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第36話:学校建設〜暴力よりスコップ、聖剣より鉛筆〜

「将来はアレクサンド様みたいな、最強の勇者になるんだ!」


「オリャー! 悪い魔王をぶっ飛ばせ!」


デスバレーの透き通るような青空の下。 子供たちが木の枝を聖剣に見立てて振り回し……。 元気いっぱいに「勇者ごっこ」をして遊んでいた。


その中心で、かつての勇者……。


もとい、今は「白いシャツの洗濯とアイロンがけを愛する男」となったアレクサンドが。 子供たちに囲まれて苦笑いしている。


「ははは、みんな元気だな。だが、人を叩くときは加減を忘れるなよ?」


そんな微笑ましい光景を、中庭の木陰から眺めていたレオンの表情は……。 いつになく真剣に沈んでいた。


「……セリアちゃん。これは大変だよ。根深い教育の歪みを感じる」


「え? 何がですか? 子供たちが元気で、勇者様もすっかり村の人気者」


「これこそ平和の象徴ではありませんか」


セリアは不思議そうに小首を傾げた。


「ダメだよ。暴力で物事を解決しようとするなんて、エネルギーの浪費もいいところだ」


レオンは深く、重い溜息をついた。


「魔王を力でぶっ飛ばすのに使うカロリーを」 「もし魔王と一緒に温泉を掘るために使えたら……」


「その後の数十年、どれだけ高い生活の質を維持できるか」


「計算するまでもないよね。非効率すぎるよ」


「もっとこう、論理的で、平和で、生産的な生き方を教える場が必要だ」


「……よし、ちょっとした『学び舎』を作ろう。未来のデスバレーのためにね」


     ▽ ▽ ▽


次の日の朝。 村の中央広場の隣に、白亜の巨大学舎が突如として出現していた。


眩い大理石の壁には、自動で最適な室温を保つ魔導回路が刻まれ……。 教室には座るだけで集中力がアップする、低反発の魔導椅子が並んでいる。


【全自動知識移植型教育施設:アカデミー・オブ・レオン】。


レオンは、開校式の看板を眺めて呆然としているアレクサンドの肩を。 ガシッと力強く掴んだ。


「アレクサンド君。君は今日から、この学校の『平和・対話学』の主任教授だ」


「あと、放課後は『正しいシャツの白さを守る会』の顧問も兼任してね」


「は、はぁ!? 教授!? 私は聖剣を振ることしか知らない男だぞ!?」


「教育なんて、そんな高尚なこと……!」


「大丈夫。僕が作ったこの『ただの教科書』を読めば、誰でも名教師になれるから」


レオンが手渡した薄い本。


だが、アレクサンドがそれを開いた瞬間――。


挿絵の魔法陣がホログラムのように飛び出し……。 難解な古代魔導力学の数式を、アニメのような分かりやすさで解説し始めた。


「な、なんだこれは……!? 宇宙の真理が、まるで子供の遊びのように……!」


数日後。 デスバレーに極秘視察に訪れた、隣国の教育担当官たちは。 その光景を見て腰を抜かした。


「ば、馬鹿な……! あの七歳の子供たちが」


「国家機密レベルの空間転移術について、おやつを食べながら議論しているだと……!?」


「それに、あの先生を見ろ!」


「『聖剣の輝きよりも、磨き上げた洗濯機のドラムの方が内面的な光を放つ』と……」


「狂信的な聖者のような顔で説教しているぞ!!」


子供たちは、もはや木剣を捨て、スコップや鉛筆を手に取っていた。


放課後の校庭では、魔族の子供と人間の子供が肩を並べて。 レオン流の「効率的な穴掘り」と「正しいマナー」について学び合っている。


「暴力はコスパが悪いもんね! 殴るより、ジャガイモを作った方がみんな喜ぶよ!」


「そうだね! 喧嘩する時間は、温泉の入浴時間に回すべきだよね!」


「うんうん、みんな物分かりがいいね。教育ってやっぱり素晴らしいよ」


レオンは、校舎の窓から溢れる子供たちの笑い声を満足げに聞きながら。 新しい「全自動消しゴム」の開発に取り掛かった。


レオンの「ちょっとしたお教室」は。 一瞬にして世界の知的水準を数百年分スキップさせ……。


デスバレーを「全次元最高の知の聖地」へと、変貌させてしまったのである。

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