七話目 少年の追及
私は上機嫌で宿へと戻る。
今頃、麦わら帽子君が今か今かと待っているそこへだ。
三日後には確実に上物の獲物が手に入る。
多少じれったいところはあるが、私はとにかく楽しみでならなかった。
「その様子だと上物の獲物をとってきたのかい?」
そんな私の気分を害すように嫌な声が響く。
「なにしに来たわけ?」
私が振り向けば、例のギルドの少年が立っていた。
こちらがいかにも不機嫌ですという態度をとってみるが、相手はそんなこと気にしないといわんばかりにこちらへ歩み寄ってくる。
「いやね。現場百回っていう言葉があるようにね」
「だったら現場に行きなさい」
「まぁ話は最後まで聞くものだよ。そういう言葉があっても残念ながら、この事件の現場は判明していない」
「そもそも、事件自体発生してないと思うけれど?」
相変わらず、しつこい。
確かに事件は発生いているが、現場を特定したところで証拠など残していないし、そもそも現場自体わからないように仕組んである。
だから、被害者は基本的に行方不明扱いとなる。
やろうと思えば魔法を使って被害者自体が最初から存在しないことにでもできるのだが、それをやると魔力の消費が半端ないために時間がかかりすぎると結界自体がほころびが生じる可能性がある。
そうなると、かなり都合が悪くなる。
ようはリスクがあまりにも高すぎる方法はとらないというわけだ。
それにこの世界では行方不明者が出るなど日常茶飯事のため、それらが関連付けられて調べられることはあまりない。
つまり、ありふれたという言い方は悪いかもしれないが、よくある行方不明事件ぐらいで片づけられてしまうという仕組みだ。
「どうかしましたか?」
「失礼。少し考え事を……」
「おや、自白する気になりました?」
「そうじゃない」
少年はなおも食い下がる。
彼の目は間違いなく自分と死神だという確証を得ているようなモノだ。
「そもそも、本当に勘とかそんなくだらないことで私を死神呼ばわりするの?」
「……そうだよ。勘でボクは君を疑っている。これもまた事実だ」
「だったらやめてくれる? それだけ言いたいのなら、ちゃんと動かぬ証拠というやつを持ってきなさい」
「証拠なんて残していないんだろう? ちょっと、君の経歴を調べさせてもらった」
彼はカバンの中から私のことが書かれていると思われる紙を取り出す。
「そんな不確定的な話でよくギルドが許可したのもね」
「これはボクの独断であるルートから調べ上げたものだ。それはともかく、これを見ていると君が何で旅芸人なんてやっているのか気になってね。相当優秀な魔法使いだったみたいだね」
「別に。私の勝手でしょ?」
表向きには平静を保っているが、内面はかなり焦っていた。
どの程度まで深く調べているか知らないが、あまりにも深く調べられると……いや、深く調べたからこそ証拠も残さずにそういったことができると踏んでいるのだろう。
「そもそも、私ができるから私がやったというのはおかしいんじゃないの?」
「そうだね。確かに君ほど優秀な魔法使いは少ないとはいえ、いないというわけではない。だけど、旅芸人なんてものをやって世界各地を気ままに歩きまわっているのは君ぐらいだろう? まぁすべての魔法使いの所在をつかめているわけじゃないから何とも言えないけれど」
彼は自慢げに紙をひらひらとさせている。
私はこれ以上話をしたくないと思ったため、早めに話を切り上げようと試みる。
「宿で待っている人がいるので行かせてもらいます」
「おや、逃げるんですか?」
「……逃げるも何もやましいことはないわ」
「そう。まぁ無理には呼び止めないよ」
少年に見送られ、私は足早に夜の街へと消えて行く。
「はぁすっかり遅くなっちゃった」
ボソッとそんなことをつぶやいたが、そんな声も夜の静けさに飲み込まれていった。