大剣を掴み、肩に担ぐように構えて技――【ヘビィ・スラッシュ】を発動させる。MPが4分の1消費され、クロスの持つ大剣に粒子が集束し始め、刀身が真っ赤に染まった直後に振り下ろす。ドゴォン! と強烈な一部を放ったことを知らせる轟音と共に赤竜のHPが4分の2ほど減少し、残りHPバーがオレンジから赤へと変わる。


 ――あと少しっ!!


 大剣の一撃でスタンが終わることを分かっていたクロスはその一撃の反動を利用し、身体をクルクルと回転させながら上空を舞っていた。そして着地地点である胴体に辿り着く頃に、


「手甲!」


 と、言い切る前にクロスの両手に手甲が装備される。

 アミはクロスが何の武器を欲しがるのか分かっていたらしい。


「いっけー!」


 この戦いでは最後となるアミの声援に応えるべく、クロスは手甲の技を発動。打撃系の初期技の一つ――【連打】を背中へと繰り出す。左右の拳を遠慮なく振るうと、ズドドドドドッ!! と鈍い音を立てながら、赤竜の身体は床に縫い付けられるようにめり込み始める。同時に着実に減っていくHPバー。しかし、この技では削りきれず、ドットがほんの少しだけ残ることをクロスは気付いていなかった。

 そのことに気付いたアミが、


「その技では削り切れません! 次の技を発動するにもMPが――」


 と、防御または回避の準備に入るように促す。

 しかし、クロスは違っていた。

 技を発動するために必要なMPが自動回復するタイミングを分かっていたのか、【連打】が終わり切る直前にMPバーがほんの少しだけ回復。直後にMPの残量がなくなり、技を発動させたことを知らせるように右手の手甲に渦が纏わりついていた。ラッシュ技の締めとして定番技――【ヘリカル・ベガル】。その一撃を容赦なく赤竜の背中に撃ち込む。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 吠える必要は一切なかった。

 どうせ、これでトドメなのだから。

 しかし、クロスは吠えた。

 なぜかは分からなかったが、そうしないといけない気がしたからだ。

 その咆哮に応えるかのように右手は赤竜の背中を思いっきりめり込み、技の終わりに起こる現象――パァン! と軽快な炸裂音が遺跡に響き渡る。炸裂終了後、赤竜のHPバーにほんの少し残っていた赤色のバーが完全になくなった赤竜は顔を何もない天井へ向け、自らの最期を知らしめる咆哮を放つ。そして、身体が0と1に分解され、消滅。

 その様子を最後まで確認し、戦闘が終了したことを確信したクロスは力尽きたようにその場に座り込んでしまう。


「お疲れ様です!」


 アミはクロスの顔に抱きつくように腰まである金髪の髪をなびかせながら突撃。

 モロにそれを食らったクロスは、「うぐっ!」と声を漏らし、その慣性に任せるように倒れ込んだ。


「おまっ、やめろ」


 そう言いながら、アミの背中を掴み、無理矢理引き離す。


「だって嬉しいじゃないですか! 中ボスを倒したってことは、後はここのボスを倒すだけなんですよ? ここまで来るのにどれくらい――あ、リザルト結果出しますね!」


 思い出したように電子キーボードを出現させて、カタカタと打ち始めるアミ。

 そして、クロスの目の前に電子画面が現れ、今回倒した赤竜から得られる経験値などが表示される。それが今まで蓄積された経験値バーに流れ込み、右端に到達。レベルが上がったファンファーレがどこからか鳴り響き、〈レベルアップ〉と大きく表示され、また左端からバーが現れ、伸び始める。同時に増える『HP』『MP』、攻撃力』『防御力』『回避力』のステータスがほんの少しだけアップされ、それを示すようにアップした量だけバーが少し点滅しながら、数値化された箇所にも増加量が示された。


「レベル30到達おめでとうございます! ちなみに手甲の使用レベルも15に上がりましたよ! そういうわけで『あれ』が使えますね」

「使えるな。っていうか、今はそれどころじゃない気分だけどな。疲労感のせいで」

「かなり集中してましたからねー。それで手に入ったポイントはどう使いますか?」

「いつも通りで」

「分かりました」


 アミは電子キーボードを操作し、クロスのスキルに付けられている『HP増加』と『回避力増加』にポイントを振り分ける。それに従うようにクロスのHPと回避力が再び増加し、先ほどと同じようにバーと数値が増える。


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