四話目 冒険者ギルドの少年
場所は王都のとある場所にある冒険者ギルドの運営する喫茶店だ。
私の横には、変わった帽子(麦わら帽子というらしい)をかぶった男の子がいて、体面には私がもっとも会いたくない少年が座っていた。
「いやー久しぶりだね。本当に」
「私は最高に最悪な気分なんだけどね」
「まぁまぁいいじゃないの。ボクとしてもさ、冒険者ギルドの仕事を探しているうちに偶然、君を見かけたわけだし」
何が偶然だ。最初にあった時から彼は行く先々で私の前に姿を現す。
これはあれだ。昔、少しだけ行ったことのあるどこぞの世界的に言えば“すとーかー”とかいうやつではなかろうか?
いやはや、天を貫くように鉄の建物がいっぱい立っていて驚いたのなんの……失礼、話が脱線してしまった。
とりあえず、私は彼には会いたくないという気分でいっぱいなのだ。
どれくらいいっぱいかと言えば、世界を包む大海をもはるかにしのぶレベルだ。
「それで? さっそく、本題に入るけどさ……いい加減認めてくれない? 君が死神だってこと」
「……はぁ。だから、なんでそう言い切れるわけ? 私はただ、人から聞いた話を話しているだけの旅芸人よ。大体、この軽装でどこに鎌を隠せると?」
補足させてもらうと、副業をするときは黒いローブは身に着けていない。ただ、鎌に関しては持ち歩いているのだが……あれがないといろいろと支障をきたすためにやむをやまれずといったところだ。
そんなことはどうでもいい。今の服装は白を基調としたもので死神とのイメージは正反対である。ただ、この服装のせいでこの国の国教となっている真っ白衣服の集団の宗教の一員と勘違いされることもしばしばあるのだが……
そんなことをぼうっと考えている間にも目の前の彼はこちらをジッと見つめている。
「あのね。そんな風に凝視されても何も出ないわよ? それとも、顔に何かついてる?」
「あぁ。口元にケチャップがべっとりと」
「……それは失敬」
私は急いで口元をぬぐう。原因はおそらく目の前にあるホットドッグとかいう最近になって南部の国から入ってきた料理だろう。うん。ケチャップを使っている料理を食べるときは気を付けよう。
「それで? 結局のところなんで私が死神だって疑ってるの?」
「長年の勘だ」
「どこかの国の長老か何かですか? 勘って疑われちゃこっちの身が持たないわ。ほら、物的証拠がないなら帰って頂戴」
つくづく、こいつを次のターゲットにしようかと考える。しかし、それは私が死神だと認めるようなもので彼は自分の推測が正しかったと喜び勇んで死んでいく気がする。それはそれで見たくない光景だ。
きれいな魂がほしいということが根底にありつつも恐怖にゆがむ顔を見たいという感情もあるため、仮にそうなれば魂がきれいでも喜びが半減だ。だから、彼の魂は狩らない。今後絶対とは言えないけれど。
「いやいや、物的証拠とまではいかないけれどさ。数ある旅芸人の中で死神少女の旅日記を話し始めたのは他でもないあなたでしょ?」
「まぁそうね。あれは私のオリジナルよ」
実際、そうなのだから仕方ない。
私が話す死神少女の旅日記は100パーセント自分の経験をもとに語られている。当然ながら話を盛り上げるために多少の脚色はあるが……
「でも、元の話ぐらいあるでしょ? それはどこから?」
「そんなことどうでもいいでしょ。大体、本当に存在してるかどう変わらないのを追うよりももっとわかりやすいのおったら? ほら、この前新しい遺跡が発見されて、冒険者を集っているそうじゃないの」
「いや、ボクはそういうの興味ないし」
「いやいや、そういったロマンを失った時点で冒険者失格でしょ」
会話はこんな平行線をたどるばかりだ。これがいつも通りの光景だなんて言える現状が怖い。
そんなことを想いながら、私の無駄な時間は刻々と過ぎてゆくのだった。