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第29話:真の魔王〜怨念は、漂白剤で落ちます〜

「……あ、あはははは!!」


「綺麗だ! みんな、みんなレオンに、あの偽物の聖職者に魂を買い叩かれて!」


「豚のように肥え太って、泥にまみれてヘラヘラと笑っている!!」


デスバレーを囲む、天を突くような峻険な外壁の上。


かつての輝ける勇者、アレクサンドは……。 もはや人間の形をかろうじて保っているだけの、「虚無」と「怨念」のドロドロとした魔力塊へと完全に変貌していた。


彼は世界の因果の裏側に封印されていた、数千年前の神代の闇を自らの肉体に無理やり宿した。


彼の周りでは、触れるもの全てを即座に腐食させ、塵に帰す黒い泥のような波動が溢れ出し……。 デスバレーの黄金のマナを黒く侵食し始めていた。


「なら、私が……私が本当の正義のために、この汚れきった紛い物の楽園を消去してあげるよ」


「……見ろ、これが世界のゴミを掃除する、真の魔王の力だ!!」


彼が虚空に手を振り上げると。 空に漆黒の巨大な太陽が出現し、世界を絶望の闇へと塗り替え、全ての命をゼロに回帰させようとする。


だが、そんな災厄を前に、レオンはひどく残念そうに、そして少しだけ叱るように眉根を寄せていた。


「……アレクサンド様。ダメだよ、そんなにドロドロの頑固な汚れを、せっかくの綺麗な空に撒き散らしちゃ」


「昨日、みんなで頑張ってお掃除をしたばかりなのに」


「黙れ! この偽善者が!」


「お前の姑息なチートなど、この根源的な『虚無』の前では何の意味も持たん!」


「消えろ、私の屈辱と共に消え去れぇぇ!!」


山をも溶解させ、魂を抉る闇の波動が、デスバレーの平穏な街並みを飲み込もうと、巨大な津波となって押し寄せる。


しかし、レオンは驚くべき……もはや戦いという概念を捨てた対応を取った。


彼は腰に巻いたエプロンの紐をキリリと締め直すと。 特大の「聖なる洗濯桶」と、神聖タワシを取り出した。


「セリアちゃん、あそこの汚れは普通の魔法原液じゃ落ちないよ」


「……よし、この特製『銀河級成分配合・次元漂白剤』を投入して、徹底的に『お洗濯』してあげよう」


【極点浄化:銀河級超全自動・叩き洗い洗浄コスミック・クリーニング】。


レオンが空中に、虹色に輝く無数の「マナの泡」を発生させた。


世界を消滅させるはずの「絶望の黒球」が……。 レオンの手によってまるでおもちゃのようにヒョイと素手で掴み取られ、そのまま洗濯桶の中へと投げ込まれた。


「ちょ、ちょっと待て! 離せ!」


「私の闇を、私の高貴なる……数万年分の怨念を洗おうとするな!!」


「泡が、泡が隙間に入って……染みるぅぅぅ!!」


「ダメだよ、こんなにししつこい泥汚れは、ただのつけ置き洗いだけじゃ芯まで落ちないからね」


「……ほら、首のあたりの執着も、パキパキに剥がして綺麗にしてあげるから」


レオンが空間そのものを洗濯板のように扱い……。 魔王アレクサンドの「存在の中心」をゴシゴシと力強く、情熱的にこすり洗いしていく。


マナの泡がパチパチとはじけるたびに、アレクサンドにまとわりついていたドロドロとした怨念や呪いが……。 まるでマジックショーのように霧散し、純粋な光へと還元されていった。


数分後。 そこには、漆黒の魔王の姿は塵一つ残っていなかった。


かつての傲慢な黄金の鎧も、異形の怪物のような肉体も……。 そして心の深淵にこびりついていた真っ黒な憤りも、レオンの「究極のお洗濯」によって、文字通り真っ白に洗い流されていた。


アレクサンドは、清潔なお日様の匂いと柔軟剤の香りが漂う、着心地最高の「白いシャツ」を身に纏い……。


憑き物が落ちたような、どこか十五年前の少年に戻ったような顔をして、地面にポツンと座り込んでいた。


「……あ。……あれ」


「私の、私の怒りは。世界への復讐は……どこへ行ったんだ……?」


「あ、スッキリしたね。もう汚れちゃダメだよ?」


「はい、これお風呂上がりのキンキンに冷えたコーヒー牛乳」


レオンがニコニコと差し出した瓶を、アレクサンドは無意識に受け取り、その冷たい水滴を手で感じた。


一口飲むと、あまりの美味しさと心の平穏に、彼は思わず大粒の涙をこぼした。


「……あたたかい。それに、すごく……すごくいい匂いがするんだ、レオン……」


アレクサンドが背負っていた数千年の負の遺産までもが、レオンの「ついでのお掃除」によって完全に消滅した。


これにより、歴史上何度も繰り返されてきた「魔王と勇者」という名の非効率な対立システムは……。 この世界から完全に浄化されたのである。


「よし! これで大掃除も終わりだね」


「セリアちゃん、明日は天気もいいし、みんなでピクニックに行こうか」


「……あ、アレクサンド君も、もし良かったらお弁当作るけど、来る?」


「……あ。……あ、ああ。……行く。……行くよ、レオン」


かつての宿敵が、一人の「洗濯したての若者」として救われた瞬間。 デスバレーの空には、かつてないほど高く、かつ輝かしい七色の虹が架かった。


物語は、レオンがもたらした「世界規模の改善パーフェクト・ピース」に包まれ、いよいよ最終回へ。

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