第38話:村のオリンピック〜全種族混合、大障害物競走の『障害』は黒龍でした〜
「平和すぎて、逆にお互いの力のぶつけどころがなくなってるのかもね」
レオンは、ユグドラ・ネットに流れる最近の書き込みを眺めながら呟いた。
魔界、天界、旧王国、そして新大陸。 全次元の住人が交流し始めたのは喜ばしいが……。 それに伴い、新たな問題が発生していた。
『【悲報】魔族さん、握手しただけで人間の腕を脱臼させてしまう』
『天界の天使、飛行中に新幹線の窓をうっかり割って謝罪』
悪意はない。 ただ、種族ごとの身体能力の桁が違いすぎるのだ。
「エネルギーの余剰は、放っておくと爆発する」
「非効率な衝突が起きる前に、健全に発散できる場が必要だね」
「……よし、ちょっとした運動会を開こう」
セリアは、レオンが「ちょっとした」と言った瞬間の空気が歪み……。 因果律が震える現象に、もはや驚くことさえ忘れていた。
▽ ▽ ▽
次の日。 デスバレーの端に、規格外のスタジアムが完成した。
第1回全次元交流運動会『デスバレー・オリンピア』。
「……さて、本日のメインイベント」 「『全種族混合・大障害物競走』を開始します!」
レオンのアナウンスが響き渡る中。 スタートラインに並ぶ顔ぶれは、それだけで歴史書が書けるほど豪華だった。
フリフリのネグリジェ姿の魔王リリス。 白いシャツの袖を捲り上げた、元勇者アレクサンド。
そして、天界から参加した老賢者ゼノン。
「負けないわよ! 最強の魔王が、村のパン食い競争で負けるわけには……!!」
「私は……私はこの脚で、レオン様の背中を追い越すのだぁぁ!!」
アレクサンドの叫びは若干ズレていたが、気合だけは十分だった。
号砲と共に、地面を陥没させるほどの爆速で駆け出す参加者たち。
だが、彼らの前に立ち塞がった『最大の障害物』に……。 観客席の王族や神々が、一斉に総立ちになった。
「えー、コースの後半は」
「お昼寝中のクロさんの背中を渡り……」
「鼻の穴を通り抜けてゴールとなります」
「「「………………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」
そこには、山脈と見紛うばかりの巨体で。 グーグーと巨大な鼻提灯を膨らませて眠る、黒龍クロの姿があった。
伝説の終焉を司る龍を「障害物」扱いするというレオンの暴挙。
だが、レオンが付与した【完全安全・不殺競技フィールド】により。 クロの鋼鉄の鱗は「適度なグリップのアスレチック壁」に。
その強力な鼻息は、「空中に留まるための適度な風圧」へと、完全に改善されていた。
「クロさん、背中ちょっと失礼します!」
「うわっ、鼻提灯が割れた! 粘液で滑るぞ!」
「私よ! 魔王の秘技『黒のヌルヌル展開』よ!」
リリスが汚い手を使えば、アレクサンドは「正しい重心移動」で駆け上がる。
ゼノンはエルフの少女と手を繋ぎ……。 浮遊魔法をスポーツ用にデチューンして、クロの鼻の穴へとダイブした。
シュポーンッ!!
クロが「ふしゅっ」とくしゃみをした拍子に……。 入賞者たちが大気圏外まで吹き飛ばされたが。
数分後には、「いい景色だったわ!」と全員が流星のように戻ってきた。
「うん、みんな良い汗を流してるね。スポーツってやっぱり素晴らしいよ」
優勝賞品の『レオン特製・肩たたき券』を巡って。 神と魔王が文字通り泥まみれで争う姿を見て、レオンは満足げに頷いた。
競技を通じ、参加者たちは気づけば相手を認め合っていた。
魔族は人間の粘り強さを。 人間は魔族の圧倒的なパワーを。
「怖い」ではなく「凄い」と、笑い飛ばせるようになったのだ。
こうして、全次元のわだかまりは。 レオンの「ちょっとした運動会」によって、あっけなく解決してしまったのである。




