第9話:防衛システム稼働?〜害虫駆除レーザーと地獄の捕獲網〜
不毛の死の荒野、デスバレーの物理的な境界線たる岩壁の目前。
そこに到着したのは、神聖ロザリア王国の国章をマントに刻んだ極極調査隊たちだった。
王国軍の中でも一騎当千の精鋭のみから選りすぐられた魔導騎士である彼らだが……。 その顔は一様に青ざめ、ガチガチと歯の根が合わないほどに震え上がっていた。
「隊長、気を引き締めろ! 星見の塔からの観測通り、デスバレーの中心部に、過去の魔王を遥かに凌駕する超巨大なマナ溜まりと、巨大な要塞の影が確認された」
「我々の任務は、この新興勢力の実態を探る決死の潜入調査だ! 最悪、命を落とす覚悟で行け!」
「はっ!」
彼らは通常の騎士ならその気配だけで気絶するような、Aランク魔物が闊歩する脅威の荒野を。 額に冷や汗を流しながら命がけでゆっくりと進んでいた。
しかし、彼らがさらに十歩ほど足を踏み入れた途端だった。
「はっ! ……な、なんだこの熱風と吹雪は!」
突然、猛烈な熱波の嵐と、凍えるような極寒のブリザードが、まるで気まぐれな竜巻のように交互に吹き荒れたのだ。
「ぐぅぅっ!」
そのあまりの威力に、隊長たちが身につけている「国宝級の耐魔法装甲」の表面が、高熱でドロドロに溶けかけ、直後に極低温で凍りついてバキバキとひび割れていく。
「極大火炎魔法と絶対零度魔法の複合トラップだと!? 常時このマナを維持するなど不可能だ!」
「これが……新興の魔王城の結界か! まだ外壁すら見えない距離だぞ!」
隊長は膝をつき、死の恐怖に戦慄したが――。
のちに判明することになるが、実はそれはレオンの村の空調システム(魔導冷暖房)から村の外へと排出されている。 ただの『排気(エアコン室外機)』の余波に過ぎなかった。
▽ ▽ ▽
「だ、ダメだ! 構わず前進しろ! 退けば王国が終わるぞ!」
「気をつけろ、地面から何か来るぞ!」
彼らの足元から突然、「ジーッ」という虫の羽音のようなかすかな機械音とともに、無数の光のレーザーが乱れ飛んだ。
「ぐわあああっ!」
精鋭たちの持つ、最新鋭の攻城兵器すら弾き返す『対物理・対魔法用の複合結界盾』が。 まるで薄い濡れた紙屑のようにスパスパと貫かれ、彼らの分厚い鎧が次々と黒焦げになって弾け飛んでいく。
「ば、馬鹿な! まだ城の外壁にも触れていない、ただの荒野の雑草地帯に、これほど高密度の神話級トラップ(自動追尾・物質貫通レーザー)が敷き詰められているだと!?」
隊長は左腕に火傷を負い、己の無力感と、これから挑むべき魔王の圧倒的軍事力に完全に絶望したが――。
実のところ、それはレオンが先日庭周りに仕掛けた『全自動雑草除去用レーザー』に過ぎない。
景観を損なう「地面から数十センチ以上伸びすぎた草」を感知して自動で焼く設定にしていたため。 地面を這いつくばるように隠密行動をしていた人間たちを「ちょっと大きな目障りな草」と誤認して焼却しようとしただけである。
「退け! こんな防衛システム、軍を一つ持ってきても抜けられん! 一旦退却だ!」
ボロボロになりながら前傾姿勢で逃げ惑う彼らは、さらに上空から音もなく降り注いだ巨大な「光の網」に引っ掛かった。
「ぐわあああ! なんだこれは! 網が空中に固定されていて、空間ごと拘束されている!?」
「無理だ、王国一の剣士の斬撃でも、最上級解除魔法でも傷一つ付かない!」
「なんという悪魔のシステムだ! おのれ魔王めぇぇ! 最初から我々を捕らえて生殺しにする気か!」
彼らは無慈悲なシステム網に絡め取られ、泣き叫びながら、近くの大木に逆さ宙吊りにされてしまった。
これもまた言わずもがな。 それはレオンがセリアのために設置した『小鳥捕獲用の完全無傷キャプチャーネット』だった。
生け捕りにして愛でるための仕様なのだから、無傷で解除できないのは当然である。
▽ ▽ ▽
しばらくして。
「おや、新しい小鳥が獲れたかな……って、人間!?」
庭からひょっこりとカゴを持って出てきたレオンは、宙吊りにされて泡を吹いている人間たちの集団を見て酷く慌てた。
「ご、ごめん! まさかこんな危ない辺境の場所に人が来るなんて思ってなくて!」
レオンが指先を軽く振ると、王国の最新鋭でも絶対に破れないはずだった空間拘束ネットが。 まるで靴紐をほどくような手軽さでパラリと光の粒になって消滅した。
ドサッ、と地面に落ちた隊長たちは、震え上がり、互いに身を寄せ合った。
高度な多重魔法陣を、詠唱も魔法の媒体もなしに指先の軽い動きだけで解除したレオンを見て。 「この男が新たなる絶対神(魔王)か……! 全ては我々をもてあそぶための余興だったのだ!」と完全に勘違いして顔を覆ったのだ。
「怪我してるし、すごいボロボロじゃないか。遭難したの? とりあえず中に入って休んでよ」
レオンは優しく微笑み、抵抗する気力も失いガタガタと震え続ける彼らを。 無理やり神々の領域(自宅の超快適なリビング)へと連行したのだった。




