第43話:海中温泉開発〜魚たちもリラックス、神聖バブル・スパで海の汚れを浄化〜
略奪船団から超豪華リゾート客船へと強制リフォームされた、『バルバドス』。
その船乗りたちは、今やデスバレーの「温泉」の虜になっていた。 なかでも彼らが最も愛してやまないのが、レオンの作ったお湯である。
だが、彼らはデッキのジャグジーに浸かりながら……。 ある一つの、贅沢な悩みを抱えていた。
「レオン様、温泉は最高です。ですが……」
「広大な海の上で、あのお湯にどっぷり浸かる喜びを味わいたいのです」
「ジャグジーも良いですが、やはり自然との一体感が足りないというか……」
船団長が、温泉成分でツヤツヤになった肌をさすりながら。 贅沢な溜息をついた。
「うーん……確かに」
「目的地に着くまで温泉に入れないのは、人生の効率として損失だね」
レオンは、どこまでも続く水平線を見つめて腕を組む。
「……じゃあ、海そのものを温泉にしちゃえばいいよね」
「ちょうど最近、魚たちもストレスが溜まってるみたいだし」 「みんなで一緒にリラックスしようよ」
「レオン様、無茶を仰らないでください!」 「海を温泉にするなど、生態系の完全破壊ですわ!!」
セリアの悲痛な絶叫も、もはやレオンを止める障壁にはならなかった。
レオンは白亜の客船の舳先から、海底へと向けて杖を静かに向けた。
【海洋環境・温泉化改善:ディープ・シー・バブル・スパ】。
レオンの魔力が、海底数千メートルの熱水噴出孔を直接刺激し……。 地熱エネルギーを、乳白色の「神聖温泉成分」へと瞬時に変換。
さらに、入浴者が海中で普通に呼吸できるよう。 泡の一粒一粒を、「高純度酸素バブル」へと書き換えてしまった。
瞬く間に、一帯の海域が柔らかな黄金色の湯気に包まれた。
海はもはや冷たく荒れ狂う水の塊ではなく、大陸を囲む巨大な「湯船」へと変貌したのだ。
「おおおお! 身体の芯から温まる!」 「海の中なのに、不思議と全く息が苦しくないぞ!」
「見てくれ、あの大サメを!」 「俺の背中をエラで優しくこすって、角質を取ってくれている……!」
海洋学者たちが卒倒して泡を吹く中。 海中では前代未聞の光景が、広がっていた。
かつては海の王者として恐れられていたホオジロザメまでもが。 温泉のあまりの心地よさに牙を抜き、白目を剥いて幸せそうに浮かんでいる。
それどころか、魔物たちは泳いでいる人間に対し……。 「お背中流しましょうか?」と言わんばかりの。 献身的な接客を、始めたではないか。
「うんうん、みんな健康的で仲良しだね」
「海が浄化されれば、魚たちの身も引き締まって美味しくなるし一石四鳥かな」
レオンは、海面に浮かぶ巨大な抱き枕に身を預け。 温泉化した海を眺めて、満足げに頷いた。
こうして、バルバドス周辺の海域は。 レオンの「ちょっとしたお風呂掃除」によって。
全次元で唯一、魚や海獣と一緒に混浴を楽しめる。 「海中スパ・リゾート」へと、進化してしまったのである。
新大陸からの調査員たちは、もはや報告書を書く手すら止めていた。
「……もういい。この大陸を理解しようとするのが間違いだったんだ」
「私も……お湯に入ってこよう……」
世界はまた一歩、レオンの「快適さ」という名の支配によって。 塗り替えられていくのであった。




