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第26話:帝国侵攻〜安全第一、オモチャは柔らかく〜

神聖ロザリア王都を蹂躙し、大陸の一半を支配下に置いた軍事大国・オーディン帝国。


その大陸最強を自負する軍勢が今、地平線を冷徹な鉄の色で埋め尽くし……。 禁忌の地デスバレーの国境へと音を立てて迫っていた。


「……クックック」


「商人ギルドの腰抜けどもまで屈服させたという魔王の隠れ里……」


「この帝国の誇り『空飛ぶ鉄造戦艦』の魔導砲火の前にどれほど耐えられるかな?」


旗艦の甲板で、金色の飾緒を揺らしながら冷酷に微笑むのは、魔導将軍ウルリック・フォン・アイゼン。


最新鋭の魔導技術を詰め込んだ百隻の空中艦隊。


一機で城壁を粉砕する重厚な魔導鎧『オーディン式三型』を纏った五万の精鋭魔導騎士団。


大陸最強を掲げる帝国軍は、もはや勝利を疑っていなかった。


「将軍! ターゲット、目視で確認! デスバレー中央の巨大な神樹……あれが噂の世界樹です!」


「魔導炉出力全全開、全門斉射用意!!」


「撃て」


「神の慈悲を、その甘い夢を見続ける楽園に、絶望の火蓋と共に叩き込んでやれ」


ウルリックの冷徹な号令と共に、百隻の空中戦艦の砲口が、どす黒いマナの光を溜め込み……。


世界の終焉を告げるかのような重低音が大気を激しく震わせた。


だが、その絶望的な光景を……。 村の高台から超高性能双眼鏡でのぞき込んでいたレオンは、別のことを切実に心配していた。


「……うわぁ、すごい。あんなに尖った鉄の塊を空にたくさん飛ばして……」


「もしバランスを崩して落ちてきたら、村の下の広場で遊んでる子供たちが怪我しちゃうじゃないか」


「レオン様、あの……」


「あれは遊び道具ではなく、我々を物理的に根絶やしに来た帝国の最終破壊兵器なのですが……」


元・王女セリアが、もはや伝統芸能となったレオンのピントのズレに遠い目をしながらツッコむ。


だが、レオンの思考は既に「村の安全対策」という、ある種神の視点へと飛んでいた。


「だめだよ、セリアちゃん。あんなにトゲトゲしていて、火を吹く硬いオモチャは……」


「もっと柔らかくて安全な素材で作らなきゃ」


「……よし、村の安全規制ガイドラインに合わせて、僕がちょっとだけ『改善』してあげよう」


レオンは深く溜息をつくと。 迫りくる艦隊に向け、慈愛(と呼ぶにはあまりにも残酷な力)を込めて、そっと右手のひらをかざした。


【全広域物質組成変更:チャイルド・セーフティ・モード】。


その瞬間。


ウルリックが「全門、発射!」と咆哮した直後。 旗艦の甲板から響き渡ったのは、天地を裂くような爆発音ではなかった。


ポヨォォォン……! プ、プーッ! パフッ! キュッキュッ!


「……な、……は? 何だ!? 何が起きている!!」


ウルリックが驚愕して足元を見ると。


先ほどまで漆黒の鋼鉄だった戦艦の甲板が。 突然、鮮やかなピンク色の「ふかふかのゴム素材」へと完璧に変質していた。


凄まじい反発力により、将軍である彼は天井に向かってポーン、ポーンとマ抜けに跳ね上げられた。


慌てて外を見上げれば……。 そこには地獄を体現したはずの百隻の無敵艦隊はなく。


代わりに色とりどりの巨大な「ゴム風船」や、お風呂で浮かべる「巨大なアヒル」のようなシュールな物体が浮遊していた。


「しょ、将軍! 魔導砲が……」


「魔導砲から『花吹雪』と『侵略お疲れ様!』と書かれたくす玉が飛び出しましたぁぁ!!」


「貴様ら、地上部隊はどうした! 魔導鎧兵、直ちに出撃してターゲットを制圧せよ!」


「だめです! 騎士たちの重厚な鎧が、突然『パステルカラーのクマさんの着ぐるみ』に強制変貌し……」


「剣の代わりに光るスポンジの棒を持たされています! 叩いても『ポヨポヨ』と音がするだけで、地上のアリ一匹殺せません!!」


砂塵を巻き上げ、大地を揺るがして突進するはずだった五万の最強軍勢。


だが、戦場に響き渡るのは。 着ぐるみの足の裏が地面に触れるたびに鳴る「キュッキュッ」「プーップーッ」という、愛らしいハーモニーだった。


「わぁー、みんな可愛いね!」


「セリアちゃん、あそこの着ぐるみさんたち、この日差しだと暑そうだから……」


「村の温泉チケットとアイスを配ってあげようか。みんなで遊ぼう!」


ニコニコと慈悲深い笑顔を浮かべながら……。 不時着した「アヒル型戦艦」の旗艦から転がり落ちたウルリックに、レオンが駆け寄った。


「き、貴様ぁ……っ!! 我が、我が帝国の誇る魔導科学の結晶を……!」


「国家予算の三百年分を投じた究極の破壊兵器を……!」


「本物のオモチャに……、単なるお遊びに変えたというのかぁぁ!!」


将軍ウルリックは、ピンク色のゴムの床の上でマ抜けにバウンドし続けながら……。


積み重ねてきた自尊心と帝国の栄光が「安全対策」という理不尽な善意に蹂躙された絶望に、泡を吹いて卒倒した。


大陸最強を掲げた軍勢は。 レオンの「過剰な配慮」という名のチートによって、ただの『遊び相手』へと作り変えられたのである。


「聖職者レオンに、物理的な暴力は一切通用しない」


「なぜなら、彼に目をつけられた最新兵器は、コンマ数秒後にはただの『安全なオモチャ』に作り変えられるからだ」


だが、この天真爛漫な喜劇の裏側で。 王都の最深部、暗い魔導地下室で血走った目を見開く男がいた。


「……物理が効かぬというのなら、神の法、因果の力を借りるまでだ」


「……堕ちろ、光の神よ。私に、アイツを消し去るための究極の裁きを……ッ!!」


勇者アレクサンドは、己の魂を薪にし。 ついに禁忌の最高位魔法『神降ろし』の魔法陣に身を投じる。


物語は、レオンの「常識外の改善」と、勇者の「狂気じみた嫉妬」が真っ向から衝突する。 全三十話の最終決戦へと向かって、狂ったように加速していく。

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