魔法使いの一張羅
「きったねー格好」
笑いながら通り過ぎる酔っ払いに、ギルは心の中で溜息をついた。
思っていても、それだけは言ってはいけない。
彼はその事を身をもって既に体験していた。
ピクリ、と相方の肩が動いたが見ないフリを決め込んだ。
「あれしか着る服ないんじゃねーの。カッコ悪ー」
続く笑い声が暗い路地に響くのを、サクは静かに見送った。
……かに、見えた。
「ちょっと待て」
サクの周りに冷気が集まる。
灰色のローブの下のサクの顔が静かに怒っている事を、酔っ払いたちは気付いてはいなかった。
ギルだけがサクから距離を取り、一つ手前の角のところに身を潜めた。
とばっちりだけはゴメンだ。
ギルは自らの身を守る方法をよく知っていた。
「誰が汚いだと?」
ゲラゲラ笑いながら、酔っ払いはサクを指差した。
「目も悪いんじゃねーの。鏡でよく見てみろよ。センスねえよ、アンタ」
更に笑い声が続く中、サクはローブの下で笑みを漏らした。
その静かな笑い声は男たちには届いていない。
「どうせなら洗濯しやすいようにしてやるよ!」
男の中の一人が手に持っていた酒瓶をサクに向け、サクのローブに酒を振りまく。
弧を描いて酒はサクのローブに掛かり、男たちは更に声を上げて笑った。
「何がおかしい」
「折角だから、脱いだらどうだ? その汚いゴミみたいな服」
男たちの笑い声には答えず、サクはローブから白い手を出した。
その手を天に向け、口の中でブツブツと何事か呟いていた。
「見てみろよ。こいつ固まってやがるぜ」
「俺たちが怖いのか? どうせなら身包み剥いでやろうか」
男たちが近寄り、サクのローブに触れようと手を伸ばした。
「いてっ」
手を伸ばした男が指先を引っ込め、顔を苦痛に歪めた。
男の指先には電気が走ったような痛みがあった。
他の男たちもサクに手を伸ばそうとして、そして皆苦痛に顔を歪めた。
「後悔させてやる」
サクの体は、静電気のような細かな稲妻が光っていた。
稲妻はサクの手に集まり、剣のように形を変えていく。
それを見た男たちは青ざめ、ギルは路地の角で毒を吐いた。
「あーあ。あんなにムキになることないのに」
バキっ。
振り返ったサクの手から青い稲妻がギルに向かって走った。
ギルは間一髪避け、垣根が少し崩れる音がした。
男たちはそれを見て、言葉を失った。
「いてっ」
手を伸ばした男が指先を引っ込め、顔を苦痛に歪めた。
男の指先には電気が走ったような痛みがあった。
他の男たちもサクに手を伸ばそうとして、そして皆苦痛に顔を歪めた。
「後悔させてやる」
サクの体は、静電気のような細かな稲妻が光っていた。
稲妻はサクの手に集まり、剣のように形を変えていく。
それを見た男たちは青ざめ、ギルは路地の角で毒を吐いた。
「あーあ。あんなにムキになることないのに」
バキっ。
振り返ったサクの手から青い稲妻がギルに向かって走った。
ギルは間一髪避け、垣根が少し崩れる音がした。
男たちはそれを見て、言葉を失った。
問答無用といった調子のサクに聞こえよがしの溜息をつき、ギルは大人しく男たちの服を脱がせにかかった。
抵抗するかと思っていたが、ギルの大太刀が目に留まったのもあり、男たちはされるがまま、素直に服を脱がされた。
腕組みをしながらその様子をサクが見ていると、最後の一人がギルに抵抗し始めた。
「何を隠し持っている」
男に冷徹な一言を投げかけ、サクは手の中の稲妻を剣の形に変え、男の頬を叩く。
稲妻の剣で頬を叩かれた男は、青ざめ、抵抗する事をやめた。
男の懐から出てきたのは、かなり大きな布袋でサクとギルはお互いの顔を見合わせた。
「頂いておこう」
サクは男が大事そうに抱え込んだ布袋を手に取り、ニヤリと笑った。
ギルは頭の中で、今晩の食事のメニューを考え出した。
「それはっ。それは困るんだ!」
「何がだ? どうせ汗水垂らして稼いだ金ではないだろう。寧ろ公になるほうが困るんじゃないか?」
少し鼻にかかるような甘い口調でサクは男の耳元で囁き、布袋の中身を確認した。
袋から一掴み金貨を投げ、男を一瞥する。
「それだけあれば、当面は足りるだろう。それから、この事を誰かに漏らしたりしたら、わかっているな」
悪魔の囁きに、男たちはぶんぶんと首を縦に振った。
サクは踵を返しギルもその後につき従う。
「なあ、一つ言ってもいいか?」
いくつかの角を曲がったところで、ギルがぼそりと呟く。
「最近、俺たち強盗化してないか」
「じゃあ正攻法で稼ぐか?」
「……考えておく」
考えるだけなのか、というサクの呆れた声を無視して、ギルは繁華街へと足を速める。
「なあなあ、その酒臭い服脱げば?」
「嫌だ」
「洗ってるのも見たことないし、不潔ー」
ザバー。
ギルの頭にスコールのような水が降り注ぐ。
ぶるぶるっと頭を振り、ギルがサクに殴りかからんとする。
「お前! 文句は口で言えって言ってんだろ!」
ギルの拳を華奢な手で止め、サクが溜息をつく。
「酒臭いから脱いでもいいが、厄介事が増えるだけだぞ」
「ああ、構わねえよ。どうせ今だって厄介事まみれじゃん」
ケタケタと笑い、自分の濡れた服を脱ぎ始めたギルを見て、サクは笑う。
「後悔するなよ」
緑の髪、緑の瞳。日に焼けていない、白い透き通るような肌。
ギルは相棒の素顔を初めて見て、息を呑んだ。




