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第3話:伝説の神薬と究極の飯〜死にかけの獣人少女がメイドになるまで〜

毎日 07:10、12:10、17:10、19:10 、21:10  に1話ずつ

5話投稿目指して頑張っていこうと思っているので

よろしくお願いします

血だらけになって倒れたのは、光沢のある美しい銀色の髪と、犬のようなふさふさの耳を持った少女だった。 年の頃は十五、六だろうか。


「おいおい、大丈夫か!? 酷い怪我だぞ……!」


俺は慌てて露天風呂から上がり、倒れた少女をヒョイと抱きかかえた。


軽い。とても軽い。 食事すらまともに与えられていなかったのだろう。


獣人族のようだが、体中には鞭で何度も強く打たれたような痛々しい生傷があり、息も絶え絶えだった。


この国――いや、人間の国々において、獣人は「魔力を持たない下等種族」としてひどい扱いを受けていることが多い。 奴隷商人に捕まり、過酷な肉体労働や理不尽な暴力の対象となることも珍しくないのだ。


彼女の小さな手首に残った鉄枷の痕が、悲惨な過去を物語っていた。


「死にかけてるじゃないか。回復薬を持っていたはずだ……あったあった」


俺は急いで家の中のリビングへ走り、フカフカのソファに彼女を寝かせる。


そしてマジックバッグを漁り、以前暇つぶしに『世界樹の葉』を錬成して抽出した「特製ポーション」を取り出した。 綺麗なエメラルドグリーンに輝く、とろりとした液体だ。


『世界樹』といえば、神話の時代から続く神聖領域の奥深くにのみ存在し、そこに至るまでに数多のSランク魔物を相手にしなければならない伝説の植物。 その葉が一枚あれば、小国が一つ買えると言われている。


俺はたまたま昔、王立書庫の古い魔導書から葉脈パターンを読み取り、マナを練り上げて「錬成」してみただけだった。


「はい、飲めるかな」


そんな国宝級の液体を、俺はただの木のコップに注ぎ、そっと彼女の口に含ませた。


こくりと喉が鳴る。


すると、一瞬で彼女の体の鞭の傷跡が塞がり、失われた血液も補填され、青白かった顔色が見る間に健康的な桜色を取り戻したのだ。 効果覿面である。


     ▽ ▽ ▽


「……ここは……」


セリアは、ゆっくりと目を開けた。


彼女の視界に最初に映ったのは、真っ白で汚れ一つない洗練された天井と、王国の王城にすらなかったような豪華でふかふかなソファだった。


そして、自分を見下ろす穏やかな顔の青年だった。


「あ、あの。私……死んだのでしょうか? ここは天国?」


「いや、バッチリ生きてるよ。俺の家の庭先で倒れてたから保護したんだ。気分はどう?」


「生きて……」


セリアは自分の体を見て驚愕した。


奴隷商人の馬車から逃げ出し、デスバレーの毒を含んだ風と棘のある植物に切り裂かれ、死にかけていたはずの傷跡が、跡形もなく消えている。


そして、枕元に置かれたコップの底に残ったわすかな緑色の液体の、とんでもなく濃厚で神聖なマナの匂いに気づいた。


(これ……まさか、おとぎ話でしか聞いたことがない『神薬エリクサー』!? 死者すら蘇らせるという伝説の薬を、こんなただの木のコップに入れて……!?)


銀狼族は、嗅覚もそうだがマナの揺らぎに極めて敏感だ。 だからこそ、セリアは理解してしまった。


目の前の青年から発せられる魔力が、デスバレーの大地のそれすら凌駕するほど規格外の次元にあると。


(このお方は、きっと人間の姿を借りた神階級の御方に違いない……!)


セリアは恐縮のあまり、ガタガタと震え出した。


「おっ、寒いのか? お腹、空いてるでしょ? 今、何か温かいもの作るよ」


青年――レオンは彼女の震えを勘違いしたまま、そう言って鼻歌交じりにキッチンに向かった。


数分後、テーブルに並べられたのは、香ばしい匂いを立てる分厚いステーキと、綺麗な純水で炊いたご飯だった。


「美味しそう……頂きます」


セリアがおそるおそる肉を一口食べた瞬間、体の中に爆発的な活力が溢れた。


「っ!? な、なんですかこのお肉!? 強烈なマナが凝縮されていて、一口で力が何倍にも……!」


「ああ、それね。昨日の夜、庭の柵に引っ掛かってた『デス・ベア』のお肉。ちょっと量が多いから余り物なんだけど、美味しいよね」


セリアは本気で泡を吹きそうになった。


デス・ベア。Aランク指定の災害級魔物。 数千人の屈強な獣人戦士で挑んでも勝てるかわからない悪夢の獣。


それを「柵に引っかかってた余り物」と評するこの神様は、もはや彼女の理解の範疇を超えていた。


「美味しいです……こんなに優しくされて、美味しいものを食べたの……生まれて初めてです……」


セリアは大きな瞳からポロポロと涙をこぼしながら、出された食事を綺麗に平らげた。


食後、セリアはソファから降りると、意を決したようにレオンの前に平伏した。


「私、セリアと申します! 命を救っていただき、さらに神獣のお肉まで与えてくださった御恩、一生忘れません! どうか、私をこの家の召使いにしてください!」


「えっ、召使い? そんな大げさな……まあ、一人暮らしも寂しかったし、庭の掃き掃除くらいならお願いしてもいいけど」


「はいっっっ!!!」


かくして、俺のスローライフに奇妙で元気な同居人が増えたのだった。


     ▽ ▽ ▽


一方その頃――。


レオンを追放した勇者パーティーは、最初の作戦行動である『黒の森』の野営にて、地獄の釜の蓋が開くのを見ていた。


「おい! 魔法士! 結界が破られたぞ! また夜襲だ!!」


「無理ですわ! 魔導布が破れて固定できません! なぜ昨日まで安定していた結界がこんなに脆いんですの!?」


「いやよ! シャワーもないし、泥だらけのテントだし、ご飯もカッチカチの干し肉だけだし! もうこんなの耐えられないわ!!」


勇者アレクサンドは、剣の刃こぼれを研ぐ魔導スライサーが動かないことに苛立ちながら、夜の森に怒鳴り声を響かせていた。


レオンの「魔法陣と金さえあれば誰でもできる」はずの雑用が、実は神話級の技術によるものだったと気づくまでに、彼らのストレスは限界に達しようとしていた。

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