第40話:聖地巡礼の嵐〜僕はただの聖職者(掃除係)ですよ?〜
デスバレーの朝は、かつてない異常な熱気に包まれていた。
村の入り口から広場、果ては裏路地までも埋め尽くしているのは……。 世界各地から押し寄せた「巡礼者」の大群である。
「おお……ここが伝説の聖地デスバレー……」
「一歩踏みしめるだけで、煩悩が浄化されていくようだ……」
「見てくれ、あの石像! レオン様がスコップを構える勇姿!」
「なんて神々しく、効率的なフォルムなんだ……!」
村の至る所には、有志によってレオンの巨大な石像が勝手に建てられていた。
それだけではない。 食堂のカレーは今や『聖体』として崇められ……。
一口食べるごとに信者たちは「救済……至福……!」と叫んで卒倒。 担架で運ばれていくのが、日常風景となっていた。
「……セリアちゃん。これ、すごく歩きにくいんだけど」
レオンが、群衆の隙間を縫うようにして。 使い古したホウキを抱えて現れた。
顔を隠そうとしても、お改善オーラが漏れ出している。
「レオン様、諦めてください。貴方は既にご自身が望むと望まざるとにかかわらず」 「この世界の『神』になってしまいました。もはや誰にも止められませんわ」
セリアは遠い目で、巡礼者たちがレオンの歩いた後の土を小瓶に詰め……。 「聖なる土」として取引している光景を見つめた。
「こら困ったな。みんなが熱心にお祈りしてくれるのはいいけど」
「お供え物の野菜が広場に山積みになって、腐りかけている」
「これは資源の損失、非効率の極致だよ。……みんな、ちょっと聞いてくれるかな?」
レオンが声を上げると、それまで喧騒に包まれていた村が……。 一瞬で静まり返った。
「お祈りする時間があるなら、僕と一緒に村の溝掃除をしよう」
「停滞は淀みを生み、淀みは不衛生を招く。それこそが真の『悪』なんだ」
「さあ、ホウキを持って」
レオンは困惑する巡礼者たちに、魔法で複製したホウキを次々と手渡していった。
「隅々まで掃き清め、水の流れを最適化すること」
「……それこそが、一番の徳なんだよ」
そう言って、レオンが地面を掃いた、その瞬間。
ホウキから溢れ出した神聖なマナが、数十年分のヘドロを瞬時に分解。 そこから、宝石のように透明な水が勢いよく湧き出した。
さらには、周囲に清浄な気が広がり。 巡礼者たちの持病や疲労が、次々と完治していくではないか。
「「「おおおおおっ!! 聖なるホウキの舞だあああ!!」」」
「「「掃除こそが救済!! 溝を清めよ、魂を磨けえええ!!」」」
巡礼者たちは狂喜乱舞し、涙を流しながら溝掃除に励み始めた。
「聖職者様と一緒に掃除ができるなんて、何という誉れ!」
「汚物さえも黄金に輝いて見えるわ! これこそがレオン様の御光!!」
こうして、デスバレーの溝掃除は。 全次元で最も神聖な『大儀礼』へと、昇華されてしまったのである。
「え、僕はただの掃除好きな聖職者なんだけどなぁ」
「まあ、村がピカピカになったし、野菜の廃棄も減ったからいいか」
レオンは、黄金色に輝く水を眺めて、満足げに微笑んだ。
第2部・全次元交流編。 レオンの「ちょっとしたお改善」により……。 世界は平和と、行き過ぎた信仰心、そして完璧な衛生環境を手に入れた。
……だが。 その夜、ユグドラ・ネットに一つの不穏な投稿が流れた。
『【超緊急】新大陸の南端、未知の海域に、巨大な動く影が出現』
『周囲の天候が急速に悪化中。至至急、確認求む』
レオンたちの物語は。 ついに海を越え、未知なる領域への「海洋進出編」へと動き出そうとしていた。




