第41話:巨大海獣の襲撃〜山のような怪物は、ふかふかの抱き枕になりました〜
ユグドラ・ネットで拡散されていた『謎の巨大な影』。
その正体は、古の神話において大陸を沈めたとされる伝説の超巨大海獣。 タイダル・リヴァイアサンであった。
その巨体は一つ一つの鱗が家屋ほどもあり……。 海面を割って現れただけで、周辺の海流を物理的にねじ曲げた。
平穏な沿岸都市が、今まさに飲み込まれようとしていた。
「き、貴様らぁ! 全員避難しろ!」
「あれは武力や艦隊で太刀打ちできる相手ではない、神の怒りそのものだ!!」
沿岸警備の兵士たちが、震える膝を必死に叩きながら絶叫する。
水平線の彼方から迫りくる、山脈が動いているかのような絶望的な巨影。
誰もがこの世の終わりを悟った、その時。
真っ白な砂浜に、場違いなほど真っ白な布の山を抱えた聖職者が。 ひょっこりと立っていた。
「……うーん。セリアちゃん、あの怪獣さん、なんだかすごく寂しそうだね」
「レオン様、あれを見て『寂しそう』と言えるのは、貴方だけですわよ!!」
「あんなに大きいのに、怖がられて。力を振るえば振るうほど孤独になるなんて……」
「なんて非効率な存在なんだ。資源の持ち腐れだよ」
レオンは深い溜息をつくと。 抱えていた神聖な魔力で生成された、高圧縮の「神聖因果綿」を天空へと放り投げた。
海獣が咆哮を上げ、巨大な口を開いて街を一飲みにしようとした、その瞬間。
【海洋脅威・無害化改善:ギガンティック・クッション・メイキング】。
レオンが杖を軽く一振りすると、リヴァイアサンの喉元に……。 光り輝く無限の綿が吸い込まれていった。
それだけではない。 彼の魔力は、海獣の硬い鱗を「シルクのような肌触り」へ。
強靭な筋肉を「究極の低反発素材」へと、その定義を根底から書き換えてしまった。
「グ、グオォォ……モッ、モフゥゥ〜ン……?」
街を震撼させた災厄の咆哮が。 一瞬にして愛らしく、間の抜けた声へと変わった。
次の瞬間、荒れ狂っていた波がピタリと収まり。 海面にプカプカと浮かんでいたのは、巨大な「アザラシ風の抱き枕」だった。
体長数キロメートル。 世界最大にして、世界で最も触り心地が良く……。 水に濡れてもすぐ乾く速乾・防汚機能を備えた、巨大なぬいぐるみの誕生である。
「「「………………はぁ?」」」
迎撃のために大砲を構えていた各国の海軍艦隊が、あまりの光景に静止する。
目の前の「災厄」は、もはや街を襲う気など微塵もない。
むしろ、自分の体のあまりの心地よさに酔いしれ……。 海面をベッドにして「モフモフ」と鳴きながら、幸せそうに寝息を立て始めた。
「あ、これなら子供たちの安全な『浮き島』にもなるし」
「巨大な防波堤兼、癒やしスポット。効率的な活用の完成だよ」
レオンが、リヴァイアサンの尻尾を満足げにポンポンと叩く。
新大陸から調査に来ていたエージェントたちは……。 その光景を遠くから眺め、ガタガタと震えながら本部へ緊急連絡を入れていた。
「報告……ッ! 対象の大陸には、海の王を『寝具』に変えてしまう化物がいます!」
「軍事侵略など不可能です、今すぐ帰らせてください……ッ!!」
こうして、海洋の脅威は。 レオンの「ちょっとした手芸」によって。
全次元規模の癒やしアイテムへと、生まれ変わってしまったのである。




