三話目 副業で語るのは……
今、私の前にいるのはたくさんの獲物。もとい聴衆である。
これから語るのは、私が旅の中で見聞きした伝説。これを語りながら旅をするのが私の“副業”である。
「さて、皆様。お集まりいただきありがとうございます。本日、話しますのはついに王都までに現れたという死神少女のお話よ! 題して、“死神処女の旅日記 王都編”。さぁさ、みんなちゃんと聞いて行ってね!」
私が一番得意とする題目だ。私自信の本業について脚色を語りながら、ただし私と同一人物だとわからない範囲で語っていく。
あくまで都市伝説として、あくまで仮想上のものとして語っていく。
旅を続けていくうちにどんどんとこの話自体は広まっていき、今やたくさんの人がさらなる脚色を加えながら語っていくという状態になっている。
そういった話を小耳にはさんだりすると、とても愉快な気分になる。
「王都の夜道を一人の男が歩いていたんだよね。その男はどうしても早く帰る用事があって、いつもは通らない路地裏を通ったそうだ。すると、突然目の前に黒いローブに身を包んだ女の子が現れたんだよね」
話しているうちに昨晩のことを思い出して思わずにやけそうになる。
ただ、今は副業中だ。必死にそのにやにやを抑え込みながら私は話を紡いでいく。
「男はたいそうびっくりしたんだよね。そりゃ当然、こんな時間に女の子がいるんだもの。それでね。彼は話しかけたの。“お嬢ちゃん。こんな時間にどうしたんだい?”するとさ、女の子はにやりと笑って答えたんだって。“大切なものを探しているの”って。男は首をかしげる。それは、当然だ。女の子は全く探し物をしているような気配はなかったんだよね。それでさ、男が聞くわけ。“何を探しているの?”って。すると、女の子はにやりと笑って大きな鎌を取り出したのさ。それも、何にもないところだ」
聴衆が息をのむ。至って、いつも通りの反応だ。“ごく一部”を除いてはであるが……
聴衆の中にあまり、見たくない顔を見て一瞬、顔をしかめるがすぐに気持ちを切り替えて続きを語る。
「男の人はどうなったの?」
ちょっと、間が開いてしまったようだ。
最前列に座る女の子が私に尋ねてきた。
「おっとごめんね。その男はさ、まぁそれは顔を真っ青にしちゃったのよさ。そんな彼を前に女の子はいうわけ。“大切なもの? あなたの命だよ。ほら、ニンゲンって命が一番大切でしょ? あぁニンゲンだけじゃないか。とりあえず、あなたの命を頂戴?”って。男はもう真っ青。持っていた荷物を捨てて路地を走り出すわけ。でも、どれだけ走っても路地の出口に行けない。まるで路地が大きく広がってしまったかのようにさ。男はどれだけ逃げてもどれだけ逃げても逃げ切らない。そしたらさ、やがて行き止まりに追い詰められちゃうわけさ」
そこでいったん話を切る。
ちょっと前まで少しばかりざわついていた聴衆は水を打ったように静まり返っている。
「死神はあとがない男に迫っていくわけ。一歩、また一歩ってね。“助けてくれ”“やめてくれ”って男は言うけれど、女の子はお構いなし。その大きな鎌を振り上げて……彼の首を飛ばしてしまったんだ。さぁて、そんな恐ろしい死神さんだけど、もしかしたらあなたたちのすぐそばにいるかもしれないね」
聴衆はしばらくしんとしていたが、誰かが拍手をし始めるとそれが一気に周りに広まる。
私は大きく頭を下げて、昨晩であった男の子とともに聴衆からお金を集め始める。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
何度も頭を下げて、お金をもらう。
そうしているうちに徐々に聴衆は散っていき、残っているのは私たち二人と、話の途中で見つけしまったあまり話したくない人だけだ。
「あんたさ、また来てるの?」
だからこそ、思わずそう言ってしまった。