吸血鬼と内職します。
おかしな関係だとは、自分たちでもわかってる。
「ひなたー」
「ん〜?」
座卓に頬をくっつけたまま、エリュが尋ねる。
ちょこちょこと作業をしているひなたは彼の方を向かずに答える。
とりあえず、これも日常風景。
「気になってたんだけど。それ、なに?」
「これ?」
「そう。」
ひなたは少し考えてみる。はて、どう説明するべきか。
おもちゃ屋とかスーパーなんかに置いてある主に子供たちがガチャガチャやるアレ。
と説明したとして。何?と聞いてくるくらいだから彼はこういうものに接する機会はなさそうだ。
ひなたは作業の手を休めて彼の目の前に作業の成果をことん。と置いてやる。
カプセルにおもちゃが入っている。
「開けてもいい?」
「だーめ。今詰めたばっかりなんだから。」
「何してんの?」
「お仕事だよ?」
カプセルにおもちゃを詰めるお仕事。
作業をしているひなたと目の前のカプセルを交互に見つつ。
部屋の中には段ボール箱がいくつか。
最初は何か食べ物や雑貨とかそういうものが入っているのかとも思ったが
どうやら全部これに使われる道具のようだ。
お仕事。という事は働いている。働かないと食っていけないよなぁ。と思いつつ。
はて、自分の生活費等々はどこから出ているだろうか。と考える。
さすがにひなたに頼りっぱなしではいけないだろう。
そう思いながらひなたの置いたカプセルをちょいちょいとつっつく。
しばらく考えた結果。
「ひなたー。」
「ん〜?」
「これ俺にもできるー?」
「できない事もないと思うけど、どうしたの?」
「やってみてもいい?」
とりあえずひなたの家に置いてもらっている以上、何か彼女の役に立とう。という結論に至る。
見る限りは単純作業。そう難しくなければ、自分も手伝ったりすれば少しは足しになるかもしれない。
あくまでも少しは。だ
「いいけど、あんまり面白くないと思うよ?」
苦笑しつつひなたはカプセル一個分の道具を彼に渡してみる。
エリュはよいしょ。と体を起こし、それをじっくり眺める。
彼の隣について一通りのレクチャーをするひなた。それをふむふむ。と聞きながら手元を動かしてみる。
とりあえず、一個完成。
「へー。」
完成したものをじーっと見てみる。
中に入っている紙のようなものを綺麗に折るのは気を使うが、それ以外は自分にもできそうだ。
再び自分の作業に戻ったひなたの横からこっそりと二つ目の道具を拝借。
先ほどひなたが用意してくれた道具と一緒か数を確認しつつ。
自力で二個目完成。きちんと一個目と同じにできている事も確認。
なんとなくだが自分でもできそうな気がしてきた。
意外と単純作業に向いているのかもしれない。とりあえず、三個目拝借。
慣れているひなたに比べれば速度は遅いものの一個一個確実に間違えないようにこなす。
しかし、中に入っている紙のようなもの。こいつがくせものだ。
折るのも面倒なうえ、取る時もうっかりすれば2枚取りそうになる。
「あれ?」
いつの間にかわきに置いてあった道具が消えていることに気が付いたひなた。
きょろきょろとあたりを探してみると犯人はすぐ隣に居た。
エリュの隣には小さく作業済みのカプセルの山が出来ている。
山を築いた本人はせっせと単純作業をこなしていた。
と、視線に気が付いたのか顔をあげる。
「ん?どうしたのひなた。」
「楽しい?」
「そこそこ楽しいよ。紙折るの大変だけど。」
にっ。と笑うエリュにひなたも苦笑する。
内職をやる…吸血鬼…。
面白いにも程がある。
吸血行為をしている時以外はこうして普通の男性、むしろ男の子として家にいる。
一度年齢を尋ねてみたことがあったがどうやら彼はひなたの二つ下らしい。
こちらの世界で言えば高校2年生だ。
そこを考慮してもまだ彼の普段の行動は普通の高校2年生より若干幼い気もする。
もしかするとひなたが年上であるからそう感じるのかもしれないのだが。
だが、“その時”になるとどうした事かひなたよりも大人びて見えるのだ。
解せぬ。
納得のいかない様子でエリュを見ていると、彼と目が合う。
「なに?」
「な、何でもない。」
ふい。と目をそらす。そんなひなたを今度はエリュが覗き込む。
「なんか気になるんだけど」
「え、ほ、本当なんでもないからっ…」
顔が真っ赤になっているのを隠そうとわざと髪を下ろす。
彼の表情も見えなくなったが少なくとも自分の表情と顔色は彼から見えないだろう。
しばらくそうして落ち着いたところでふと顔を上げる。
と。
「…っ!?」
エリュが自分を覗き込んでいる。しかも超至近距離。
驚いたひなたは後ずさろうとしてそのまま後ろに倒れこむ。
「わっ、ひなた大丈夫!?」
エリュが支えていなければそのまま床に頭を打ち付けていたところだろう。
慌てていたのかエリュは床に手を付き、ちょうどひなたに覆いかぶさるような形になる。
ひなたはようやく落ち着いたというのに今度は耳まで真っ赤になってしまった。
「え、あ…っ」
「えっ!?どこか打った!?」
ひなたは動揺し過ぎて言いたいことが言葉にならない。
今度はひなたの顔が真っ赤になっているのがはっきりと見て取れたからか、エリュは首を傾げる。
ちょっと今の状況整理。
「あっ!ごめんひなた。」
ようやく気が付いたのかエリュはひなたの体を起こして身を離す。
彼が身を離した後も、ひなたは俯いて動けなかった。
そんなひなたの姿をエリュははらはらしながら見つめる
―まずい…怒らせたかな…。
一方ひなたの方は先ほどの動揺がまだ収まらずに目をつぶって考え込む。
彼の目を見ることも、彼の姿を見ることさえ今は恥ずかしい。
本当に付き合っていないのか疑問になるほどの日常。
やっぱりおかしな関係。