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死神少女の旅日記  作者: 白波
第一章 死神は王都の路地裏にいる
7/10

六話目 路地裏の約束

 夜中。

 それはあやかしの時間とか言われたり、魔女の時間と言われたり……とりあえず、暗躍するものたちの時間と言っても過言ではないだろう。

 中には夜の眠らない町なんてのもあるが、そんなものは例外として除いてほしい。


 かくいう私の本業も夜がメインである。


 私は適当な路地に結界を張った後、魔法を使ってターゲットの深層心理を操りごく自然に路地裏へと誘導する。


「ようこそ。夜のさらに深い闇へ」


 私はそんなことを言いながら彼女の前に現れる。


「あなたは?」

「私? 私は死神。あなたの魂を狩りに来たのよ」


 普段は小さくして隠してある大鎌を出して、背中に担ぐ。

 角度的にはちょうど、満月をバックにしていて雰囲気としては最高だ。


 目の前の少女の表情は恐怖の色に……染まらなかった。


「はっ? 何言ってるの?」

「えっいや、だから……この鎌とかさ……死神っていう感じをちゃんと出してるんだけど……」

「ふざけないで。どうせ、昼のお話聞いて真似したくなったんでしょう。どいてちょうだい。急いでるの」


 彼女は物怖じする様子を見せることなく、私を押しのけて路地を進んでいく。


「まぁいいかな……」


 あっさりと出端を挫かれてしまったが、夜はまだまだ長い。

 どうせ、彼女はこの路地裏から出ることなどじっくりと時間をかけて狩ればいい。


 私はほくそ笑みながら姿を消す。

 彼女の位置を常に把握しながら徐々に結界の範囲を縮め彼女を確実に閉じ込めていく。


「さて、今夜は少々骨が折れそうね」


 私は、鎌を月にかざしてそうつぶやいた。




 *




「いい加減あきらめたら?」

「いやだ! 私は絶対にここから出るんだ! 偽死神はとっとと帰れ!」

「いや、だから本物なんだけどね」


 路地裏の結界が随分と狭まった頃。

 件の少女はいまだに抵抗していた。


 いい加減、あきらめてくれてもいいのだが、彼女はいまだに強気を保ったままだ。


 そろそろ朝になるだろうし、この子の魂を狩ってしまってもいい気がするが、それでは楽しさとかその他もろもろが半減だ。

 そもそも、魂自体の光も恐怖や絶望を感じたときに最もきれいに輝く。それが私の持論だ。


 つまり、このまま魂を奪ったところで大してきれいな魂でないだろう。そうでなくても、これほどまでに強気を保ってられる程の精神力があるのだから、このままでも相当きれいなのだろうが……

 だからこそ、なんだかもったいなく感じた。


「あのね。私の結界からは逃れられないの」

「うるさい! っていうか、あなたよく見たら朝の旅芸人じゃない! だったら、なおさら死神のわけないでしょ!」


 げっ正体ばれた。

 別に隠してないけれど、こうなるとなおさら帰すわけにはいかない。


 ここはいっそのことこのまま始末してしまおうか……


 そう思って大鎌を振り上げた時だ。


「ちょっと待って!」

「はっ?」


 まさかの待ったに思わず手を止めてしまう。

 いや、一思いに振り下ろしてもよかったのだが、命乞いでも始めるのだろうかという期待感が手を止めてしまった。


「いや……その、どうしてもやりたいことがあるの。だからさ、3日猶予をくれない? そのさ、3日経ったらあなたが本物にしろ偽物にしろおとなしく殺させてあげるから。うん。そうしてくれる? ほら、仕事の手間とは省けるじゃん?」

「ここまでの手間はどうするの?」

「そこらへんは……えっと、何とかするから」

「……死神との契約は絶対だから。あと、私のことについて他言しないように見張りをつけてもいい?」

「うんうん。全然大丈夫。だから、出してくれないかな?」


 これに対しての返事だが、もちろん二つ返事でOKした。

 もともと彼女の居場所を追跡する魔法は掛けてあるため、仮に3日後に彼女がここを訪れなくても追いかけられるし、それのためだといって盗聴の魔法もかけているため、彼女がこのことを触れ回るのを防止する手はずもバッチリだ。


 路地裏から解放された彼女は、満足げな表情で去っていき、対して残された私はおあずけを喰らった子供のような表情を浮かべていたのだった。

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